銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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147『待ち伏せ』

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銀河太平記

147『待ち伏せ』メグミ  




 ズッボオオオオオン!


 ゴジラがうがいをしている最中にキングコングか何かに腋の下をくすぐられたらこうなるどだろうという勢いで海水が噴き出す。

 ドゴゴゴゴーーーン!

 洗鉱用の海水タンクを爆破して500トンの海水を一気に放出した!

 A鉱区の崖下を北に走っていた漢明兵がまとまって隘路の岩や崖に叩きつけられる。ロボット兵だから溺れることも無ければ、岩に激突しても死ぬわけでもない。

 しかし、文字通りの鉄砲水に翻弄されて転がる様は、お岩さんの手に掛かって洗濯機改造の皮むき機で皮を剥かれる芋のようだ。

 食堂なら、そのまま大きなザルに拾い上げられ、巫女服にタスキ掛けのハナによってスライスされたりザックリ切られたりしてお惣菜の具やフライドポテトになる。

 その巫女服のハナが崖の上で目覚まし時計のネジを巻くようにスイッチを入れる。

 ドッカーーーーン!

 五十メートルほどに渡って崖が崩れ、崖下の芋たちの上に降り注ぐ。

 ドドドドド ドドドドド ドドドドド

 初速の遅いパルス機関砲だけど、岩に挟まれたり、体がブチ切れたロボット兵を粉砕するのには十分だ。

 敵は粉砕、攪拌されて粉々になり、もう戦場の応急手当や修理では間に合わないくらいに破壊される。

 沖の工作艦も、ついさっきナバホ、フートン混成部隊によって轟沈させられたから、ボディーの換装もできない。将校なら、国防省のサーバーに残っているデータとソウルで復元されるだろうが、一般兵たちは、これでお終い。

 その将校たちも、出撃前の状態でしか復元できないだろうから、この戦闘で勝ち取った経験や知識は無駄になる。



「二人残ってるぞ!」



 お岩さんが飛び出すのに倣って、わたしも跳躍。遅れている方の将校を始末に掛かる。

 シュイン!

 横ざまに振るうパルスナイフは目くらまし。敵がのけぞった隙に後の岩で反動をつけ、背後にまわったところで勝負!

 四年前は、この動きで火星の修学旅行生からパスポートを掠め取った。

 今度はソウルを頂く。

 グシュ!

 パルスナイフを延髄に突き立て、瞬間1万パルスの波動を流しつつグキっとえぐる。

 ロボット殺しの必殺技だ。電脳とボディーのリレーを切ると同時に電脳そのものを破壊する。

 刃先がリレーをえぐり切るコンマ一秒。その間に敵のデータが少しだけ読める。

 わたしの特技は細胞レベルの擬態。天狗党にスカウトされて、その能力を増幅させるためにブースターを埋め込んだのが役に立つ。

 胡盛徳大佐

 連隊長ではあるが、任務の目的は――島の制圧――としか記憶されていない。

 実行部隊は捨て駒。敵軍は、状況次第で陽動部隊にも攻撃主力にもできるように設定しているようだ。

「ハナを!」

 お岩さんは、完全にデータを読むつもりだ。止めを刺さずに情報を読んでいる。

 読みながらも、ハナのことを心配してるんだ。

 嫌な予感。

 崖を駆け上がると、首の半分を吹き飛ばされて朱に染まったハナが転がっていた。

「ハナ!?」

 確かめるまでも無い、直撃だ。

 死んだ自覚もなかっただろう、半分残った顔は、当たりくじを引いた子供のように笑っている。

 かわいそうに……(-_-;)

 千切れた巫女服の袖を顔にかけてやる。

 南無阿弥陀仏

 天狗党で憶えた念仏を唱えてやる。こいつもココちゃん(心子内親王)といっしょに火星に逃がしてやるべきだったか……島では人の詮索はしない。

 野生児みたいな少女で、こんな戦闘ぐらいでは死なない奴だと思っていたが、やはり、リアルな戦争では何が起こるか分からないもんだ。

「……ちょ……起こして……」

 え?

 モゾモゾと身じろぎするハナ……動く方の左手が、わたしの膝にかかって力が入る。

「ハナ…………あ、あんた、ゾンビ?」

「ゾンビ?」

 袖の千切れがずり落ちて、こっちを向いた顔は半分になってしまっているけど、いつもの元気印のハナだった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

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