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078『落盤事故』

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銀河太平記

078『落盤事故』 加藤 恵    




 ドオオオオオオオオオオオオン


 お岩さんを手伝って、朝食の準備をしていると、遠雷のような音がした。

「落盤だ!」

 お岩さんの手が停まる。

「うち(氷室カンパニー)だろうか……」

「どこだろうと、島で起こった事故だ……ここしばらくは無かったんだけどね」

 ドタドタドタ!

 猿のようにハナが駆け込んできた。

「A鉱区で落盤! 人手が足りない、来て!」

「うん!」

 それだけで、ハナと一緒に食堂を飛び出した。お岩さんは厨房の火を消して救護所に向かった。

 外に出ると、ベースのみんなが走っている。

 大方は、わたしと同じでA鉱区へ向かうけど、何人かは自分の持ち場へ、おそらくは災害時の非常配置が決まってるんだ、動きに無駄が無い。

 ガッシャンガッシャン

 四足獣的に形態変化させたニッパチがシゲさんを乗せて追い越していく。

 災害時に不謹慎かもしれないけど、ひどく統制が取れていて小気味いい。

 A鉱区の入り口が見えるところまでくると、村とフートンの即応機動車まで来ている。

 ベース同士の連携もいい。

「落盤は第二層と第四層、第二層はニッパチで向かって、村の機動車は坑口で待機しておくれ。第四層は北側から回り込まないと入れない」

 社長がトロッコの上で指揮を執っている。

「それなら、オレがフートンの機動車でまわる!」

 手を挙げたのは、村のサブ。言うと同時に機動車のハッチが開けられ、村と会社のメンバーが機動車の後ろに付く。

「四層には、擬態率五以下の者が付き添っておくれ」

 社長の言葉に、救護隊全体に緊張が走る。

「社長、ガスですか!?」

 メガネの技師が声をあげる。

「いや、念のためだ。さあ、両方とも取り残されてる者たちがいる、一刻を争う、よろしく頼むよ」

 オオーー!

 全員、気合いで応えると、それぞれの事故現場に向かう。

「僕たちも四層に向かおう」

 いつの間にか兵二が横に来ていて、わたしを誘った。

 わたしも兵二も新参者だけど、扶桑幕府の近習筆頭と天狗党、判断と動きに無駄は無い。

 狭いように見えてベースは広い、回り込んだ北側は、まだ足を向けたことが無い窪地にあった。

 え、どうして?

 戸惑いが最初に来た。

 あれだけ急いだ救助隊が、くぼ地の縁で立ち止まっている。

「なんで、停まって……」

「ガスだ」

 さっきのメガネ技師が呟くように言った。

「ガス?」

「ああ、パルスガス……ロボットや義体化の進んだ者は、踏み込めない」

 噂には聞いた事がある。純度の高いパルス鉱石が採れるところに発生するガスで、義体やロボットの神経系に致命的なダメージを与える。

「みんな下がれ! ガスの濃度が400PPMを超えている!」

「堀越さん、ダメかな?」

 第二層の現場から駆け付けてきた社長が技師に聞く。

 とんでもない状況なのに、先に表に出た者にお天気の様子を聞くように冷静だ。

「義体化率20%以下か、神経系の義体化をしていない者なら……」

「それは難しいね、島の住人には、ちょっと居ないんじゃないかなあ」

「耐腐食性の防護服が要ります」

「それなら防災倉庫……あ……」

 社長が目を向けた先には、爆発のショックで崩れた岩の下になった瓦礫が見えた。

「他のを取りに行かせてますが、すぐに人を向かわせた方がいいです」

「僕が行きます」

 兵二が進み出た。

「きみは、村の……」

「火星人です、義体化率ゼロの生身です」

「いいのかい、まだ、ここに来て日が浅いだろ?」

「事態は一刻を争います、違いますか?」

「しかし、きみ一人じゃ」

 メガネの堀越技師も止めに入る。

「わたしも行きます」

「メグミ、きみは義体化してるでしょ」

「神経系はいじってません、普通の防護服と酸素があれば大丈夫です。坑内の様子はニッパチをいじった時にメモリーを見ています」

「よし、じゃ、五十分を目途に」

「いえ、二時間はやれるわ」

「いや、戻って来る時間を考えたら、それが限度。そのころには、準備も整うだろうから。いいね?」

「「了解!」」 

 
 二分で必要な機材を整え、兵二と二人、すり鉢の底のような坑口を目指した……。


※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長                西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地


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