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046『コスモスの鼻歌』

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銀河太平記

046『コスモスの鼻歌』マーク船長   




 コスモスの鼻歌はクセモノだ。


 新しいことを思い付いた証拠で、そのたびに驚かされるのは単調になりがちな船内やベースの日常にはいい刺激なんだが、稼ぎの仕事以外ではのんびりしていたいオレには、ちょっと煩わしく感じる時がある。

 だけど、口には出さない。船長も歳だとかオッサンだとか、ピーチクパーチク言われるのが分かってるからな。

 宇宙や火星での生活の90%は退屈だ。

 ブツを運んだり、ドンパチ撃ち合ったりってことは、全部合わせても5%ほど。それ以外はマッタリ過ごすのが、俺の流儀だし、こういうペースを守っているからこそ、他の同業者に比べて生存率が高いと思ってる。

 しかし、優秀なアンドロイドであるコスモスには退屈なようで、しょっちゅうベースやファルコンZの改修をやっている。

「そりゃ、船長が、いつまでもポンコツの船とベースに満足してるからですよ」

 中古宇宙船をネット検索しながらバルスがこぼす。

「船を買い替えようってか?」

「改造も限界ですからね」

「オレはファルコンZがいいんだ」

「今すぐという話じゃありません。いざとなって、慌てて探したらカスを掴みますからね」

「そうか……そうだな」

 宮さまを引き受けたんだ、そこまで肩入れする決心はついていないが、覚悟と準備は必要だろう。

 しかし、言霊(ことだま)ってことがある、まだまだ、口に出して良いことではない。

「今度はなんだろうなあ……先月はフェイクプールだったな」

「それは先々月です、先月はドームファームでした。もう、トウモロコシ……マースコーンが収穫できるって言ってました」

「ああ、リアルクッキングを目指してるんだったな」

「ええ、ファームの研究じゃ、扶桑将軍に一日の長があるようですが」

「うん、将軍は露地栽培らしいからな。成功したら規模の面では太刀打ちできないだろう」

「コンセプトは『明日の夢より今日のリアル』って言ってます」

「今度はなんだ? マースポテトかマースメロンか?」

「お、三菱いいいのが出てますよ」

「三菱ポテトか?」

「いいえ、船です」

「これで中古かあ? ゼロが九つも付いてるぞ」

「ハハハ、まだまだウィンドショッピングですよ」

「それなら、退役したてのエンタープライズでも買えそうだな」

「カガとイズモも買いますか」

 ウィンドショッピングも宇宙船クラスになると面白く、熱中してしまって、不覚にも真後ろで声を掛けられるまで気が付かなかった。


「船長、ひと狩りいきましょう!」


 振り返ると、古典ゲームの『モンスターハンター』のようなナリをしたコスモスが立っていた。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 
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