20 / 277
008『修学旅行・8・取り返したあ!』
しおりを挟む銀河太平記
008『修学旅行・8・取り返したあ!』
階段を下りて蔵前通に出た。ちょうど息せき切ったヒコが現れるのと同時だ。
「だ、だ……だいじょうぶか、ダッシュ!?」
「こっちの台詞だ、俺の後に付いて走って来るなんて無茶だぞ」
「ボクの事はいい。パスポートは取り返したのか?」
「ああ、おとりを使ったりしやがったけど、このビルの屋上に逃げたのを追い詰めて取り返したところだ」
パスポートをヒラヒラさせてやると、ヒコは安心して盛大な溜息を吐いてしゃがみ込んでしまった。
「よかったぁ……」
「ちょっと待ってろ」
首を巡らせると、隣のビルの前に自販機があるのが目について、ウーロン茶のアイコンに手をかざす。
ゴットン
古典的な音がして、ウーロン茶のペットボトルが二つ転がり出る。
今どきの自販機はレプリケーターで、商品は瞬時に仮想テーブルの上に現れるが、こいつは、中に貯蔵しておくと言う古典的なスタイルだ。これもアキバノスタルジーなのかもしれない。
「ほれ、まずは水分補給だ」
「すまん」
俺は一気飲みだけど。ヒコは半分ほどを一気に飲んで、あとはチビチビ。模範的な水分補給方だ。
男同士、無駄なことは喋らない。
この修学旅行を単独に近いグループ行動にできたのはヒコの尽力があってのことだ。
ヒコは、扶桑星府若年寄・穴山新右衛門の息子だ。ふだん親の七光り的なことはめったにやらないが、今度の修学旅行では、メンバーの希望もあって、ちょっと無理をしている。だから、事故が起こったら真っ先に責任を問われる。そういう事故が起こらないように安全に気を配るのが俺の役割だと思っていたから、なんとも、この親友に申し訳が無い。
「いらん気遣いはよせ、女子のパスポートが盗られたら全力で対応するのは男の務めだ」
「おお、俺もそうだ」
ヒコのプライドに関わることに多弁は禁物だ。俺は口が立たねえし、論じてるヒコも、ちょっと苦手だしな。
ヒコのウーロン茶が残り四分の一になったころに、未来とテルがタクシーでやってきた。
「パスポートは!?」
タクシーから転がり出てきたミクは情けない顔で迫って来る。
「ハハ、去年の文化祭でたこ焼き食い損ねたとき以来のヘタレ顔だな」
「茶化すなア!」
「あ、その顔かわいいぞ」
「殺すぞお!」
「ほれ、取り返したぞ」
食い殺されてはかなわないので、パスポートを顔の前に出してやる。
ペチョ
顔と顔の間にパスポートを挟んだままテルが抱き付いてくる。
「パ、パスポートおおおおお! わたしのパスポートおおおおおおおおお! ありがと、ありがとダッシュううう!」
「う、抱き付くなあ(^_^;)、ヨダレが付くう!」
「だって、だって……」
「ちょ、かしなしゃい」
テルが俺と未来を隔てているパスポートを、ヒョイと取り上げる。おかげで未来の涙とヨダレがまともについてかなわねえ。
「……これ、にせものだわよさ」
「「「え!?」」」
そ、そんな……
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
セルリアン
吉谷新次
SF
銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、
賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、
希少な資源を手に入れることに成功する。
しかし、突如として現れたカッツィ団という
魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、
賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。
人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。
各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、
無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。
リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、
生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。
その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、
次第に会話が弾み、意気投合する。
だが、またしても、
カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。
リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、
賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、
カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。
カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、
ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、
彼女を説得することから始まる。
また、その輸送船は、
魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、
妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。
加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、
警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。
リップルは強引な手段を使ってでも、
ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる