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序・12『戦死』

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銀河太平記

序・12『戦死』    

 

 
 お、俺のソウルを……ダウンロードしろ。

 
 苦しい息の下で、やっとそれだけを言った。

 JQの他は副官のヨイチが居るだけだ。千名の大隊はサカマキ大隊長の指揮で、七千の敵威力偵察部隊の鼻先を掠めにかかっている。敵が次の動きに移るまでは時間が稼げる。

 その後の指揮は俺の頭脳でなければ為し難い。ロボット部隊の行動パターンは将棋の棋譜のように完全に読まれている。

 一か八か、JQにソウルをダウンロードさせ、JQのボディとCPを使わなければ為し難い。

「ソウルをダウンロードしたら、死んでしまう」

「このままでも、俺は……十分と持たない、や、やってくれ!」

「分かった」

 JQは両手で俺のこめかみを挟んだ。微弱な電流が流れて、俺の脳みその保全を図ろうとしている。

「ロボット法なんて無視しろ……か、かかれ」

「死んでも知らないから……」

 意識が飛んだ……目の前にキラキラ光るホールが現れたかと思うと、吸い込まれる感覚がして、本格的にホワイトアウト……してしま……った。

 
「ここからは、わたしが指揮をとる」

 
 副官のヨイチは児玉司令の死亡とわたしの目の光を三秒で確認して、復唱した。

「司令のソウルと確認しました」

「全軍に下令、すみやかに興隆鎮に集結せよ」

「『全軍、すみやかに興隆鎮に集結せよ』、全部隊に伝達します」

 きれいに敬礼を決めると、ヨイチは直近の部隊目指して120キロの最大戦速で走って行った。

 わたしは、司令のテッパチ(ヘルメット)を外すと指先をバリカンモードにして髪の毛を刈る。

 坊主された俺はわんぱく坊主のようだ、どこか懐かしくて……これはグランマの記憶かな?

 遺髪をポケットに収めると、ジェネレーターを放電させて司令の遺骸に照射。二十秒で灰にした。

 
 興隆鎮に戻ると、すでに部隊の八割が終結を終えている。

 
「この身はJQであるが、ソウルは児玉司令である。十分後に命令を下す。警戒を怠るな!」

 敵は混乱している。

 日本軍は国境で待ち受けていたかと思うと、奉天を包囲。そして、たちまちのうちに興隆鎮に撤退したのだ。

 行動原理が軍隊の常識から外れ過ぎている。児玉司令の履歴と古今東西の戦闘記録を検索して予想を立て直しているに違いない。

 十分もすれば、また威力偵察をかけてくるか、自軍の損失を抑えるため砲撃を加えてくるだろう。

 敵よりも早く行動しなければならない。

「司令、東京から機密電であります」

 ヨイチが差し出した通信文には恐れていたことが記されていた。

『明日の日の出は無し』

 陛下が崩御された。

 この分かりやすい機密電は、ほぼ同時に敵も察知して、天皇崩御時の日本軍の行動を探っていることだろう。検証すればいい、明治このかた天皇崩御の時に戦争をやっていたことは無い。

 腹は決まった。

 
「全軍、わたしに続け!!」

 
 一万のロボット部隊は一本棒になり、120キロの最大戦速で奉天に突撃した。

 奉天を目前にして、これは関ヶ原の島津軍の部隊行動に似ていると思った。

 二千に満たない島津軍は、西軍敗北が決まった瞬間に桃配山の家康本陣に突撃、家康の心胆を寒からしめた上で戦場を離脱。島津軍は島津義弘を護りつつ、二十名ほどが、からくも薩摩に帰りついた。この時の島津軍の火の出るような吶喊に恐れをなし、幕末に至るまで幕府は薩摩に手出しすることができなかった。

 この島津軍同様、日本軍ロボット部隊は98%が壊滅したが、混乱した漢明国は南北の国境まで後退。

 北方に逃げた漢明軍はロシア軍によって武装解除され、南に逃げた部隊は人間の指揮官が残っておらず、作戦行動をとるのに時間がかかり、あくる日に日本軍の新勢力が展開するに及んで身動きがとれなくなり、八十年続いた国ぐるみ滅んでしまった。

 
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