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123『アルルカンの秘密・1』
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銀河太平記
123『アルルカンの秘密・1』心子内親王
巨大な戦艦でござるなあ……!
客室の3D艦内案内図を眺めて、サンパチさんがため息をつく。
見かけは小柄な女子高生という感じで、それが侍言葉、それでいて、小学生のようにポカンと口を開けて感心しているチグハグさ。西之島からの付き合いだけど、やっぱりおかしい。
ウフフ
「おかしゅうござるか?」
「いいえ、サンパチさんには癒されますよ」
「アハハ、照れるでござる」
「しかし、ほんとうに大きいですね」
「全長1200メートル、火星航路の豪華客船よりも大きゅうござる」
「こんな大きな、それも軍艦でしょ。速度も大事でしょうし、動力はどうしているのかしら?」
「拙者も気になってツナカン殿に聞いたでござる」
「なんて、おっしゃってたの?」
「最新のパルス機関を搭載しているので、ノープロブレムだそうでござる」
「新造艦なのかなあ?」
思わず呟くと、3Dインタフェイスに三頭身のアルルカンさんが現れた。
―― ヒンメルはピカピカの新造艦だよ! ――
「まあ、かわいい(^▽^)」
―― ナビゲーターのあるるかんだよ、分からないことがあったら聞いてね(^▽^)/ ――
「艦の動力はなんなのでござるか?」
―― パルスエンジンだよ ――
「え、ふつうのパルスエンジン?」
―― 原理はね、でも、燃料がパルスギだから、燃料効率が桁違いなのさ ――
「パルスギって、西之島の?」
―― エヘヘ、それは秘密だよ ――
パルスギは、ちょっと前に西之島で発見されて、やっと商業ベースに乗ってきたばかりの燃料だよ。
さっそく漢明国が目を付けてきて、理不尽な介入をしてきて、わたしが避難させられる原因にもなったんだ。
そのパルスギが燃料に使われている。すごくビックリ!
「むむ、やはりアルルカン殿は油断がならないでござる」
―― そりゃあ、女海賊だしね。でも、普通の火星航路船と同じ三日で火星に着くから安心してね ――
「主砲の口径はいくらでござる?」
―― 45口径146サンチ砲だよ ――
「146サンチ砲!? そ、それだけ大きいと発射速度は遅いでござるな?」
―― う~んと……二発かな? ――
「二発? ちょっと……いや、かなり遅すぎではござるまいか?」
―― うん、毎秒二発じゃ並みのパルス砲並みだからね ――
「え、毎分ではござらぬのか!?」
―― アハハ、毎分二発じゃ三百年前の戦艦だよ。理論的には毎秒十発までは上げられるんだけどね、ハードの方が追いつかないんだよ ――
「ムムム、聞きしに勝る性能でござるなあ……」
「あ、船の真ん中辺でオレンジ色が灯り出したけど?」
「ああ、ヒンメル温泉だよ~。日に一回成分変更して、世界中の温泉を再現してるんだよ。長い艦内生活には潤いが必要だからね。ちなみに、今日は箱根温泉、入ってみる?」
「え、入れるの?」
―― ココちゃんはゲストだからね、遠慮しなくていいよ。入るんだったら、担当さん呼ぶけど ――
「え、そう……お願いしようかなあ」
―― 了解。サンパチさんは艦に興味ありそうだから、艦内見学してもいいよ ――
「しかし、殿下の傍を離れるわけには……」
「大丈夫だよ、お風呂入るだけだから」
―― うん、そうしなよ。サンパチさんには艦内案内図送るし ――
「お……おお、送られてきたでござる! これは、ワクワクするでござる!」
―― じゃ、そういうことで! ――
トントン
あるるかんさんが笑顔で消えると同時にドアがノックされる。
『案内係のアルミカンです、お風呂場までご案内いたします』
「「早!!」」
そうして、サンパチさんは艦内見学に、わたしはヒンメル温泉に向かった。
アルミカンさんからお風呂セットをもらって浴室に入ると、湯煙の向こうに先客のシルエット。
「ごいっしょさせてください」
「おお、これはこれは(^▽^)」
「え、アルルカンさん?」
「周回軌道を離れて航路についたので、一番風呂を頂いています。さあ、こっちへ、源泉かけ流しはこっちですよ」
「あ、じゃあ、失礼します」
いっしょに並んで、アルルカンさんの視線をたどると、大窓の向こうに月と地球。それがゆっくりと、じっと見ていなければ分からないくらいのスピードで離れていく。
「もっとスピードは出るんですが、旅の始まりは、このくらいがいいと思いましてね……」
「そうですね……」
考えたら暢気すぎる。
仮にも、わたしは拉致されたんだ。それが、拉致した張本人のアルルカンさんと、のんびり湯船に浸かって、ゆっくりと遠のく地球を眺めている。
諸事のんびり屋のわたしだけども、このノンビリは、多分にアルルカンさんの持ち味からも来ているんだと思う。
不思議と気持ちは穏やかなんだけど、わたし以上にのどやかなアルルカンさんをいたぶってみたい気持ちになってきた。
そうですよ、地球を眺めているアルルカンさんのまつ毛は、児玉元帥のそれを偲ばせるくらいに長くてきれい。あのまつ毛に、湯気の水玉を憩わせたら、なんだか物語が始まりそうな気がして、ちょっと意地悪を言ってみたくなった。
「アルルカンさんは、義体ですか?」
「ふふ、分かりますか?」
こっちを向いたアルルカンさんの顔には、わたし以上に意地悪な微笑みが浮かんでいたわ。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
123『アルルカンの秘密・1』心子内親王
巨大な戦艦でござるなあ……!
