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118『サーターアンダギーを求めて』

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銀河太平記

118『サーターアンダギーを求めて』 心子内親王    




 パーソナルカーは駐車場を出るとフライングモードになった。

 え……飛んで行くの?

 サーターアンダギーはチルル空港の免税店と北東区のショッピングモールで売っている。

 元来、島では売っていなかったんだけど、メグミさんが出入りの業者を焚きつけて、わざわざ沖縄本島から取り寄せて置かせている。メグミさんのサーターアンダギー愛と、同じリゾート開発を柱とする島同士、お互いに応援しようという気持ちから、しだいに扱う沖縄グッズも増えてきている。

「え、海に出てしまったわよ」

 眼下に見える景色が、島の火山土壌ではなくて、エメラルドグリーンの海原になってしまってる。

「黒糖サーターアンダギーは売り切れでござるので、那覇の仕入れ先まで行くのでござる」

「え、あ、タイミング悪かったのね」

「いかにも、サーターアンダギーは古酒(くうす)と並んで人気でござる。そこへもってきて、折りからの漢明国の客人たちの爆買い大人買い。いささか品薄でござる」

「そうなんだ」

「このPC(パーソナルカー)はモデルチェンジの試作でござって、マッハ3の速度が出るでござるよ。まあ、昼過ぎには戻ってまいれましょう」

 サンパチさんは、西之島固有のパチパチシリーズの作業機械。メグミさんが、とことん手を加えて、作業体とオートマ体に分離、銀行業務をやるので、ちょっと小柄な女性タイプの外見をしている。

 元々の個性を残したいという、島の人たちと本人たちの意向もあって、喋り方は昔のまま。

 和風姫カットの美少女が、古典の黒沢映画のような侍言葉なので、ギャップ萌えって言うのか、最近では姉妹のイッパチ・ニッパチと共に人気がある。

「ねえ、サンパチさんたちは、いまだに作業機械のカテゴリーだけど、ロボット籍にはしないの?」

「これで良いのでござる。いかにも、メグミ殿の御尽力でロボットと変わらぬ性能になりましたが、我らパチパチは作業機械の分を守って参ろうと思っております」

「でも、それじゃあ……」

「満州戦争以来、ロボットも自律的思考ができるようになり、人間と同じ権利を認められるようになり申した。しかし、ロボットの自立思考はネットによる並列化が前提になっております。その気になれば、ロボットの思考は型式が同じものであれば世界中、どこにいても意識や情報を共有化できます」

「人間でも、ハンベで情報を共有しているわ。中にはモジュールそのものを体に埋め込んでる人もいるし」

「拙者たちがロボット同等であれば、三年前の落盤事故での救助活動はできませんでした」

「ああ……」

 思い出した。あの落盤事故では人にもロボットにも有害なパルスガスが大量に噴き出して、救助活動に向かえたのは決死隊のメグミさんたちと作業機械のパチパチさんたちだけだった。島のチルル空港も、その時犠牲になったチルルさんの名前にちなんでる。

「先日、イッパチが知らせてくれたのでござるが、人の卵子にロボットの特殊なパルス波を照射すると、受精と同じ効果が得られる実験が進んでいるという話がござった」

「ええ……それって……」

「左様、男が居なくても人の卵子があって、ロボットが居れば、赤ん坊が作れるということでござる」

「ちょっと怖いわね……」

「ハハ、ちょっと過激な世間話になってしまい申した、話題を変えましょう」

「うん」

「ボイスチェンジいたしましょうか、営業用でござるが、見てくれにあった話し方もできまするが」

「え、どんなの?」

「……えと、こんな感じなんですけど、どうでしょう? 十七歳の日本女性の平均的な声と喋り方になってま~す」

「え、あ、あははは」

「トーンを変えると、こんな声にもなっちゃいますよ~(^▽^)/」

「あはは、ごめんなさい、やっぱ、慣れたサンパチさんがいい」

「左様でござるか」

「「あははは」」

 そうやって、笑っているうちに那覇空港に着いてしまった。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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