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112『沖縄植樹祭』
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銀河太平記
112『沖縄植樹祭』こころ
パチパチさんたちが採取してきた新鉱石は『パルスギ』と名付けられた。
「どうぞ、殿下からお伝えください」
市長と相談した社長は、村長さんや主席さんとも協議して、陛下への連絡を任せてくれた。
陛下は、植樹祭のために沖縄に向かわれる。
今年の植樹祭は、西之島の杉の苗が使われることになっているから都合がいいのよ。
苗の名前は『パル杉』
火山灰地の西之島でも育つように食堂のお岩さんが趣味で品種改良していた杉。
「アハハ、いやあ、まぐれまぐれ(n*´0`*n)」と、頭を掻くお岩さん。
どこからどう見ても食堂のおばちゃんなんだけど、以前は大手銀行のキャリアで、趣味がバイオだという烈女さん。
「野菜畑に防風林作りたくって、たまたまできたんだよ」
育ちが早く潮風にも強いパル杉は、その道の人たちにも注目され、海に囲まれた沖縄にも相応しいというので植樹祭に選ばれた。
それに、パチパチさんたちがパルスギを発見した鉱脈の真上がお岩さんの畑で、ちょうどパル杉が植わっている。
「マスコミには、あくまでパル杉のご説明をさせていただくということになっていますから」
社長の氷室さんは、いたずらっ子のようにウィンクした。
島から派遣されるのは、陛下といっしょに植樹する島の少年と少女。
沖縄からも少年と少女が参加して、四人で陛下の植樹のお手伝いをする。
わたしは、その随行者の一人として参加するのですよ。
「まあ、しんこだったの!?」
陛下は目を剥かれた。
子どもたちを控室で陛下に挨拶させたあと、帽子とメガネを取ったのよ。
「はい、じつは、パル杉はパルスギの隠れ蓑なんです。しんこは、その御説明にあがりました」
「油断ならないわね、わたしは児玉元帥の変装だって見抜いたのよ」
「アハハ、島のスタッフは優秀ですから……これがパルスギです」
ハンベをオフラインにして3D映像を出した。
「総理から話は聞いていたけど、ちょっと難しかった」
「はい、減衰率が0.000001%で、既存のパルス鉱の1/20でしかありません」
「ええと、そこなのよ1/20しか無くて、どうして優秀なの?」
「え、あ、アハハハ」
「わ、笑うんじゃありません」
「ごめん、伯母さん(^_^;)」
睦子伯母は天皇陛下で、めっぽう頭のいい人なんだけども、数学が苦手。
学習院の数学の授業も「微分は微かに分かる、積分は分かった積もり」で通してきた人。テストは予想問題の答えを丸暗記して、暗記力だけで評定4をキープしていたらしい。
「減衰率が1/20というのは……グリコのキャラメルご存知よね?」
「知ってますよ、高一の遠足で大阪に行った時、心斎橋のグリコマンと同じポーズで写真撮ろうとしたら先生に止められたもの」
「え、うちのお母さんはグリコマンで撮ってたわよ」
「明子は次女のミソッカスでしょ、東宮とは扱いがちがうのよ」
「えと、グリコなんだけどグリコマンじゃなくてね、一粒300メートル」
「あ、うん。一粒のカロリーで300メートル走れるって意味よね」
「うん、あれをパルス鉱だとすると、パルスギは同じ大きさの一粒で6000メートルは走れるって感じです。それを減衰期の考え方で云うと、減るのが遅い。20倍もつって意味です。つまり、人に例えると、90歳で亡くなる人が1800歳まで生きられるという感じです」
「……そうか、命の灯が消えるのが20倍遅い……ということね」
「うん、だから、これを宇宙船の動力源に使ったら、太陽系を飛び出すことが可能になる」
「うん、やっと結びついた。三百年前にガソリンエンジンで飛行機が飛んだのと同じ……それ以上の意味があるということね。やっと実感できた!」
「よし!」
「「アハハハ」」
久々に伯母さんと笑い合えて嬉しかった。
天皇には政策的な発言権は無い。日本国民に寄り添い励まして祈ることが三千年の伝統。
でも、意味を理解して寄り添うことが大事なんだ。意味も分からずに励ますのは、日本も日本人も損なってしまう。
これを勧めたのは、越萌姉妹社のマイ社長、つまり児玉元帥その人であったらしい。
「ねえ、しんこちゃん」
「はい?」
「パルスギ、人間にも使えるといいのにね」
「伯母さん、使ってみたいんですか?」
伯母さんだって女性だ、いつまでも綺麗でありたいんだ。
「そうじゃなくてね、わたしが1800ぐらいまで生きたら、皇位継承のややこしい問題に当分悩まなくても済むでしょ」
「伯母さん……」
「そんなわけにもいかないでしょうから……こころ子」
う、真名で呼ばれた。
「西之島が一段落したら、火星に行きなさい。あなたのために……日本のために」
「え…………」
言葉に困っていると、伯母さんは、こんなお話をし始めた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源
