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098『みんなで頭を捻る』
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銀河太平記
098『みんなで頭を捻る』 加藤 恵
朝から、お金の流れをどうするか、社長の事務所で頭を捻っている。
及川からパチパチ達による銀行業務はならないと言われ、その対策に頭を悩ませているのよ。
大勢集まってもエキサイトするだけなので、社長の他はフートンの主席、わたしとお岩さん、ナバホ村の村長はヘソを曲げているので兵二が代理で来てくれている。
パルスガ鉱の採掘も見込まれ、世界的どころか、月や火星との取引も視野に入って来るので、世界的金融システムの中で決済できなければ、取引そのものができない。
そのためには、島独自の銀行を持つ以外にないのだ。
「採掘の状況を世界に発信し続けるしかないよ。食堂といっしょさ、美味い食い物をたくさん用意しておけば、匂いにつられて、買い手は集まって来る。そのうち、腹減らして集まった方から喰うための知恵を出してくるさ。イラつく奴がいたら、正直に『大家の日本政府が堅物でねえ、こっちも困ってる』って言ってやりゃいい」
お岩さんの明るく明確な食堂のオバチャン的プランで決まりかけてはいるんだけど、いつごろになったら、そういう状況になるかの見通しが無い。
なんせ、海賊か山賊に毛の生えたみたいな西ノ島だから、長期戦になれば体力が持たない。
いつもなら、楽天的に「それでいきましょう」と笑顔を向けてくる社長も天井を向いたままだ。
「社長、なにかないかね」
「すまない、天井の扇風機見てたら、ちょっと目が回って……」
主席のツッコミ、社長のボケ……いつもなら、これで和やかになるんだけど。
さすがに、顔を上げた者も、そのまま俯いた
分かってる。落盤事故が響いてるんだ。
救助や復旧や犠牲者への補償でカンパニーはいっぱいいっぱい。村もフートンも均等に負担してくれて、島全体、後がない状況なんだ。
何年も腹ペコ食堂の理屈でやっていくわけにはいかない。
お岩さんは、その昔はギャラクシー興業銀行のムーン支店長をやっていた。業界ぐるみの不正を暴いた代償に職を追われてからわ、ひたすら食堂のおばちゃんを通しているけど、腹ペコ食堂解決法の裏には、昔取った杵柄的計算が緻密に為されているはずだけど、それは言わない。
言っても難しいということもあるだろうけど、やっぱり、綱渡り的危うさがあるからだろう。
サラサラサラ
あ、お岩さんが、すごいスピードでメモしてる!
みんなの注目が、お岩さんの手に集まる!
「よし、社長、キッチン借りるよ。なにか食って切り替えようよ。メグも手伝って!」
「あ、はい!」
「お岩さん、そのメモは……?」
「よく聞いてくれた主席! 男たちは食材取ってきて、持ってくるものは書いてあるからね」
「あ……アハハ」
アハハハハハ
やっと解れてきた(^_^;)
男たちが立ち上がって、出口に向かうと、主席が手を掛ける前にドアが開いた。
バタン!
社長! なんとかしてくれ!
シゲさんが怒鳴り込んできた。
「血圧上がるよ」
「血圧なんか構っちゃいられねえ、島中の道路が閉鎖されっちまったぜ!」
「え、どういうことですか?」
「国道だよ国道! 及川の奴が、島の主要道路を、みんな国道に指定しちまいやがった!」
「ああ、昨日の折衝で、そんなこと言ってたよね」
「制御盤設置しやがったみてえで、車検と登録ナンバーのねえ車両は動かせねえ!」
「「「「「制御盤!?」」」」」
ダダダダ
食材も料理もすっ飛んでしまって、みんなゲート前の道路に走った!
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
098『みんなで頭を捻る』 加藤 恵
朝から、お金の流れをどうするか、社長の事務所で頭を捻っている。
及川からパチパチ達による銀行業務はならないと言われ、その対策に頭を悩ませているのよ。
大勢集まってもエキサイトするだけなので、社長の他はフートンの主席、わたしとお岩さん、ナバホ村の村長はヘソを曲げているので兵二が代理で来てくれている。
パルスガ鉱の採掘も見込まれ、世界的どころか、月や火星との取引も視野に入って来るので、世界的金融システムの中で決済できなければ、取引そのものができない。
そのためには、島独自の銀行を持つ以外にないのだ。
「採掘の状況を世界に発信し続けるしかないよ。食堂といっしょさ、美味い食い物をたくさん用意しておけば、匂いにつられて、買い手は集まって来る。そのうち、腹減らして集まった方から喰うための知恵を出してくるさ。イラつく奴がいたら、正直に『大家の日本政府が堅物でねえ、こっちも困ってる』って言ってやりゃいい」
お岩さんの明るく明確な食堂のオバチャン的プランで決まりかけてはいるんだけど、いつごろになったら、そういう状況になるかの見通しが無い。
なんせ、海賊か山賊に毛の生えたみたいな西ノ島だから、長期戦になれば体力が持たない。
いつもなら、楽天的に「それでいきましょう」と笑顔を向けてくる社長も天井を向いたままだ。
「社長、なにかないかね」
「すまない、天井の扇風機見てたら、ちょっと目が回って……」
主席のツッコミ、社長のボケ……いつもなら、これで和やかになるんだけど。
さすがに、顔を上げた者も、そのまま俯いた
分かってる。落盤事故が響いてるんだ。
救助や復旧や犠牲者への補償でカンパニーはいっぱいいっぱい。村もフートンも均等に負担してくれて、島全体、後がない状況なんだ。
何年も腹ペコ食堂の理屈でやっていくわけにはいかない。
お岩さんは、その昔はギャラクシー興業銀行のムーン支店長をやっていた。業界ぐるみの不正を暴いた代償に職を追われてからわ、ひたすら食堂のおばちゃんを通しているけど、腹ペコ食堂解決法の裏には、昔取った杵柄的計算が緻密に為されているはずだけど、それは言わない。
言っても難しいということもあるだろうけど、やっぱり、綱渡り的危うさがあるからだろう。
サラサラサラ
あ、お岩さんが、すごいスピードでメモしてる!
みんなの注目が、お岩さんの手に集まる!
「よし、社長、キッチン借りるよ。なにか食って切り替えようよ。メグも手伝って!」
「あ、はい!」
「お岩さん、そのメモは……?」
「よく聞いてくれた主席! 男たちは食材取ってきて、持ってくるものは書いてあるからね」
「あ……アハハ」
アハハハハハ
やっと解れてきた(^_^;)
男たちが立ち上がって、出口に向かうと、主席が手を掛ける前にドアが開いた。
バタン!
社長! なんとかしてくれ!
シゲさんが怒鳴り込んできた。
「血圧上がるよ」
「血圧なんか構っちゃいられねえ、島中の道路が閉鎖されっちまったぜ!」
「え、どういうことですか?」
「国道だよ国道! 及川の奴が、島の主要道路を、みんな国道に指定しちまいやがった!」
「ああ、昨日の折衝で、そんなこと言ってたよね」
「制御盤設置しやがったみてえで、車検と登録ナンバーのねえ車両は動かせねえ!」
「「「「「制御盤!?」」」」」
ダダダダ
食材も料理もすっ飛んでしまって、みんなゲート前の道路に走った!
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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