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092『島粋主義ではないけれど』
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銀河太平記
092『島粋主義ではないけれど』 加藤 恵
誰言うともなくパチパチ銀行と呼ばれるようになった。
むろん正式な名称は西之島銀行だけどね。
なんせ、窓口の日常業務をパチパチたちがやっている。
見かけは十四歳の少女だけども、喋らせると、元の作業機械であった頃のパチパチのまんま。
「お客さま、新規の口座開設ですね」
文字にすると普通なんだけど、ニッパチは中年サラリーマン風。
「客人、一年定期がお得でござるよ」
サンパチは、サムライ。
「同志、利率はフートンが一番アルよ」
イッパチは、古典的中華風。
このギャップが面白く、また島民には安心感と親しみが持たれ、予想以上の繁盛ぶりになった。
「これは、早晩、規模を拡大しないと追いつかなくなるね」
お昼ご飯のトレーをテーブルに置きながら社長が切り出す。
食堂の窓から銀行の窓口が見えている。配給用の倉庫を改造した銀行なので、ほとんど素通しで、カウンターから奥の金庫室まで見えてしまっている。
急速な発展が見込まれるのに、なんとも牧歌的。
「要員を増やさなければいけませんね」
「なにかアイデアはないかい?」
「そうですねえ……一般の島民から募集すれば?」
「ほう?」
「なにか?」
「メグミなら、パチパチと同じSK(作業機械)かロボットから選ぶと思ったんだけど」
「SKはパチパチたちだけでいいでしょ、理想を言えば、西ノ島の人口構成と同じになればと思いますよ」
「それも考え方だね」
「この食堂のメニューが、どれも美味しいのは、お岩さんが島の食材にこだわってるからだと思います」
ヘクチ
意外に可愛いクシャミが厨房から聞こえた。
「だけど、島粋主義というわけでもありません。これから、島は発展します。気を付けながらも島外からの投資や移民も考えなければと思います」
「そうだね……」
「あ、ひょっとして、社長から言い出すのは抵抗があります?」
「ハハ、見抜かれてるんだね」
「やっぱり」
「うん、この食堂のメニューは、どれも美味しいけど、そのままナバホ村やフートンに持ち込むようなことは、お岩さんしないだろ……お、今日のトンカツ、味も食感もいいね」
「分かったかい、社長?」
エプロンで手を拭きながらお岩さんが近づいてきた。
「なにか変えた?」
「パン粉はナバホ、香辛料をフートンの使ってみたんだ。うちの野菜とバーターで」
「ほう」
「みんな、いろいろやってるんですよ」
「そうか、そうだね、美味しくなることはいいことだよねね」
バン
乱暴にスィングドアが開いたかと思うと、ナバホの村長がサブを連れて入ってきた。
「なんだ、村の食堂は休みなのかい?」
「村長、昼、食た、社長に用事……」
最後まで言い切らず、村長は社長の向かいにドッカと腰かけた。
「ちょうど食べ終わったところだ、メグミ、お茶をくれませんか」
「はい、ただいま」
お茶にことよせて、村長と二人で話したいんだ。このへんの呼吸は、だいぶつかめた。
しかし、なにやら一大事のようなのに、完全な人払いをしないのは、社長らしい。
「早急、北の開発、やりたい、村長、社長の意見、聞く」
「島の北部を?」
「そう、北部だ……」
それ以上の話は遠慮した。
島の北部は、前世紀からの名残で日本国の主権下にある。
西ノ島は、21世紀の噴火で拡大したが、不毛な火山島なので、請負開発されて、紆余曲折があって現在の氷室カンパニー、ナバホ村、フートンの持ち物同然になっている。
パルスガ鉱石の発掘によって、飛躍的に価値が上がった島を日本国政府も放ってはおかなくなったというところだろう。
そのために、北部の権利を広げておこうという、そういう話なんだと思う。
ワハハハ
なんか、笑い声が上がって、社長と村長が盛り上がっている。
これは、フートンの主席もやってきて宴会になりそうな空気だ。
「宴会はいいけど、フートンも来るなら、お酒たりないよ」
お岩さんが言うと、社長も村長も顔色が変わって、食堂に居合わせた者たちに酒の調達を命じる。
「みんな、酒の調達。これは業務命令だ!」
いつも穏やかな社長の命令口調がおかしかった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
092『島粋主義ではないけれど』 加藤 恵
誰言うともなくパチパチ銀行と呼ばれるようになった。
むろん正式な名称は西之島銀行だけどね。
なんせ、窓口の日常業務をパチパチたちがやっている。
見かけは十四歳の少女だけども、喋らせると、元の作業機械であった頃のパチパチのまんま。
「お客さま、新規の口座開設ですね」
文字にすると普通なんだけど、ニッパチは中年サラリーマン風。
「客人、一年定期がお得でござるよ」
サンパチは、サムライ。
「同志、利率はフートンが一番アルよ」
イッパチは、古典的中華風。
このギャップが面白く、また島民には安心感と親しみが持たれ、予想以上の繁盛ぶりになった。
「これは、早晩、規模を拡大しないと追いつかなくなるね」
お昼ご飯のトレーをテーブルに置きながら社長が切り出す。
食堂の窓から銀行の窓口が見えている。配給用の倉庫を改造した銀行なので、ほとんど素通しで、カウンターから奥の金庫室まで見えてしまっている。
急速な発展が見込まれるのに、なんとも牧歌的。
「要員を増やさなければいけませんね」
「なにかアイデアはないかい?」
「そうですねえ……一般の島民から募集すれば?」
「ほう?」
「なにか?」
「メグミなら、パチパチと同じSK(作業機械)かロボットから選ぶと思ったんだけど」
「SKはパチパチたちだけでいいでしょ、理想を言えば、西ノ島の人口構成と同じになればと思いますよ」
「それも考え方だね」
「この食堂のメニューが、どれも美味しいのは、お岩さんが島の食材にこだわってるからだと思います」
ヘクチ
意外に可愛いクシャミが厨房から聞こえた。
「だけど、島粋主義というわけでもありません。これから、島は発展します。気を付けながらも島外からの投資や移民も考えなければと思います」
「そうだね……」
「あ、ひょっとして、社長から言い出すのは抵抗があります?」
「ハハ、見抜かれてるんだね」
「やっぱり」
「うん、この食堂のメニューは、どれも美味しいけど、そのままナバホ村やフートンに持ち込むようなことは、お岩さんしないだろ……お、今日のトンカツ、味も食感もいいね」
「分かったかい、社長?」
エプロンで手を拭きながらお岩さんが近づいてきた。
「なにか変えた?」
「パン粉はナバホ、香辛料をフートンの使ってみたんだ。うちの野菜とバーターで」
「ほう」
「みんな、いろいろやってるんですよ」
「そうか、そうだね、美味しくなることはいいことだよねね」
バン
乱暴にスィングドアが開いたかと思うと、ナバホの村長がサブを連れて入ってきた。
「なんだ、村の食堂は休みなのかい?」
「村長、昼、食た、社長に用事……」
最後まで言い切らず、村長は社長の向かいにドッカと腰かけた。
「ちょうど食べ終わったところだ、メグミ、お茶をくれませんか」
「はい、ただいま」
お茶にことよせて、村長と二人で話したいんだ。このへんの呼吸は、だいぶつかめた。
しかし、なにやら一大事のようなのに、完全な人払いをしないのは、社長らしい。
「早急、北の開発、やりたい、村長、社長の意見、聞く」
「島の北部を?」
「そう、北部だ……」
それ以上の話は遠慮した。
島の北部は、前世紀からの名残で日本国の主権下にある。
西ノ島は、21世紀の噴火で拡大したが、不毛な火山島なので、請負開発されて、紆余曲折があって現在の氷室カンパニー、ナバホ村、フートンの持ち物同然になっている。
パルスガ鉱石の発掘によって、飛躍的に価値が上がった島を日本国政府も放ってはおかなくなったというところだろう。
そのために、北部の権利を広げておこうという、そういう話なんだと思う。
ワハハハ
なんか、笑い声が上がって、社長と村長が盛り上がっている。
これは、フートンの主席もやってきて宴会になりそうな空気だ。
「宴会はいいけど、フートンも来るなら、お酒たりないよ」
お岩さんが言うと、社長も村長も顔色が変わって、食堂に居合わせた者たちに酒の調達を命じる。
「みんな、酒の調達。これは業務命令だ!」
いつも穏やかな社長の命令口調がおかしかった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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