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126『上様のたくらみ』

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銀河太平記

126『上様のたくらみ』ミク  




 いや、驚かせてすまない(〃▽〃)。


 隠れん坊で見つかってしまったみたいに照れる上様は、無礼を承知で言うとかわいい。

 生まれながら将軍になることを運命づけられていらっしゃるので、将軍としてのお振舞は御幼少のころからの躾けと自己教育で、とても凛々しく、天晴れニ十三世紀の征夷大将軍。

 でも、将軍という立場を離れてのお振舞、特に、微妙にルールを離れたところでは、少年のようにおなりになる……というのは、老中で退官したお祖父ちゃんの弁。まあ、やっと公務に就かれたばかりの青年将軍のころの話だと思っていたけど、いまもお変わりにならないんだと、正直感動したわ。

「君たちが、そろってお花見に来ていると聞いてね、城から馬を走らせてきた」

 上様は、暇さえあれば、お城の植物園で品種改良の研究をされているか、馬をとばして府内を駆けまわっておられるか。

 火星は、まだまだ未開拓地が多く、馬を利用することが多いので、地球で考えるほど目立つことではない。

 本当のご乗馬は本物の馬なんだけど、城外に出られるときはOH(オートホース)をお使いになる。

「去年採れたもち米で桜餅を作ってみたんだ、まあ、つまんでおくれ」

 そう言うとリュックから竹の皮の包みを取り出された。

「うわあ~~~」

 真っ先にテルがヨダレを垂らす。

「うわあ、すごい桜の香りですね!」

 ヒコも感動、むろんわたしもダッシュも。

「葉っぱは、去年のもやし桜だよ。花はもう一つだったけど、そのぶん葉っぱに養分が凝縮されてる上に地球のよりも葉が薄い、桜餅にはピッタリなんだ」

「これはいけますね!」

「ダッシュ、頬張り過ぎ」

「だって、うめえ(⌒∇⌒)」

「うん、作った甲斐がある。まあ、桜餅にした程度では使いこなせないから、化粧品や添加物などに使えないか研究中なんだけどね」

「メイドインキャッスルが、また増えそうですね」

「ハハハ、わたしの道楽だからね、そんなに増えやしないさ」

 上様は、個人でも30程の、幕府全体では100余りの特許を持っている。上様は、安全性が確認され、商業ベースに載ったり、国民の役に立つことが確認されたものについては、率先して特許を開放されている。平均して二三年で特許権を手放されるので、実数はもっと多い。

「しかし、早いもんだね、ついこないだ修学旅行から戻ってきたという感じなのに。ええと、大石君以外はみんな府大なんだね」

「はい、僕が国際政治学科。ミクが医学部。テルが工学部。そしてダッシュ、あ、いちは来月部隊配置になって現場に立ちます」

「まだまだ未熟なんですが、現場で経験が積めるので、ありがたいことだと思っています」

 ダッシュにしてはいい答え。まあ、なにごとも体で覚えるって方だから、単なる謙遜では無いと思う。

「すまないね、下士官の充実は軍にとっては急務だからね。作戦指導は将校の役割だけど、現場で兵たちを指揮し面倒をみるのは下士官だ。国家としての期待は大きい、頑張ってくれたまえ」

「はい、承知しています」

 ダッシュへの労いを最初にして、それから一人一人に声を掛けてくださる。

 とてもお忙しい方なのに、きちんと承知してくださって、いつものことだけど頭が下がる。

「それで、ひとつ君たちにお願いがあるんだ」

 穏やかに切り出されたけど、そのお顔から、すこし大事なお話だと感じて居住まいを正してしまう。

「卒業まで、わたしのところで暮らしてはくれないだろうか?」

「「「「え?」」」」

「城内の研究施設拡充のために、小姓宿舎を建て替えたんけど、古い宿舎の一部が残ったんだ。老朽化による移設ではないので、残った宿舎は、まだまだ使用に耐えられる。府大は西の丸の外だし、それぞれの自宅から通うよりも近くなる」

 近いどころか、西の丸を横断していいのなら通学時間は1/4に縮まる。

「大石君は部隊配置になるだろうけど、休日には城に戻ってくればいい。むろん、わたしからのお願いだから、寄宿費などは取らない。実験農場の作物の試食もやってもらうから食費もかからない……」

「上しゃま!」

「あ、なんだろう、テルくん?」

「そうゆう遠まわしな言い方は上しゃまっぽくないのよ。ほんとうのところを言ってほしいのよさ」

「アハハ、これは一本やられた。テルくんの言う通りだ。単刀直入に言いなおそう。君たちに、ある人の友だちになって、いっしょに暮してもらいたいんだ」

 ある人?

「そうだ、まず、ご本人に会ってもらおうか……」

 上様はテルの頭越しに目配せされた、つられて目をやると、上様の片腕として知られている小姓頭の胡蝶さんが植え込みの向こうの誰かをいざなっている。

 え? ええ

 そして、現れた人を目にしてビックリするわたしたちだった!




※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    国立大学二回生、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    幕府大学国際政治学科二回生、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     幕府大学医学部二回生、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     幕府大学工学部二回生、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン、アルミカン)
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)



 
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