78 / 297
066『西ノ島新島 着陸』
しおりを挟む
銀河太平記
066『西ノ島新島 着陸』 加藤 恵
火星を出る時には姿を変えようと思っていた。
それが、何度やっても緒方未来の姿を解除できない。
「もう、元の人相忘れちまったっす」
シキシマが憎まれ口を言う。
天才ロボット学者の孫のわりに、なんの閃きもないシキシマがイッチョマエなことを言うが、こんなクソガキを言い負かしても憂さ晴らしにもならない。
下手に興奮させて、着陸に失敗されては元も子もない。
「……絡んでくんなきゃつまんないんですけどぉ」
「操縦に集中して、アナログで飛んでるんだから」
「それ、正しくないっす。このマイドはアナログでしか飛べねえっす」
「家に帰るまでが遠足だって、小学校で習わなかった?」
「大丈夫っす、今年は、まだ事故ってないし、西ノ島は家じゃないし。恵さん送ったら、またムーンベースまで戻るから、道半ばだから……あ、よけい気を付けなきゃいけないのか」
「そうよ」
「しかし、緒方未来でしたっけ? そのアバターもなかなかっすね。恵さんて分かってなかったらアプローチしたかも」
「冗談でも言わないでよ。おかげで、火星からは正規の交通手段は全てNGで、ムーンベース経由で、月からまる二日もかけて飛んでくるハメになってるんだから」
「仕方ないっす、ステルスだけが取り柄のマイドなんすから」
「だぁかぁらぁ、慎重に着陸してよね。ここで事故っても救難信号も出せないんだからね」
「恵さん、トイレ行ったっすか?」
「さっき行った」
「ちがうっす、大の方」
「なに聞くのよ!?」
「トイレタイム短いから、大の方は我慢してんのかなって」
「答えられるか、そんなこと! あんただって、短いでしょ!」
「早メシ早グソは得意技で、じいちゃんも、これだけは褒めてくれたっす」
「ああ、そ……ね、着陸の座標は合ってるんでしょうね」
「だいじょ……あ、ズレてる……修正っと……」
「ちょ、もう、ギア出してるわよ!」
「あ、間に合わねえ!」
「おい!」
「どっか掴まって!」
ガッシャン! ギギギ……ギク……
とても嫌な音をさせて、マイドは着地。
案の定、ギヤを破損。
さすがは東大阪の記念碑的パルス船なので、飛行することに問題は無かったが、このままではムーンベースに戻った時に着陸ができない。
「悪いけど、一人で直してね。こんなとこでグズグズしてるわけにはいかないから」
「大丈夫っす、エマージェンシーロボ積んでるっすから」
言いながらトランクからロボを取り出すシキシマ。
まあ、これでも敷島博士の孫なんだ、なんとかするだろ。
「じゃあね」
岩場を抜けて、周回道を目指す。
ピピ
周回道に出たところで、ハンベが鳴る。
シキシマからの、短距離通信だ。
やっぱり、修理の手が足らない……だったら無視!
画面を開くと、現在位置から最短で利用できるトイレが三つ点滅していた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
066『西ノ島新島 着陸』 加藤 恵
火星を出る時には姿を変えようと思っていた。
それが、何度やっても緒方未来の姿を解除できない。
「もう、元の人相忘れちまったっす」
シキシマが憎まれ口を言う。
天才ロボット学者の孫のわりに、なんの閃きもないシキシマがイッチョマエなことを言うが、こんなクソガキを言い負かしても憂さ晴らしにもならない。
下手に興奮させて、着陸に失敗されては元も子もない。
「……絡んでくんなきゃつまんないんですけどぉ」
「操縦に集中して、アナログで飛んでるんだから」
「それ、正しくないっす。このマイドはアナログでしか飛べねえっす」
「家に帰るまでが遠足だって、小学校で習わなかった?」
「大丈夫っす、今年は、まだ事故ってないし、西ノ島は家じゃないし。恵さん送ったら、またムーンベースまで戻るから、道半ばだから……あ、よけい気を付けなきゃいけないのか」
「そうよ」
「しかし、緒方未来でしたっけ? そのアバターもなかなかっすね。恵さんて分かってなかったらアプローチしたかも」
「冗談でも言わないでよ。おかげで、火星からは正規の交通手段は全てNGで、ムーンベース経由で、月からまる二日もかけて飛んでくるハメになってるんだから」
「仕方ないっす、ステルスだけが取り柄のマイドなんすから」
「だぁかぁらぁ、慎重に着陸してよね。ここで事故っても救難信号も出せないんだからね」
「恵さん、トイレ行ったっすか?」
「さっき行った」
「ちがうっす、大の方」
「なに聞くのよ!?」
「トイレタイム短いから、大の方は我慢してんのかなって」
「答えられるか、そんなこと! あんただって、短いでしょ!」
「早メシ早グソは得意技で、じいちゃんも、これだけは褒めてくれたっす」
「ああ、そ……ね、着陸の座標は合ってるんでしょうね」
「だいじょ……あ、ズレてる……修正っと……」
「ちょ、もう、ギア出してるわよ!」
「あ、間に合わねえ!」
「おい!」
「どっか掴まって!」
ガッシャン! ギギギ……ギク……
とても嫌な音をさせて、マイドは着地。
案の定、ギヤを破損。
さすがは東大阪の記念碑的パルス船なので、飛行することに問題は無かったが、このままではムーンベースに戻った時に着陸ができない。
「悪いけど、一人で直してね。こんなとこでグズグズしてるわけにはいかないから」
「大丈夫っす、エマージェンシーロボ積んでるっすから」
言いながらトランクからロボを取り出すシキシマ。
まあ、これでも敷島博士の孫なんだ、なんとかするだろ。
「じゃあね」
岩場を抜けて、周回道を目指す。
ピピ
周回道に出たところで、ハンベが鳴る。
シキシマからの、短距離通信だ。
やっぱり、修理の手が足らない……だったら無視!
画面を開くと、現在位置から最短で利用できるトイレが三つ点滅していた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる