87 / 236
075『社長 村長 主席』
しおりを挟む
銀河太平記
075『社長 村長 主席』 加藤 恵
西ノ島には三つの採掘集団がある。
南部の氷室カンパニー。氷室社長がリーダーで、『南』とか『カンパニー』とか『会社』と呼ばれている。
東部のナバホ村。村長と呼ばれるインディアンの末裔が酋長のようにまとめていて、『東』とか『村』と呼ばれる。
西部のフートン(胡同)。主席と呼ばれる周温雷が指導者で、城塞を思わせる中国伝来の四合院に集住、『西』とか『フートン』と呼ばれる。
カンパニーの新人であるわたし(加藤恵)は社長のお供で、村での用事を済ませ、村長も加わって、フートンの門前に着いたところだ。
「東の村長だ、南の社長いっしょ。主席いるか!?」
村長が戦の名乗りをするような大声を門に向かってかける。
なんだか、アメリカインディアンが三国志の世界に殴り込みをかけてきたような迫力だ(^_^;)。
『主席は坑内の見回りに行っておられます、お急ぎなら鉱区の方へ、お時間があるなら中でお待ちください』
『来福門』の扁額に仕込まれたスピーカーからNHKのアナウンサーのような声で返事が返って来る。
「人工音声?」
「うん、日本語を喋れない者も多いからね」
「外で待ちましょう」
社長が村長の背中に呟く。
「外で待たせてもらう!」
『ご自由に』
社長が前に出ると、にこやかな顔で付け加える。
「フートンの周りを走って『東』と『南』で競走してもいいかな? じっと待っていては体が冷えますからね」
『あ、それは困ります(;'∀')』
なんで困るんだろ?
「西は漢明の人が多いからね」
「革命時代からの伝統で、覗かれたり取り囲まれたりするのを嫌がるんだ」
知ってて言ってる。社長も村長も意地が悪い。
『あと……えと……』
人工音声が悩んでいると、フートンの後方からガチャガチャと音がする。
『アイヤー 待たせて済まないある!』
サンパチに似たようなのが、左右にボディーを揺すりながら走って来る。
『おお、ホ-バイ!』
『わーい、イッパチぃ!』
ガシャガシャ ギッコンギッコンと音を立ててサンパチとニッパチが寄っていく。
名前とカタチから言って、おそらくはニッパチの兄弟マシンだろう。
『おお、ニッパチ、リアルハンド付けたあるか?』
『うん、新人のメカニックさんに付けてもらった!』
『拙者も、付けてもらうことになってござるよ』
『それはウラヤマあるなあ!』
「おまえたちは、駐車場に行って、ラインで話していなさい」
『了解ある!』『承知!』『ハーイ!』
サンパチたちが賑やかにパーキングに向かうと、主席が鷹揚に振り返った。
京劇の主役が務まりそうな男前、体格はそれほどではないけど、十分に逞しい。三国志の劉備玄徳に近い印象だ。
「三人揃うのは、久々。まだ日は高いが、一杯やりませんか」
「それ、いい! なあ、社長!?」
「そうですね、泊まりでというわけにはいかないが、陽のあるうちなら付き合いましょうか」
「話は決まった。門を開けてくれ!」
『了解、来福門を開けます』
ギギギギ
西ノ島で一番重厚な門が音を立てて開き始めた……。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
075『社長 村長 主席』 加藤 恵
西ノ島には三つの採掘集団がある。
南部の氷室カンパニー。氷室社長がリーダーで、『南』とか『カンパニー』とか『会社』と呼ばれている。
東部のナバホ村。村長と呼ばれるインディアンの末裔が酋長のようにまとめていて、『東』とか『村』と呼ばれる。
西部のフートン(胡同)。主席と呼ばれる周温雷が指導者で、城塞を思わせる中国伝来の四合院に集住、『西』とか『フートン』と呼ばれる。
カンパニーの新人であるわたし(加藤恵)は社長のお供で、村での用事を済ませ、村長も加わって、フートンの門前に着いたところだ。
「東の村長だ、南の社長いっしょ。主席いるか!?」
村長が戦の名乗りをするような大声を門に向かってかける。
なんだか、アメリカインディアンが三国志の世界に殴り込みをかけてきたような迫力だ(^_^;)。
『主席は坑内の見回りに行っておられます、お急ぎなら鉱区の方へ、お時間があるなら中でお待ちください』
『来福門』の扁額に仕込まれたスピーカーからNHKのアナウンサーのような声で返事が返って来る。
「人工音声?」
「うん、日本語を喋れない者も多いからね」
「外で待ちましょう」
社長が村長の背中に呟く。
「外で待たせてもらう!」
『ご自由に』
社長が前に出ると、にこやかな顔で付け加える。
「フートンの周りを走って『東』と『南』で競走してもいいかな? じっと待っていては体が冷えますからね」
『あ、それは困ります(;'∀')』
なんで困るんだろ?
「西は漢明の人が多いからね」
「革命時代からの伝統で、覗かれたり取り囲まれたりするのを嫌がるんだ」
知ってて言ってる。社長も村長も意地が悪い。
『あと……えと……』
人工音声が悩んでいると、フートンの後方からガチャガチャと音がする。
『アイヤー 待たせて済まないある!』
サンパチに似たようなのが、左右にボディーを揺すりながら走って来る。
『おお、ホ-バイ!』
『わーい、イッパチぃ!』
ガシャガシャ ギッコンギッコンと音を立ててサンパチとニッパチが寄っていく。
名前とカタチから言って、おそらくはニッパチの兄弟マシンだろう。
『おお、ニッパチ、リアルハンド付けたあるか?』
『うん、新人のメカニックさんに付けてもらった!』
『拙者も、付けてもらうことになってござるよ』
『それはウラヤマあるなあ!』
「おまえたちは、駐車場に行って、ラインで話していなさい」
『了解ある!』『承知!』『ハーイ!』
サンパチたちが賑やかにパーキングに向かうと、主席が鷹揚に振り返った。
京劇の主役が務まりそうな男前、体格はそれほどではないけど、十分に逞しい。三国志の劉備玄徳に近い印象だ。
「三人揃うのは、久々。まだ日は高いが、一杯やりませんか」
「それ、いい! なあ、社長!?」
「そうですね、泊まりでというわけにはいかないが、陽のあるうちなら付き合いましょうか」
「話は決まった。門を開けてくれ!」
『了解、来福門を開けます』
ギギギギ
西ノ島で一番重厚な門が音を立てて開き始めた……。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる