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093『国交省資源開発局局長 及川軍平』
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銀河太平記
093『国交省資源開発局局長 及川軍平』 加藤 恵
西之島は東京の南海上1000キロの位置にある火山島だ。
200年前の令和の時代に噴火を繰り返して成長し、いまの面積は16キロ平方メートルで、渋谷区とほぼ同じ大きさ。
形は、ほぼ円形で、ドーナツに例えると、真ん中の穴の位置に屹立しているのが西之島火山。
手に持ったところが南の氷室カンパニー、略してカンパニーとか会社とか呼ばれる。
右側の東にあるのがナバホ村、通称村。ナバホインディアンの村長が代表で、雰囲気はインディアンと戦国時代の村を合わせたような感じ。
左側の西にあるのがフートン、フートンとは漢字で胡同と書く。中国の古い街区のことで、血族や一族が集団で生活する中国都市の基本単位の意味がある。代表者は主席と呼ばれて、ちょっと昔の共産中国みたいだけれど、フートンでは単に一番偉い人を表す名称に過ぎない。
三つとも、それぞれ個性的ではあるけれど、お互いを尊重し合っていて仲がいい。
パルス鉱の採掘を生業にしているので、事故も絶えないが、その都度、三つの集団が協力して乗り切っている。
数か月前には、カンパニーで大規模な落盤事故が起こって犠牲者も出したが、結束はさらに強くなって、ついこないだ、島で初の銀行が開設されたりもした。
そして、ドーナツの上。手に持ったら、まず齧りつこうというところが北部。
ここは、浅層に鉱床が確認されなかったこともあって、開発から取り残されて、荒れ地のまま国有地になっている。
この北の地に、ようやく日本国政府の手が入ろうとしている。
ズゥイーーーーーーーーーン
一昔前の重力エンジンの音を響かせながらB130輸送機が降りてくる。
「なんで、今の時代に重力エンジン機なんだ」
シゲさんがボヤクのも無理はない。
騒音が大きいうえに、法的基準値をわずかに下回るだけの高周波を撒き散らしながら降りてくるのだ。
日ごろ穏やかなパルスエンジンに慣れた島の者には、ちょっと耐えがたい。
「いいかい、みんな笑顔ですよ、笑顔」
社長が最後の注意をする。
先週、突貫工事で整備した飛行場には、会社、村、フートンの代表と幹部、それに物見高い非番の島民たちが集まっている。
掘っ立て小屋のような管制塔には『歓迎 国交省調査団御一行様』の懸垂幕も風になぶられて、ワクワク時めいている。
誘導員のサインで、B130が大型機の駐機位置に停まると、社長、村長、主席の三代表がB130後部のハッチ前に寄っていく。
歓迎式典実行委員長のサブが手を挙げると、堵列していた西ノ島合同音楽隊が歓迎の敷島行進曲を演奏し始める。
ウィーーーン
後部ハッチが開いてまろび出てきたのは、手に手に旧式なハンベのようなモノを掲げた一個分隊ほどのガスマスクたちだ。
『西ノ島のみなさん、ただいまより法定パルスガス検査を行います、静粛に願います』
B130から大音量で警告が発せられ、ガスマスクたちは歓迎する島民たちはおろか、B130の前に進み出た社長たちも無視して、飛行場全体に散った。
握手しようと出した手を真上に上げると『演奏止め』のサインを示す社長。
村長は、崖の上から第七騎兵隊を睨み据えるシャイアン族のように憮然と腕を組むし、主席は笑顔のまま時間が停まったように静止した。
やがて班長の腕章を付けたガスマスクが、両手で大きな〇のサインを作った。
そして、B130の日の丸が描かれた左舷ハッチを開けて、浅葱色の政府指定事業服を着た眼鏡男が出てきた。
「どうも失礼いたしました。環境省の規定でパルスガス発生地では、政府機関の者が直接検査をしなければならない決まりになっていまして。いや、今回は先遣隊を送る時間的余裕も無かったので、失礼いたしました。あ、申し遅れました。わたくし、通産省資源開発局局長の及川軍平と申します」
及川は慣れた仕草で名刺を出すと、三人の代表に過不足なく頭を下げながら渡していく。
「これはご丁寧に、わたし、氷室カンパニー代表役社長の氷室睦仁(ひむろむつひと)であります」
「よろしくお願いいたします」
「ナバホ村村長、ナムエリト。インディアン名刺持たない」
「痛み入ります」
「フートン主席、周温雷です、同志及川熱烈歓迎!」
「恐れ入ります」
無礼なのか慇懃なのか……いずれにしろ、型にはまりきった、日本公務員の権化のような及川軍平との折衝が始まった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 以仁 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 マヌエリト 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
