32 / 277
020『修学旅行・20・富士登山』
しおりを挟む銀河太平記
020『修学旅行・20・富士登山』穴山 彦
けっきょくパルスボードということになった。
ほら、修学旅行三日目の富士登山さ。
一昨日の成駒屋の夕食の時から話題にはしていたんだけど、なんと言っても二百年前の昭和平成ノスタルジーには抗しがたいものがあって、水道水の温泉(今どき塩素消毒の水道なんて太陽系で、ここだけだ)、風呂上がりの卓球、歴史的な昭和平成時代の食材による修学旅行メニューの夕食、枕投げに熱中してしまって沙汰やみになってしまった。
あくる日も上野・浅草の歴史的建造物群で遊び惚けてしまった。御即位二十五周年は、各地で様々な行事が行われていて、食べ物もレプリケーターではなくて、手間暇かけてリアル調理されたものが出されている。どら焼き、人形焼き、キビ団子、もんじゃ、ハヤシライス、メンチカツ、ポークソテー、うな丼、かつ丼、天ぷら……
全部食べるわけのも行かないので、どれを食べるかで四人は喧々諤々。
「五人か七人でくればよかったよお」
ミクが発展的にぼやく。
理屈は分かる。四人だと、二対二になったり四人バラバラになったりで、なかなか決められない。
三対一というのは、ちょっと気まずい。
五人なら二対三、 七人なら三対四という感じで別れるにしても発展的だ。
「らけど、気ままにまわりゅなや、この四人の組み合わせしか考えらえにゃいしい」
テルの舌足らずの感想も的を射ている。
けっきょく、ほとんど全てを食べ歩き、一人前を四人で分けて賑やかに盛り上がった。
さすがに『はなやしき遊園』はバーチャル体験だったけど、昔のVRとは比べ物にならないフルダイブのVRだったので、とてもリアルな体験ができた。
けっきょく楽しみ過ぎて、富士登山のことは当日の朝になって決まった。
パルスボードは、昔のキックボードに似ていて、パルス動力で浮遊して、ボードが体の傾斜を感知して動くと言う代物だ。
自分の足で登るほどではないが、けっこう、あちこちの筋肉を使うので――自分で登った!――という気にさせてくれる。
そのパルスボードでも七合目でテルはバテてしまい、僕とダッシュで交代で負ぶってやることになった。
「ちょっと、じっとしてろって!」
キョロキョロするテルを持て余して、ダッシュが怒る。
「らって、下界がしゅごいのよさ!」
「ああん?」
「あ、ほんとだ!」
促されて振り返ると、眼下には緑一杯の富士のすそ野が広がり、ちょうど角度のいい太陽に照らされて富士五湖の湖面がキラキラと輝いている。
「これが地球なんだねえ……」
ミクが目を輝かせる。日ごろは少年みたいなやつだけど、物事に感動した時は、きちんと女の子らしく暖かなかまぼこ型の目になる。ダッシュにたいしても時々こういう目をするんだけど、友だちとは言え、誘導するようなことは言わない。こういうことは当人同士が気づくまでは放っておいた方がいい。
「火星の地表は、まだまだ地のままだからなあ」
火星の緑化は、まだほとんど実験段階だ。食料になる野菜や観葉植物が、なんとかドームファームで育てられているというのが現状、この富士の裾野のようにむき出しの緑というのはお目にかかれない。
「頂上でサプライズイベントがあるらしいぞ!」
ダッシュがハンベのアラームを見て山頂を指さす。
「え、なに?」
「時間がねえ、行くぞ!」
「ちょ、かってにいかないでよ!」
「キャッホーー!」
目いっぱいの前傾姿勢をとって山頂に急ぐ。
ウワアアアアアアアアアアアアア!
テルがダッシュの背中で叫んだ。
なんと、眼下の雲海を抜けてゼロ戦の大編隊が飛び出してきたのだ。
「羽田に着いた時に見たやつだな!」
そうだ、御即位記念行事に使われることは分かっていたが、富士山上空での編隊飛行とは思わなかった。
ゼロ戦に続いて雲海を駆け抜けてきたのはジェット戦闘機だ。
あ、あれは!?
山頂の人たちからも歓声が上がる。
古典軍事には疎いので、ハンベに聞いてみる。
『F4EJ4400、空軍の前身である航空自衛隊で2020年まで使われていたファントム戦闘機。ファントムは日本でライセンス生産され、二百年前の今日、最後のフライトを行いました。1966年に選定されて以来50年以上実戦機として使われた記念碑的な機体です』
「レプリカかなあ……?」
『いいえ、ご大典に合わせて整備された実物で、操縦は……』
オートフライトではなくパイロットが乗っているのにはタマゲタが、さすがに人間ではなく、航空団所属のロボットパイロットではあった。
でも、その卓越した操縦と飛行に山頂からは大きな拍手が巻き起こった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
※ 事項
扶桑政府:火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる