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074『フートンへ』
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銀河太平記
074『フートンへ』 加藤 恵
その足で西の『フートン』に行くことになった。
では、うちからもと、村長が同行を申し出る。
まるで友だち同士が連れだって、もう一人の友だちに会いに行くような気軽さだ。
天狗党にも似たような空気があるが、天狗党のそれは意識して作られたものだ。
天狗党は、日本中から尊王の志の高い者が集まった実力集団だ。
尊王と言っても、意識の持ち方は様々。
当代の女性天皇のファンという者から、伝統的な水戸学の方向しか認めない大時代な者まで。
天狗党は、そういう入党希望者を三か月の準備訓練で篩(ふるい)にかける。
入党希望の段階で、どのような考え方をしていても問題にはしないが、準備訓練で順応しない者は排除する。
当代のファンという者は真っ先に放り出される。天狗党は六世紀の推古天皇のように男子の皇位継承者が居ない場合の女性天皇は認めるが、女系天皇は断じて不可。
だから、当代で四代目になる女系女性天皇を排斥する活動を行っている。先月、靖国参拝の天皇の車列を襲った(靖国乙事件)のも、この活動目的の当然の帰結だ。さすがに、当代を弑逆(しいぎゃく)するところまではしない。目的は襲撃することで、当代と側近の心胆を寒からしめ、評判を落とすことにある。
評判を落とし、内外からの批判を巻き起こし、五代遡った男系の家系から相応の方を迎えて新天皇に御即位いただく。
三千年の長きにわたって連綿と受け継がれた正しい皇統に戻すことが、天狗党の目的であり存在意義なのだ。
しかし、尊王の志操が確かなものになれば、仲間の関係は意外にルーズ、いやファジー、自由闊達なものだ。
尊王の礎さえ確かであれば、あとは『明き心』のゆるい付き合いを大事にする。
『明き心』は生得のものではない。天狗党では、三か月の準備訓練の後は見習いの間に先達が教えてくれる。けして教条主義的なものではないが、日々の活動や党員同士の付き合いの中で「今のは、こうするべきだ」とか「口にすべきではなかった」とか「言わずとも分かるようにしろ」とか指導を受ける。
高野先生の「やって見せ 言って聞かせてさせてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」という教えにはまいったけど、緩く思える高野先生の教えも、折に触れて示される意識的な教えの一つであることには違いない。
いま、戻ってきたばかりのナバホ村のサンパチに乗り変えてフートンに向かっている。
「シゲと話してぇから替われや」
ザブが手下のガキに言うように顎をしゃくるので、サンパチの助手席に火星人と並んで座っている。
「おまえたち、ホーバイか?」
後部座席で腕組みした村長が首を伸ばす。
「ホーバイ?」
「朋輩、親友の事さ。村長は気に入っておられる」
「カンパニー、社長、教えてくれた。無二の親友。意味。儂、社長、ホーバイ。おまえたちもだろ?」
「えと、言っていいのかな?」
「キミがかまわなければ、僕から言おうか?」
「あ、いや……」
「儂、言う。儂、むかし、西ノ島の採掘権、奪う、やってきた殺し屋だ」
「殺し屋!?」
「ああ、ヒムロ社長、独占的に採掘権を握ってた。社長殺す、採掘権奪う。ために、アメリカからやってきた」
「CIAとかの?」
「そんな単純ない、漢明、息かかった組織。いろいろあった、いつの間にか仲良くなる、ホーバイになった」
『拙者が、村長を打ち漏らしたでござるよ』
「わ!?」
急な侍言葉にビックリ。二秒ほどでサンパチのAIの声だと分かるが、同型のニッパチとえらく違うので戸惑いが抜けない。
「サンパチ、社長暗殺するため、送り込まれた。殺人兵器。寸前、社長止めに来た、命拾いした」
『その罰として、拙者は村長の為に働くことになったのでござるよ』
「そうなんだ(^_^;)」
「で、お前、どうだ?」
「西ノ島は、人の身の上を詮索しないのでは……」
「言いたくない、言わなくてもいい。ホーバイ、聞いても悪くない」
「僕が扶桑幕府の将軍付き小姓だということは分かっているんだろう?」
「え、ええ……」
「ムフ」
村長の笑顔が不気味(^_^;)。
「そうよ! 緒方未来に化けて将軍に近づこうとした天狗党の女スパイですよ!」
「そうか、では、改めて、ナバホ村村民見習いの本多兵二だ。よろしくね」
「う、うん」
なんだか一点リードされたような感じで握手すると、岩場の向こうに城塞を思わせるフートンの楼門が見えてきた。
「わあ……」
西ノ島三つの集落の中で、一番立派な造りに、ちょっと驚いた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
074『フートンへ』 加藤 恵
その足で西の『フートン』に行くことになった。
では、うちからもと、村長が同行を申し出る。
まるで友だち同士が連れだって、もう一人の友だちに会いに行くような気軽さだ。
天狗党にも似たような空気があるが、天狗党のそれは意識して作られたものだ。
天狗党は、日本中から尊王の志の高い者が集まった実力集団だ。
尊王と言っても、意識の持ち方は様々。
当代の女性天皇のファンという者から、伝統的な水戸学の方向しか認めない大時代な者まで。
天狗党は、そういう入党希望者を三か月の準備訓練で篩(ふるい)にかける。
入党希望の段階で、どのような考え方をしていても問題にはしないが、準備訓練で順応しない者は排除する。
当代のファンという者は真っ先に放り出される。天狗党は六世紀の推古天皇のように男子の皇位継承者が居ない場合の女性天皇は認めるが、女系天皇は断じて不可。
だから、当代で四代目になる女系女性天皇を排斥する活動を行っている。先月、靖国参拝の天皇の車列を襲った(靖国乙事件)のも、この活動目的の当然の帰結だ。さすがに、当代を弑逆(しいぎゃく)するところまではしない。目的は襲撃することで、当代と側近の心胆を寒からしめ、評判を落とすことにある。
評判を落とし、内外からの批判を巻き起こし、五代遡った男系の家系から相応の方を迎えて新天皇に御即位いただく。
三千年の長きにわたって連綿と受け継がれた正しい皇統に戻すことが、天狗党の目的であり存在意義なのだ。
しかし、尊王の志操が確かなものになれば、仲間の関係は意外にルーズ、いやファジー、自由闊達なものだ。
尊王の礎さえ確かであれば、あとは『明き心』のゆるい付き合いを大事にする。
『明き心』は生得のものではない。天狗党では、三か月の準備訓練の後は見習いの間に先達が教えてくれる。けして教条主義的なものではないが、日々の活動や党員同士の付き合いの中で「今のは、こうするべきだ」とか「口にすべきではなかった」とか「言わずとも分かるようにしろ」とか指導を受ける。
高野先生の「やって見せ 言って聞かせてさせてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」という教えにはまいったけど、緩く思える高野先生の教えも、折に触れて示される意識的な教えの一つであることには違いない。
いま、戻ってきたばかりのナバホ村のサンパチに乗り変えてフートンに向かっている。
「シゲと話してぇから替われや」
ザブが手下のガキに言うように顎をしゃくるので、サンパチの助手席に火星人と並んで座っている。
「おまえたち、ホーバイか?」
後部座席で腕組みした村長が首を伸ばす。
「ホーバイ?」
「朋輩、親友の事さ。村長は気に入っておられる」
「カンパニー、社長、教えてくれた。無二の親友。意味。儂、社長、ホーバイ。おまえたちもだろ?」
「えと、言っていいのかな?」
「キミがかまわなければ、僕から言おうか?」
「あ、いや……」
「儂、言う。儂、むかし、西ノ島の採掘権、奪う、やってきた殺し屋だ」
「殺し屋!?」
「ああ、ヒムロ社長、独占的に採掘権を握ってた。社長殺す、採掘権奪う。ために、アメリカからやってきた」
「CIAとかの?」
「そんな単純ない、漢明、息かかった組織。いろいろあった、いつの間にか仲良くなる、ホーバイになった」
『拙者が、村長を打ち漏らしたでござるよ』
「わ!?」
急な侍言葉にビックリ。二秒ほどでサンパチのAIの声だと分かるが、同型のニッパチとえらく違うので戸惑いが抜けない。
「サンパチ、社長暗殺するため、送り込まれた。殺人兵器。寸前、社長止めに来た、命拾いした」
『その罰として、拙者は村長の為に働くことになったのでござるよ』
「そうなんだ(^_^;)」
「で、お前、どうだ?」
「西ノ島は、人の身の上を詮索しないのでは……」
「言いたくない、言わなくてもいい。ホーバイ、聞いても悪くない」
「僕が扶桑幕府の将軍付き小姓だということは分かっているんだろう?」
「え、ええ……」
「ムフ」
村長の笑顔が不気味(^_^;)。
「そうよ! 緒方未来に化けて将軍に近づこうとした天狗党の女スパイですよ!」
「そうか、では、改めて、ナバホ村村民見習いの本多兵二だ。よろしくね」
「う、うん」
なんだか一点リードされたような感じで握手すると、岩場の向こうに城塞を思わせるフートンの楼門が見えてきた。
「わあ……」
西ノ島三つの集落の中で、一番立派な造りに、ちょっと驚いた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
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