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130『件の露頭でシゲさんと再会』

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銀河太平記

130『件の露頭でシゲさんと再会』心子内親王  




 火星には二十幾つの国があって、その全てが地球の国々にルーツがある。

 元をただせば、地球の国々の植民地や入植地だったところが発展して国になったからだと中学部で習った。

 扶桑は日本 マス漢は漢明(中国) 連合国はアメリカ という感じ。

 高等部では――国連(第三次国連)の精神で火星政府を作っていれば無駄な戦争などしなくて済んだ!――と、世界史の先生が息巻いていた。

 先生の言う通り、火星では二度の大戦争が起こり、直近のマース戦争では大勢の犠牲者が出た。

 わたしの立場から先生に反論するわけにはいかなかったけど、違うと思う。

 地球でも二十年前の満州戦争を始め、紛争や戦争が絶えない。けして火星の見本になれるようなものじゃないと思う。

 先生たちだって、組合が三つもあって、去年は内ゲバで若い先生たちに負傷者まで出ている。

 バカなマスコミが、たまたま東京駅で出くわしたシゲさん(森ノ宮茂仁親王)にインタビューした。

『若いころに左翼闘争に走らない人は情熱が足りないでしょ』

 皇族らしからぬ答えを引き出して、マスコミはシゲさんを、進歩的皇族だと賞賛した。シゲさんは――ピュアな情熱があるからこそ殴り合いにもなるんでしょう――と笑顔で感想を締めくくった。

 なんて答えをするんだ! 正直ビックリしたわ。

 でもね、伯母さんはニヤニヤして、こう教えてくれた。

『それは、チャーチルの言葉をもじってるのよ。チャーチルのその言葉には後半があってね「大人になって左翼から抜けられない奴は知恵が足りない」って続くのよ』

 いやはや、一筋縄ではいかない人なんだと感心したわ。



「この岩の向こうが現場のようでござる」

 ナビをインストールしたサンパチさんの案内で、いよいよ現場は目前。

「御城下では分からなかったけど、扶桑の国も、この辺りまで来ると荒涼としているわね」

 火星では、雑草でさえ人が面倒をみてやらなければ生えることが無い。

 府道を外れて二キロあまり、人工的な草原もまばらになって、この先は人類未踏の頃の火星と変わりがないらしい。



 あれ?



 岩をまわってすぐに件の露頭は見えてきたんだけど、ハンベのナビが示すそこには先客が跪いていた。

 ささやかだけど、お花を捧げて、お線香の煙が立っている。

「先客のようでござるな」

「ちょっと待っていましょうか」

 声が届く距離じゃないんだけど、その人は、ちょうどのタイミングで立ち上がった。



 え……シゲさん!?



 たったいま、思い出していたシゲさん本人がリアルに居るのでビックリしてしまった!

「あ……いやあ! キミは、ココちゃんではないですか!」

 シゲさんも、わたしに気が付いて、ドスドスト走ってきた。

「ビックリした! シゲさん、火星にいたんですね!?」

「そっちこそ、西之島に住み着いたって、それで、沖縄に用事で行って事故に遭ったとか、僕は信じていなかったけど」

「シゲさんこそ、伯母さんが心配してましたよ」

「え、陛下が……」

 やっぱり、伯母さんのことになると、この人は真顔になる。

「また、なにか悪だくみしてるんじゃないかって」

「あ、あはは、御即位の前は、陛下にも悪戯しましたからねえ(^_^;) あれこれ落ち着いたらお知らせするつもりではいたんです。こちらの美少女は?」

「西之島で同じラボに居たサンパチさんです」

「これはこれは(#⊙ꇴ⊙#)」

「シゲさん、目つきがあぶない(^_^;)」

「西之島の住人サンパチでござる」

「え(?△?)」

 見た目とのギャップにビックリするシゲさん。

「汎用作業機械でござる。人でもロボットでもござらぬのでご承知おきを」

「はあ、こちらこそ、ココちゃんの親類の茂仁です」

 サンパチさんはロボットのように並列化されていないので、島外の人はネットで繋がっていないハンベを見るような、自分の敷地からは外に出ない車を見るような奇妙な感じがするらしい。

「シゲさんも、お参りに来たんですか?」

「うん、あれを発見したのは僕なんでね、毎月発見した日にはお線香をあげにくるんだ」

「発見者はシゲさんだったんですか!?」

「まあね、公式には旅行者が発見したことになっている。僕が火星に居ることは内緒だからね」

「わたしと一緒ね」

「まあ、今のところは深く考えないことにしている」

「ですね」

「それよりも、ココちゃん、さっきの速報は見た?」

「あ、そう言えば、ハンベが速報のアラーム……」

 自分のハンベを見る前にシゲさんが、すごいことを言った。

「日本と漢明国が戦争になっちゃったね……」

「え!?」

 起動したハンベは、西之島を巡って日漢の紛争が起こったことを知らせていた……。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)



   
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