093『国交省資源開発局局長 及川軍平』 加藤 恵
西之島は東京の南海上1000キロの位置にある火山島だ。
200年前の令和の時代に噴火を繰り返して成長し、いまの面積は16キロ平方メートルで、渋谷区とほぼ同じ大きさ。
形は、ほぼ円形で、ドーナツに例えると、真ん中の穴の位置に屹立しているのが西之島火山。
手に持ったところが南の氷室カンパニー、略してカンパニーとか会社とか呼ばれる。
右側の東にあるのがナバホ村、通称村。ナバホインディアンの村長が代表で、雰囲気はインディアンと戦国時代の村を合わせたような感じ。
左側の西にあるのがフートン、フートンとは漢字で胡同と書く。中国の古い街区のことで、血族や一族が集団で生活する中国都市の基本単位の意味がある。代表者は主席と呼ばれて、ちょっと昔の共産中国みたいだけれど、フートンでは単に一番偉い人を表す名称に過ぎない。
三つとも、それぞれ個性的ではあるけれど、お互いを尊重し合っていて仲がいい。
パルス鉱の採掘を生業にしているので、事故も絶えないが、その都度、三つの集団が協力して乗り切っている。
数か月前には、カンパニーで大規模な落盤事故が起こって犠牲者も出したが、結束はさらに強くなって、ついこないだ、島で初の銀行が開設されたりもした。
そして、ドーナツの上。手に持ったら、まず齧りつこうというところが北部。
ここは、浅層に鉱床が確認されなかったこともあって、開発から取り残されて、荒れ地のまま国有地になっている。
この北の地に、ようやく日本国政府の手が入ろうとしている。
ズゥイーーーーーーーーーン
一昔前の重力エンジンの音を響かせながらB130輸送機が降りてくる。
「なんで、今の時代に重力エンジン機なんだ」
シゲさんがボヤクのも無理はない。
騒音が大きいうえに、法的基準値をわずかに下回るだけの高周波を撒き散らしながら降りてくるのだ。
日ごろ穏やかなパルスエンジンに慣れた島の者には、ちょっと耐えがたい。
「いいかい、みんな笑顔ですよ、笑顔」
社長が最後の注意をする。
先週、突貫工事で整備した飛行場には、会社、村、フートンの代表と幹部、それに物見高い非番の島民たちが集まっている。
掘っ立て小屋のような管制塔には『歓迎 国交省調査団御一行様』の懸垂幕も風になぶられて、ワクワク時めいている。
誘導員のサインで、B130が大型機の駐機位置に停まると、社長、村長、主席の三代表がB130後部のハッチ前に寄っていく。
歓迎式典実行委員長のサブが手を挙げると、堵列していた西ノ島合同音楽隊が歓迎の敷島行進曲を演奏し始める。
ウィーーーン
後部ハッチが開いてまろび出てきたのは、手に手に旧式なハンベのようなモノを掲げた一個分隊ほどのガスマスクたちだ。
『西ノ島のみなさん、ただいまより法定パルスガス検査を行います、静粛に願います』
B130から大音量で警告が発せられ、ガスマスクたちは歓迎する島民たちはおろか、B130の前に進み出た社長たちも無視して、飛行場全体に散った。
握手しようと出した手を真上に上げると『演奏止め』のサインを示す社長。
村長は、崖の上から第七騎兵隊を睨み据えるシャイアン族のように憮然と腕を組むし、主席は笑顔のまま時間が停まったように静止した。
やがて班長の腕章を付けたガスマスクが、両手で大きな〇のサインを作った。
そして、B130の日の丸が描かれた左舷ハッチを開けて、浅葱色の政府指定事業服を着た眼鏡男が出てきた。
「どうも失礼いたしました。環境省の規定でパルスガス発生地では、政府機関の者が直接検査をしなければならない決まりになっていまして。いや、今回は先遣隊を送る時間的余裕も無かったので、失礼いたしました。あ、申し遅れました。わたくし、通産省資源開発局局長の及川軍平と申します」
及川は慣れた仕草で名刺を出すと、三人の代表に過不足なく頭を下げながら渡していく。
「これはご丁寧に、わたし、氷室カンパニー代表役社長の氷室睦仁(ひむろむつひと)であります」
「よろしくお願いいたします」
「ナバホ村村長、ナムエリト。インディアン名刺持たない」
「痛み入ります」
「フートン主席、周温雷です、同志及川熱烈歓迎!」
「恐れ入ります」
無礼なのか慇懃なのか……いずれにしろ、型にはまりきった、日本公務員の権化のような及川軍平との折衝が始まった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 以仁 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 マヌエリト 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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