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004『修学旅行・4・湾岸線』

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銀河太平記

004『修学旅行・4・湾岸線』    

 

 
 正面ロータリーで同級生三人(ダッシュ、ヒコ、ミク)を拾うとアナログのトヨタは湾岸線を北に向かった。

 
「警察とか追いかけてこないのかなあ?」

 ミクが期待したような口ぶりで背後や上空を気にする。

「だいじょうぶなのよさ。非は向こうにあゆんだかや、まあ、マークはしゃれてゆだろうけど」

「しかし、アナログってのは面白いけど、二層走れねえのは気分悪いな」

 ※:二十三世紀の車はパルスエンジンで浮遊走行し、主要道路は二層構造になっている。アナログ車はタイヤで接地走行するので、地上である一層しか走れない。

「地球に着いたら絶対アナログって言ってたのは誰だ」

「そりゃ俺だけどさ、走るんなら鈴鹿とか富士スピードウェイとか筑波だろ」

「鈴鹿以外は閉鎖されてるぞ」

「そうなのか?」

「ダッシュは遅れてるう」

「古典サーキットは維持費がたいへんだからな、技術継承のためだけなら筑波でも十分だった。文化財的価値を勘案すると、日本じゃ鈴鹿ということになる」

「まあ、とにかくさ、Gとか加速感とか慣性の法則とか路面をタイヤが噛むのを感じてみたかったということさ。この滑らかさじゃパルス車と変わんねえし」

「贅沢言わない、せっかくの修学旅行なんだから楽しむことに関して口を動かしてよ」

「いちおう、アキバに向かってゆのよさ」

「お、しょっぱながアキバか! ちょっち検索しなきゃな」

「あ、インタは反則ぅ」

 ※:インタ=インタフェイスのこと、地球では埋め込み型が多いが、火星では様々な理由からウェアラブルや携帯式になっているものがほとんど。ちなみに、修学旅行中の四人は古典的な『旅の栞』の携帯を義務づけられ、緊急時以外のインタは禁止されている(ダッシュのように守っていない者も多い)

「あんな黄表紙本みたいなの持ち歩けねえ」

「黄表紙本はないでしょ、モデルは『るるぶ』なのよ。編集にはわたしも入ってんだからね」

「え、そうなのか?」

「『るるぶ』と黄表紙を一緒にする神経も分からん、黄表紙は江戸時代で『るるぶ』は昭和・平成だぞ」

「ああ、オレ歴史は苦手だし、どっちもアナログの紙媒体だし同じじゃん」

「んなんじゃ、期末テスト、また欠点とるよ~」

「ダッシュ、卒業だけはいっしょにしような」

「うっせ! 修学旅行中は、そうゆう話は無しだろおがあ!」

「すまん、ダッシュの言うこと聞いてると、つい意識が現実にもどされてなあ」

「ヒコも、ナニゲにきつじゃん(;'∀')」

「テルがぜったい、卒業させてやゆかや!」

「あ、そーゆうのいいから」

「小父さんから、ぜったい卒業しゃしぇてって言われてゆのよさ。下宿人としては、大家の頼み、おろしょかにはできないのよ」

「あ、あれ、レインボーブリッジじゃねえのか!? ほら、歴史でも国語でも出てきた!」

「ああ、あれがあ……」

「ダッシュでも教科書に出てくること憶えてんだ」

「ああ、あの名作『ゴジラ』の印象は強烈だったからな」

 ダッシュは、ほかの生徒のように人類の敵『ゴジラ』が印象に残ったのではない。ゴジラの侵入から都民を守るため、警察や自衛隊はレインボーブリッジの通行を停めようとして、総理も頷くが、橋の管理や交通規制の権限が分散・混乱しているために「レインボーブリッジの通行は止められません!」と言われ、ゴジラ対策が後手後手に回る。そのアホラシサが、ダッシュは印象に残ったのだ。

 こういう感性が、直接褒められることはないにせよ、ヒコ、ミク、テルたちから愛されているところなのだろう。

 トヨタのアナログ車はアキバまで二キロを北東にひた走った。
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