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136『氷室神社の賽銭箱』

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銀河太平記

136『氷室神社の賽銭箱』お岩  




「こら、しっかり持たんかい!」

「ちょ、二人じゃ無理だって!」

「いい若いもんが情けねえぞ」

「ああ……やっぱりダメだ!」

 ドサ!

「この、バチアタリめ!」

「なんで、他の奴らにも手伝わせねーんだ!」

「『任しとけ』って、腕まくりしたのはおめえのほうだろが」

「とにかく、ちょっと休憩させろ」

「これで三回目だぞ」

「さっきのはノーカンだ、ジジイだって、足止めて見てたじゃねえか」

「じゃ、五分だけだ。ぐずぐずしてっと、みんな戻ってきちまう」

「ああ、了解……」



 手伝ってやろうと思ったけど、面白いので黙って見ている。



 氷室神社の神主に収まったシゲ爺が、鉱山技師時代の助手のサブを使って新しい賽銭箱を運んでいるところだ。

 神社を作ったのは、シゲ爺としては、いいところに目を付けたと思った。

 日本人は、やっぱり、みんなが手を合わせて、祈ったりお願いしたり感謝を捧げる場所が必要なんだ。

 そして、それは、西之島の他の島民たちからも尊崇されるようなものが望ましい。

 南の海を臨む岩の上にお地蔵様ほどの祠を載せて(シゲ爺は建てたというが)拝殿として、その前に拝殿と比べて全然不釣り合いなLサイズの鳥居が立っている。

「バランス悪くないか?」と聞いたら「いや、本殿は、この海と空だからいいんだ!」とうそぶいた。

 御祭神は、うちの社長のご先祖『秋宮空子内親王殿下』らしい。

 大仰なことや晴れがましいことが苦手な社長は「勘弁してください(^_^;)」だったらしいが「本殿は海と空じゃ」とかごまかした。

 じっさい、営業を始めると(「営業なんていうな!」と怒られたけどね)鳥居というのは、二百年前には世界的に認知されたホーリーシンボルだからね。関帝廟やトーテムポールなんかよりは、うんと集客力がある。

 最初はミカン箱ほどの賽銭箱だったけど、それでは間に合わないくらいの参拝客がありそうで、急きょ大きいのを作って、サブといっしょに運んでいるというわけさ。



 で、その集客、いや参拝客というのは、神社の先の岬の方に集まっている。



 この一か月、島を包囲していた漢明の艦隊が、故障艦の洛陽を残して消えてしまった。

 小型艦や輸送船も引き上げてしまったのだから、全面戦争を覚悟していた島のみんなは驚いた。

 市役所の及川市長からは「上陸していた陸戦隊も引き上げました!」と喜びの電話があった。

 島の食堂と銀行を預かる身としては、島の安寧が第一だ。

 状況を確認するには、自分の目に限る。食堂をハナ、銀行をパチパチの二人に任せ、こうやって電波塔の上から見ているわけさ。

 岬の野次馬は、納得するのに、もう少し時間がいるだろう。

 日本政府の救援は望み薄で、明日にでも全面戦争になりそうだったんだから無理もない。

 ほとんどの者が、望遠鏡を覗いたり視力そのものをズームして洛陽と、その周辺を窺っている。

 探査能力のあるロボットたちは海に半身を漬けてソナーで海の中まで探っている。

 納得したら、ほとんどの者は、この氷室神社の前を通る。鳥居が目に入れば、お礼参りに、けっこうな人数が押し寄せるだろう。



「お岩! そんなとこに居るなら、ちょっと手伝え!」



 やっと気が付いた。

 まあ、お賽銭は回りまわって銀行にやってくる、そろそろ手伝ってやるか。

 

※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 
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