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序・11『威力偵察』
しおりを挟む銀河太平記
序・11『威力偵察』
壮大なハッタリだ。
たった一万の兵で十万の漢明兵が籠る奉天を包囲しているのだ。
パルス系観測機器が使えないとは言え、敵は、ほぼ正確に我が方の勢力を把握しているだろう。なんせ、厚さ一ミリ、超薄皮のシュークリームだからな。
敵もバカではないから、俺の癖や日本軍の戦歴を熟知している。
おそらく、三百年前、日本軍が奉天に籠ったロシア軍に対し劣勢な日本軍が行った『奉天包囲戦』意識するだろう。
包囲戦は敵の三倍の兵力が無くてはできないのが常識だ。ロシアのクロパトキンは、その常識に囚われ、果敢に戦うことなく破れてしまった。
二十三世紀の今日は日露戦争ではない。パルス系の兵器や観測機器が使えないと言っても、敵の情報は、ほぼ筒抜けだ。99%は彼我共に情報を掴んでいる。
だが、残りの1%に敵は不安をいだく。
児玉が包囲したのは勝算があるに違いない、勝算が無ければ、こんな無謀なことはやらないはずだとな。クロパトキンのことは知っているはずだが、日露戦争三百年後の今日、日本軍がやるとは思わない。壮大な伏兵があるとか、日本本土からの奇襲がある、あるいは、奉天市民の中にスリーパーが居て、体内に戦術核を仕込んでいてゲリラ的な攻撃に出てくるとか。恐怖の想像力はマンチュリアの草原よりも広くなっているに違いない。
実はなにもない。
敵の妄想を広げておけば、ひょっとしたら活路が開けるかもしれない。栄えある日本軍としてみっともないことは出来ない。その二点だけで、日本軍史上最大のハッタリをかましているにすぎないのだ。
「敵に威力偵察の様子あり!」
斥候の報告が上がってきた。
「規模は?」
「一個旅団、七千ほど」
威力偵察だけで日本軍の全勢力に匹敵する。
「後退しつつ応射!」
まともにぶつかるわけにはいかない、一個旅団相手にアクロバットをやるしかない。
「一個大隊だけ付いてこい! 敵をかき回す!」
「やっぱり、わたしがウマ?」
「指揮官先頭が日本軍の伝統だからな」
不足顔のJQに肩車をさせる。時速100キロは出るR兵部隊を人間の足では指揮できない。
「死ぬかもしれないわよ」
「敵もパルス系の兵器が使えない、そうそう命中はしない」
パルス系が使えないということは、戦闘にしろ通信にしろ三百年前に戻ったのも同然で、赤外線照準もできない。全てがアナログに戻ってしまうのだ。
「吶喊(とっかん)!」
号令をかけると、やっと千名の大隊を率いて突撃。
JQは、マッハの速度で飛んでくる銃砲弾を避けながら進んでくれる。どうやら横須賀に記念艦展示されている『こんごう』のイージスシステムほどの能力がありそうだ。
しかし、俺は調子に乗り過ぎていたのかもしれない。
ビシ!
JQの処理能力を超えた一発の弾丸がビンタのような音をさせて俺のアーマーを貫いてしまった。
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