客室の3D艦内案内図を眺めて、サンパチさんがため息をつく。
見かけは小柄な女子高生という感じで、それが侍言葉、それでいて、小学生のようにポカンと口を開けて感心しているチグハグさ。西之島からの付き合いだけど、やっぱりおかしい。
ウフフ
「おかしゅうござるか?」
「いいえ、サンパチさんには癒されますよ」
「アハハ、照れるでござる」
「しかし、ほんとうに大きいですね」
「全長1200メートル、火星航路の豪華客船よりも大きゅうござる」
「こんな大きな、それも軍艦でしょ。速度も大事でしょうし、動力はどうしているのかしら?」
「拙者も気になってツナカン殿に聞いたでござる」
「なんて、おっしゃってたの?」
「最新のパルス機関を搭載しているので、ノープロブレムだそうでござる」
「新造艦なのかなあ?」
思わず呟くと、3Dインタフェイスに三頭身のアルルカンさんが現れた。
―― ヒンメルはピカピカの新造艦だよ! ――
「まあ、かわいい(^▽^)」
―― ナビゲーターのあるるかんだよ、分からないことがあったら聞いてね(^▽^)/ ――
「艦の動力はなんなのでござるか?」
―― パルスエンジンだよ ――
「え、ふつうのパルスエンジン?」
―― 原理はね、でも、燃料がパルスギだから、燃料効率が桁違いなのさ ――
「パルスギって、西之島の?」
―― エヘヘ、それは秘密だよ ――
パルスギは、ちょっと前に西之島で発見されて、やっと商業ベースに乗ってきたばかりの燃料だよ。
さっそく漢明国が目を付けてきて、理不尽な介入をしてきて、わたしが避難させられる原因にもなったんだ。
そのパルスギが燃料に使われている。すごくビックリ!
「むむ、やはりアルルカン殿は油断がならないでござる」
―― そりゃあ、女海賊だしね。でも、普通の火星航路船と同じ三日で火星に着くから安心してね ――
「主砲の口径はいくらでござる?」
―― 45口径146サンチ砲だよ ――
「146サンチ砲!? そ、それだけ大きいと発射速度は遅いでござるな?」
―― う~んと……二発かな? ――
「二発? ちょっと……いや、かなり遅すぎではござるまいか?」
―― うん、毎秒二発じゃ並みのパルス砲並みだからね ――
「え、毎分ではござらぬのか!?」
―― アハハ、毎分二発じゃ三百年前の戦艦だよ。理論的には毎秒十発までは上げられるんだけどね、ハードの方が追いつかないんだよ ――
「ムムム、聞きしに勝る性能でござるなあ……」
「あ、船の真ん中辺でオレンジ色が灯り出したけど?」
「ああ、ヒンメル温泉だよ~。日に一回成分変更して、世界中の温泉を再現してるんだよ。長い艦内生活には潤いが必要だからね。ちなみに、今日は箱根温泉、入ってみる?」
「え、入れるの?」
―― ココちゃんはゲストだからね、遠慮しなくていいよ。入るんだったら、担当さん呼ぶけど ――
「え、そう……お願いしようかなあ」
―― 了解。サンパチさんは艦に興味ありそうだから、艦内見学してもいいよ ――
「しかし、殿下の傍を離れるわけには……」
「大丈夫だよ、お風呂入るだけだから」
―― うん、そうしなよ。サンパチさんには艦内案内図送るし ――
「お……おお、送られてきたでござる! これは、ワクワクするでござる!」
―― じゃ、そういうことで! ――
トントン
あるるかんさんが笑顔で消えると同時にドアがノックされる。
『案内係のアルミカンです、お風呂場までご案内いたします』
「「早!!」」
そうして、サンパチさんは艦内見学に、わたしはヒンメル温泉に向かった。
アルミカンさんからお風呂セットをもらって浴室に入ると、湯煙の向こうに先客のシルエット。
「ごいっしょさせてください」
「おお、これはこれは(^▽^)」
「え、アルルカンさん?」
「周回軌道を離れて航路についたので、一番風呂を頂いています。さあ、こっちへ、源泉かけ流しはこっちですよ」
「あ、じゃあ、失礼します」
いっしょに並んで、アルルカンさんの視線をたどると、大窓の向こうに月と地球。それがゆっくりと、じっと見ていなければ分からないくらいのスピードで離れていく。
「もっとスピードは出るんですが、旅の始まりは、このくらいがいいと思いましてね……」
「そうですね……」
考えたら暢気すぎる。
仮にも、わたしは拉致されたんだ。それが、拉致した張本人のアルルカンさんと、のんびり湯船に浸かって、ゆっくりと遠のく地球を眺めている。
諸事のんびり屋のわたしだけども、このノンビリは、多分にアルルカンさんの持ち味からも来ているんだと思う。
不思議と気持ちは穏やかなんだけど、わたし以上にのどやかなアルルカンさんをいたぶってみたい気持ちになってきた。
そうですよ、地球を眺めているアルルカンさんのまつ毛は、児玉元帥のそれを偲ばせるくらいに長くてきれい。あのまつ毛に、湯気の水玉を憩わせたら、なんだか物語が始まりそうな気がして、ちょっと意地悪を言ってみたくなった。
「アルルカンさんは、義体ですか?」
「ふふ、分かりますか?」
こっちを向いたアルルカンさんの顔には、わたし以上に意地悪な微笑みが浮かんでいたわ。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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