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014『修学旅行・14・児玉元帥・3』
しおりを挟む銀河太平記
014『修学旅行・14・児玉元帥・3』ダッシュ
満州戦争の功績で元帥府に列せられた児玉元帥は陸軍の朝霞谷駐屯地に居る。
軍も政府も乃木坂に元帥府官舎を用意したのだが、乃木将軍ゆかりの地では落ち着かないということで、特定の行事が無い限り足を向けず、日ごろは近くの乃木坂学院の部活動や地域活動に貸し出している。
朝霞では当初士官用の二人部屋に起居していたが、同じ士官宿舎棟の将校たちが気を使うというので営庭の隅にある倉庫を居住に耐えるように手を加えて住んでいる。
最初は、ほんの掘っ立て小屋という風情だったのを――これではあんまりだ――という駐屯地の兵たちが資金を出し合い、非番の工兵隊が中心になって田舎の診療所程度の宿舎を作った。
「元帥は分教場だとおっしゃっています」
案内のヨイチ准尉が説明してくれて、その宿舎に入るのかと思ったら受付のようなところで元帥は室内プールだと言われ、営門近くの室内プールに向かった。
プールに足を踏み込むと、景気のいい水音と子どもたちの歓声がくぐもって響いていた。
「よし、あとは上級者が初級の面倒を見てやれ、五十メートル往復二本。歩いてでもいいから完泳しろ。終わったら出席カードにハンコ押してもらって食券をもらって食堂に行っていいからな」
元帥は、プールに浸かって幼稚園から中学生くらいの子たちに水泳を教えていた。
「元帥、扶桑の方々をお連れしました」
「ああ、すまん。プールサイドのテーブルのところで待っていてくれ」
ヨイチ准尉が手を挙げると、水泳指導を終えた兵士が手際よく整えてくれて、俺たちはペコリとお辞儀して席に着いた。
五十メートル一本だけ子どもたちに付き合って、元帥はプールから上がった。
思わず息をのんだ。
そのまんまモデルが務まりそうな水着姿から水が滴り、なんか清涼飲料水か歯磨きのCMの一コマのようだ。
プールから上がった元帥は水泳キャップを外して、ザっと水けを振るい落とすとバスタオルでワシャワシャと髪を拭き、拭いたタオルを腰に巻いただけの格好でテーブルの方にやってきた。
見かけは二十代の女性だが、中身は満州戦争で名をはせた老練の英雄だ。思わず起立してしまった。
「ああ、堅苦しいのはよそう。わたしもこの格好だからね、掛けてくれたまえ」
「「「「失礼します!」」」」
学校では絶対しないような行儀のいい挨拶をして、再び席に着いた。
「大石一くん、穴山彦くん、緒方未来くん、平賀照くんだね」
元帥は正確に俺たちの名前を呼ぶと、テーブル越しに一人一人に握手してくれる。
「君たちのお蔭で大事にならなかった、こんな非公式の場だがお礼を言うよ」
そう言うと元帥は深々と頭を下げる。
アタフタした俺たちも揃って頭を下げる。
ヒコは若年寄の息子らしくきれいに、未来は首が落ちてしまうんじゃないかってくらいにカックンと、テルは背が低いこともあって、下げた頭をテーブルにゴチンとぶつけて、俺は元帥の真ん前で頭を下げながらも元帥の水着からこぼれそうな胸を一瞬だけどガン見してしまった(^_^;)。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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