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119『最初の衝突』
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銀河太平記・119
『最初の衝突』心子内親王
え、2グロスですか!?
国際通りを取引のお店に向かっている途中で「2グロス買ってきてぇ(^▽^)/」とメグミさんの連絡。
グロスというのは12ダースのことで、一箱10個、1ダース120個だから、24ダースで2880個!?
「今日中には帰れないでござる」
サンパチさんがポーカーフェイスで呟く。
チルル空港の免税店がメグミさんにお願いしてきたらしい。洛陽号たち巡洋艦を応援するために数千人の漢明国の人たちがやってきて、免税店は急きょ仕入れを増やしているらしい。
「うち、民宿もやってるから一晩泊って行ってください(^▽^)」
お店のおばさんが親切に行ってくださって「まあ、一泊の沖縄観光と思えば良いではござらんか」と、サンパチさんもノンビリ言うので、おばさんのご厚意に甘えることにした。
いちばんいいお部屋で、晩御飯もコース料理を出してくださる。
「内親王様だからじゃないですよ。お得意様の大量注文。これくらいは当たり前ですよ」
「あのう、作るところ見学してもいいですか?」
2880個ものサーターアンダギーが油で揚げられてるのは壮観で美味しそうなので、ついお願いしちゃった。
「そうですか、でも、生地と油の匂いすごいですから、まあ、辛くなったら言ってくださいね」
人が食べるものなら、なんでもレプリケーターで出来てしまう23世紀。手作りというだけでもすごいのに、何千個という数だから見ごたえがある。
ジュワ~~!!
さすがに、人がフライパンで揚げてるわけじゃない。
戦車の無限軌道を思わせるようなコンベアの上を白いボール状の生地が行進して行って、煮えたぎる油のプールに突撃していく。
ジュワ~!! ジュワジュワ~!
「ここで二分間揚げます」
工場長のロボットさんが、おばさんを、ちょっと若くしたような声で説明してくれる。
「合成オイルをスプレーして、パルス波を照射しても同じものが出来るんですけど、見た目が違います。見た目も味の内と、わが社は考えています」
二分で揚がったサーターアンダギーは再びコンベアに載せられて、送風機のトンネルをくぐっていく。
「ここで、粗熱をとって、あとは自然に常温に戻るのを待って、包装のラインに載せられます」
「トライアスロンのようでござるなあ」
サンパチさんが感動する。
付喪神というわけじゃないけど、モノには作った人の念が籠ると思う。
科学では証明できない、そういうものがあるから、今でも、伝統食品はこういうアナログな作り方をしているし、人気があるんだと思う。
「じつは、この冷却に時間がいちばん長いんです。完全にマシンで冷却すると味が変わってしまいます。本来なら自然冷却なんですが、時間がかかり過ぎて場所も取りますので、半分は送風機に頼ります」
最後まで見ようと思ったけど、さすがに暑いので、防護服を脱いで休憩室に避難する。
『西之島沖で修理中の洛陽号など五隻を応援するために来島中の漢明人と島民の間で衝突があったもようです……』
休憩室のモニターが不穏なことを喋り始めた。
「ええ!?」
モニターは波止場で睨み合う漢明の人たちとカンパニーの人たちが映っている。
間に入って、身振り手振りを交えながら双方をなだめているのは食堂のお岩さん。奥の方で心配げに氷室社長が背伸びしている。
いきなり社長が出て行って、まとまらなければ後がないから、みんなが止めてるんだ。
ブルル
その時、マナーモードにしていたハンベが着信のシグナル。
開いてみると、沈痛な面持ちのメグミさんが現れた。
『ココちゃん、すぐに火星に飛んで、島はちょっとヤバいから』
「あ、でも、サーターアンダギーは……」
『そっちの連絡事務所に市役所の人がいるから、PC(パーソナルカー)ごと持ってかえってもらう』
「だったら、わたしでも」
『ココちゃんもモニター見てるんでしょ、ここまで熱くなった人たち、サーターアンダギーみたいには冷めないわ』
「は、はい」
『ココちゃんは内親王なんだから、大事にして!』
「はい、でも……」
『サンパチ、あんたは、このままココちゃんに付いてって! 仔細は順次送るから、頼んだわよ!』
「承知でござる」
「あ、メグミさん……」
プツン
あとはコールしても返ってこない、顔を上げると、サンパチさんがキッパリと言った。
「行くしかありません、火星に」
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
『最初の衝突』心子内親王
え、2グロスですか!?
国際通りを取引のお店に向かっている途中で「2グロス買ってきてぇ(^▽^)/」とメグミさんの連絡。
グロスというのは12ダースのことで、一箱10個、1ダース120個だから、24ダースで2880個!?
「今日中には帰れないでござる」
サンパチさんがポーカーフェイスで呟く。
チルル空港の免税店がメグミさんにお願いしてきたらしい。洛陽号たち巡洋艦を応援するために数千人の漢明国の人たちがやってきて、免税店は急きょ仕入れを増やしているらしい。
「うち、民宿もやってるから一晩泊って行ってください(^▽^)」
お店のおばさんが親切に行ってくださって「まあ、一泊の沖縄観光と思えば良いではござらんか」と、サンパチさんもノンビリ言うので、おばさんのご厚意に甘えることにした。
いちばんいいお部屋で、晩御飯もコース料理を出してくださる。
「内親王様だからじゃないですよ。お得意様の大量注文。これくらいは当たり前ですよ」
「あのう、作るところ見学してもいいですか?」
2880個ものサーターアンダギーが油で揚げられてるのは壮観で美味しそうなので、ついお願いしちゃった。
「そうですか、でも、生地と油の匂いすごいですから、まあ、辛くなったら言ってくださいね」
人が食べるものなら、なんでもレプリケーターで出来てしまう23世紀。手作りというだけでもすごいのに、何千個という数だから見ごたえがある。
ジュワ~~!!
さすがに、人がフライパンで揚げてるわけじゃない。
戦車の無限軌道を思わせるようなコンベアの上を白いボール状の生地が行進して行って、煮えたぎる油のプールに突撃していく。
ジュワ~!! ジュワジュワ~!
「ここで二分間揚げます」
工場長のロボットさんが、おばさんを、ちょっと若くしたような声で説明してくれる。
「合成オイルをスプレーして、パルス波を照射しても同じものが出来るんですけど、見た目が違います。見た目も味の内と、わが社は考えています」
二分で揚がったサーターアンダギーは再びコンベアに載せられて、送風機のトンネルをくぐっていく。
「ここで、粗熱をとって、あとは自然に常温に戻るのを待って、包装のラインに載せられます」
「トライアスロンのようでござるなあ」
サンパチさんが感動する。
付喪神というわけじゃないけど、モノには作った人の念が籠ると思う。
科学では証明できない、そういうものがあるから、今でも、伝統食品はこういうアナログな作り方をしているし、人気があるんだと思う。
「じつは、この冷却に時間がいちばん長いんです。完全にマシンで冷却すると味が変わってしまいます。本来なら自然冷却なんですが、時間がかかり過ぎて場所も取りますので、半分は送風機に頼ります」
最後まで見ようと思ったけど、さすがに暑いので、防護服を脱いで休憩室に避難する。
『西之島沖で修理中の洛陽号など五隻を応援するために来島中の漢明人と島民の間で衝突があったもようです……』
休憩室のモニターが不穏なことを喋り始めた。
「ええ!?」
モニターは波止場で睨み合う漢明の人たちとカンパニーの人たちが映っている。
間に入って、身振り手振りを交えながら双方をなだめているのは食堂のお岩さん。奥の方で心配げに氷室社長が背伸びしている。
いきなり社長が出て行って、まとまらなければ後がないから、みんなが止めてるんだ。
ブルル
その時、マナーモードにしていたハンベが着信のシグナル。
開いてみると、沈痛な面持ちのメグミさんが現れた。
『ココちゃん、すぐに火星に飛んで、島はちょっとヤバいから』
「あ、でも、サーターアンダギーは……」
『そっちの連絡事務所に市役所の人がいるから、PC(パーソナルカー)ごと持ってかえってもらう』
「だったら、わたしでも」
『ココちゃんもモニター見てるんでしょ、ここまで熱くなった人たち、サーターアンダギーみたいには冷めないわ』
「は、はい」
『ココちゃんは内親王なんだから、大事にして!』
「はい、でも……」
『サンパチ、あんたは、このままココちゃんに付いてって! 仔細は順次送るから、頼んだわよ!』
「承知でござる」
「あ、メグミさん……」
プツン
あとはコールしても返ってこない、顔を上げると、サンパチさんがキッパリと言った。
「行くしかありません、火星に」
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
応援ありがとうございます!
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