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120『那覇空港』

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銀河太平記

120『那覇空港』心子内親王    





「辺野古から行くんじゃないの?」


 民宿を出た車は南西に向かっている。てっきり米軍との共同使用の辺野古に行くんだと思った。辺野古は民宿からは北西の方角だから、完全に真逆。

「軍の施設を使うと秘密が保てぬでござる」

「え、これって秘密なの?」

「いい女は秘密のベールに包まれているものでござる」

「え?」

 サンパチさんは誤魔化したけど、意味は分かっている。

 個人としてのわたしは、並みのハイティーンよりも好奇心が強いというだけのオチャッピーだけど、母から受け継いだ血は、自分自身の未来も運命を自分で決めることを許してはくれない。

 ホーーーー

 不覚にもため息が出てしまう。

 子どもの頃から、人前でため息をついてはいけないという躾を受けてきた。それが出てしまうのは、西之島に来てから、とても自由で充実した日々が過ごせたからだ。

 島の人たちは、血脈的なことを承知の上で、わたしを自由にしてくれた。

 島に居れば、わたしは心子内親王ではなくて、ただのココちゃんで居られた。

 ずっとメグミさんの助手をやって、カンパニーやナバホ村、フートンの人たちと、あれこれ生活の工夫をやって、お互いがお互いの役に立っている暮らしをしていたかった。

「サンパチにも、いろいろ秘密がござるよ」

「え、サンパチさんが?」

「はい、出自は作業機械でござるが、メグミ殿の手にかかって、今ではロボットと変わらぬように……いや、ロボット以上のものに成りおおせております。法的には危ない改造もされておりましてな、フフフ……ちょっとヤバイのでござるよ」

「え、そうなんだ(^_^;)」

「那覇空港からまいります」

「那覇空港からの火星便は週一回じゃないの? 間に合うの?」

「ヌフフ……拙者は、サンパチでござるよ。話が決まったときから、手は打ってござるよ……」

「そ、そうなんだ(^o^;)」



「え……国内線のロビーだよ?」

 那覇空港に着くと、そのまま滑走路に行って、秘密の格納庫とかから出てきた宇宙船に乗っていくんだと思っていた。

 それが、ツアー客のみなさんと並んで国内線のカウンター……どうなってるの?

 あっという間に、搭乗手続きが終わると、一番端っこのゲートへ向かう。

「これって、格安の貨客便ゲートだよね」

「いかにも、二十世紀から続いた青春格安旅行でござるよ(^▽^)」

 な、なんなんだ? 秘密とか言いながら、めちゃくちゃ緩いよ。


 機体は旧式のパルス貨物機。貨物室を改造して中二階を100席余りの客室にしてある。天井が低くて、シートの間隔が狭くって、短距離の国内線でなければエコノミー症候群間違いなしってしろもの。

 搭乗口が、特設の二階席には届かないものだから、貨物室を通って、螺旋階段を上っていく。

 貨物室では、空港のスタッフが貨物や荷物の整理と縛着に忙しそう。

 人やロボットが有機的に働いているのを見るのは好き。

 島に来てからも、北東区の建築現場や作業現場で、メグミさんとお昼を食べながら、みんなの仕事っぷりを観ていた。

 途中、手荷物を旅客用ブースに入れるために右舷の通路に入る。

「こっち」

 サンパチさんが呟いて、貨物の陰へ。

「これに着替えるでござる」

「え?」

 目の前の貨物の上には、貨物スタッフの作業服。手に取ると、まだ暖かい。で、貨物の向こうには人の気配。

「着替えたら、もとの服は、そのままにでござる」

「う、うん」

 三十秒で着替えると、別の貨物の陰から、たった今までわたしが着ていた服を着た女の子が螺旋階段を上がっていく。

「あ、あれ?」

 視線を戻すと、いつの間にかサンパチさんも作業服になっている。

 そのまま作業を終えたスタッフに紛れて、小型機の整備スペースに向かって、一機の小型機に。

 管制塔との短いやり取りがあって、わたし達の小型機はマリンブルーの海を見下ろしながら成層圏軌道に載って行った。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)

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