上 下
11 / 269

序・11『威力偵察』

しおりを挟む

銀河太平記

序・11『威力偵察』    

 

 
 壮大なハッタリだ。

 
 たった一万の兵で十万の漢明兵が籠る奉天を包囲しているのだ。

 パルス系観測機器が使えないとは言え、敵は、ほぼ正確に我が方の勢力を把握しているだろう。なんせ、厚さ一ミリ、超薄皮のシュークリームだからな。

 敵もバカではないから、俺の癖や日本軍の戦歴を熟知している。

 おそらく、三百年前、日本軍が奉天に籠ったロシア軍に対し劣勢な日本軍が行った『奉天包囲戦』意識するだろう。

 包囲戦は敵の三倍の兵力が無くてはできないのが常識だ。ロシアのクロパトキンは、その常識に囚われ、果敢に戦うことなく破れてしまった。

 二十三世紀の今日は日露戦争ではない。パルス系の兵器や観測機器が使えないと言っても、敵の情報は、ほぼ筒抜けだ。99%は彼我共に情報を掴んでいる。

 だが、残りの1%に敵は不安をいだく。

 児玉が包囲したのは勝算があるに違いない、勝算が無ければ、こんな無謀なことはやらないはずだとな。クロパトキンのことは知っているはずだが、日露戦争三百年後の今日、日本軍がやるとは思わない。壮大な伏兵があるとか、日本本土からの奇襲がある、あるいは、奉天市民の中にスリーパーが居て、体内に戦術核を仕込んでいてゲリラ的な攻撃に出てくるとか。恐怖の想像力はマンチュリアの草原よりも広くなっているに違いない。

 実はなにもない。

 敵の妄想を広げておけば、ひょっとしたら活路が開けるかもしれない。栄えある日本軍としてみっともないことは出来ない。その二点だけで、日本軍史上最大のハッタリをかましているにすぎないのだ。

「敵に威力偵察の様子あり!」

 斥候の報告が上がってきた。

「規模は?」

「一個旅団、七千ほど」

 威力偵察だけで日本軍の全勢力に匹敵する。

「後退しつつ応射!」

 まともにぶつかるわけにはいかない、一個旅団相手にアクロバットをやるしかない。

「一個大隊だけ付いてこい! 敵をかき回す!」

「やっぱり、わたしがウマ?」

「指揮官先頭が日本軍の伝統だからな」

 不足顔のJQに肩車をさせる。時速100キロは出るR兵部隊を人間の足では指揮できない。

「死ぬかもしれないわよ」

「敵もパルス系の兵器が使えない、そうそう命中はしない」

 パルス系が使えないということは、戦闘にしろ通信にしろ三百年前に戻ったのも同然で、赤外線照準もできない。全てがアナログに戻ってしまうのだ。

「吶喊(とっかん)!」

 号令をかけると、やっと千名の大隊を率いて突撃。

 JQは、マッハの速度で飛んでくる銃砲弾を避けながら進んでくれる。どうやら横須賀に記念艦展示されている『こんごう』のイージスシステムほどの能力がありそうだ。

 しかし、俺は調子に乗り過ぎていたのかもしれない。

 ビシ!

 JQの処理能力を超えた一発の弾丸がビンタのような音をさせて俺のアーマーを貫いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...