112『沖縄植樹祭』こころ
パチパチさんたちが採取してきた新鉱石は『パルスギ』と名付けられた。
「どうぞ、殿下からお伝えください」
市長と相談した社長は、村長さんや主席さんとも協議して、陛下への連絡を任せてくれた。
陛下は、植樹祭のために沖縄に向かわれる。
今年の植樹祭は、西之島の杉の苗が使われることになっているから都合がいいのよ。
苗の名前は『パル杉』
火山灰地の西之島でも育つように食堂のお岩さんが趣味で品種改良していた杉。
「アハハ、いやあ、まぐれまぐれ(n*´0`*n)」と、頭を掻くお岩さん。
どこからどう見ても食堂のおばちゃんなんだけど、以前は大手銀行のキャリアで、趣味がバイオだという烈女さん。
「野菜畑に防風林作りたくって、たまたまできたんだよ」
育ちが早く潮風にも強いパル杉は、その道の人たちにも注目され、海に囲まれた沖縄にも相応しいというので植樹祭に選ばれた。
それに、パチパチさんたちがパルスギを発見した鉱脈の真上がお岩さんの畑で、ちょうどパル杉が植わっている。
「マスコミには、あくまでパル杉のご説明をさせていただくということになっていますから」
社長の氷室さんは、いたずらっ子のようにウィンクした。
島から派遣されるのは、陛下といっしょに植樹する島の少年と少女。
沖縄からも少年と少女が参加して、四人で陛下の植樹のお手伝いをする。
わたしは、その随行者の一人として参加するのですよ。
「まあ、しんこだったの!?」
陛下は目を剥かれた。
子どもたちを控室で陛下に挨拶させたあと、帽子とメガネを取ったのよ。
「はい、じつは、パル杉はパルスギの隠れ蓑なんです。しんこは、その御説明にあがりました」
「油断ならないわね、わたしは児玉元帥の変装だって見抜いたのよ」
「アハハ、島のスタッフは優秀ですから……これがパルスギです」
ハンベをオフラインにして3D映像を出した。
「総理から話は聞いていたけど、ちょっと難しかった」
「はい、減衰率が0.000001%で、既存のパルス鉱の1/20でしかありません」
「ええと、そこなのよ1/20しか無くて、どうして優秀なの?」
「え、あ、アハハハ」
「わ、笑うんじゃありません」
「ごめん、伯母さん(^_^;)」
睦子伯母は天皇陛下で、めっぽう頭のいい人なんだけども、数学が苦手。
学習院の数学の授業も「微分は微かに分かる、積分は分かった積もり」で通してきた人。テストは予想問題の答えを丸暗記して、暗記力だけで評定4をキープしていたらしい。
「減衰率が1/20というのは……グリコのキャラメルご存知よね?」
「知ってますよ、高一の遠足で大阪に行った時、心斎橋のグリコマンと同じポーズで写真撮ろうとしたら先生に止められたもの」
「え、うちのお母さんはグリコマンで撮ってたわよ」
「明子は次女のミソッカスでしょ、東宮とは扱いがちがうのよ」
「えと、グリコなんだけどグリコマンじゃなくてね、一粒300メートル」
「あ、うん。一粒のカロリーで300メートル走れるって意味よね」
「うん、あれをパルス鉱だとすると、パルスギは同じ大きさの一粒で6000メートルは走れるって感じです。それを減衰期の考え方で云うと、減るのが遅い。20倍もつって意味です。つまり、人に例えると、90歳で亡くなる人が1800歳まで生きられるという感じです」
「……そうか、命の灯が消えるのが20倍遅い……ということね」
「うん、だから、これを宇宙船の動力源に使ったら、太陽系を飛び出すことが可能になる」
「うん、やっと結びついた。三百年前にガソリンエンジンで飛行機が飛んだのと同じ……それ以上の意味があるということね。やっと実感できた!」
「よし!」
「「アハハハ」」
久々に伯母さんと笑い合えて嬉しかった。
天皇には政策的な発言権は無い。日本国民に寄り添い励まして祈ることが三千年の伝統。
でも、意味を理解して寄り添うことが大事なんだ。意味も分からずに励ますのは、日本も日本人も損なってしまう。
これを勧めたのは、越萌姉妹社のマイ社長、つまり児玉元帥その人であったらしい。
「ねえ、しんこちゃん」
「はい?」
「パルスギ、人間にも使えるといいのにね」
「伯母さん、使ってみたいんですか?」
伯母さんだって女性だ、いつまでも綺麗でありたいんだ。
「そうじゃなくてね、わたしが1800ぐらいまで生きたら、皇位継承のややこしい問題に当分悩まなくても済むでしょ」
「伯母さん……」
「そんなわけにもいかないでしょうから……こころ子」
う、真名で呼ばれた。
「西之島が一段落したら、火星に行きなさい。あなたのために……日本のために」
「え…………」
言葉に困っていると、伯母さんは、こんなお話をし始めた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源
応援ありがとうございます!
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