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002『修学旅行・2』
しおりを挟む銀河太平記
002『修学旅行・2』
展望デッキに居合わせた旅行客や見学者やらトランジットやら空港スタッフやらが、揃って四番ポートに目を向けた。
ゴーーーーーーーーーーーーーーーー
ついさっき火星からの修学旅行生五百人を乗せてきたパルスシャトルが飛び立った四番ポート前のカーゴロードを滑走路にして、十二機のゼロ戦を始め三百年前の日米軍用機百機余りが着陸しようとしているのだ。
「すごいな……」
ヒコが短い言葉で感動する。
日ごろクールな彦が「すごいな」などと感動を言葉にすることは無い、たいてい「へー」「ほー」「うん」で済ます優等生が、平仮名にして四文字も口にすることは珍しい。
日ごろ、何かにつけ正直に感情や想いを口にするイチは、逆に言葉も出ないし、創立五十周年記念式典の運営で『将来はわたしの秘書になって欲しい』と将軍に言わしめたミクは穏やかな笑顔で見ているが、よく見ると薄く口と瞳孔が開いて、幼なじみであるイチが正面から見ていたら「どうしたミク!?」と耳元でささやくくらいに感動している。
児玉戦争と別名で呼ばれることが多い満州戦争終結二十五周年と今上陛下御在位二十五年を記念して行われるページェントのために集められたクラシックたちだ。
東京を皮切りに日本各地で展示飛行などが行われる。それが、たった今到着したのだ。
「すごい、プロペラで空気かき回して飛ぶんだぜ」
「ここまで振動が伝わって来る……」
「待った甲斐があったな」
ヒコたち四人はページェント参加機の到着が、自分たちのパルスシャトル到着の一時間後であることを知って、羽田空港の展望デッキで待っていたのだ。
「あ、えと、テルもそろそろなんじゃない?」
ミクが時計を気にする。
「そうだな……」
「ダメよ」
右手の人差し指を振ってインタフェイスを出そうとしたイチをミクがたしなめる。
「そうだな、修学旅行中はアナログでいこうって決まりだぞ」
「あ、わりいわりい(^_^;)」
「下りて待ってみる?」
「あ、もうちょっと……」
「あとはVRでダイブすればいいじゃない」
「やっぱ、ライブで見るのは違うからなあ……」
「ん、あれは?」
ミクが指差した方向にはエプロンに入って来るトランスポーターの車列が見える。
「一部の機体は、あれに載せてキャンペーン会場に持っていくんだ」
「火星までは持ってきてくれないだろうなあ……」
「当たり前でしょ、いくらパルスでも火星は遠すぎる」
「あ……」
ヒコが小さく驚いた。
ミクとイチが目を向けると、エプロンにタイヤを軋ませてアナログ車が突入してくるところだ。
キキキーーーーーー!!
トランスポーターに接触しそうになってスピンして運転席に見えた姿は……
「「「テルだ!」」」
イチ ミク ヒコ テル 四人の修学旅行が始まった。
※ この章の主な登場人物
イチ(大石 一) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
ヒコ(穴山 彦) 扶桑第三高校二年、扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
ミク(緒方 未来) 扶桑第三高校二年、イチの幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
テル(平賀 照) 扶桑第三高校二年、飛び級で高二になった十歳の天才少女
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