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序・8『人とロボット・1』
しおりを挟む銀河太平記
序・8『人とロボット・1』
俺の勘は外れた。
マン漢国境の弱点に集結した敵はニ十分ほどで消えて、その後は威力偵察のように一個大隊規模の部隊が侵入を繰り返したが深入りはしてこない。
逆にマンチュリア北方の露マン国境近くにロシア軍が集結し始めている。マン漢戦が飛び火しないための手当てではあるのだろうが、絶対的に戦力不足の日マン軍には脅威だ。二百数十年前、まだソ連と名乗っていたロシア軍が日ソ不可侵条約を一方的に破棄して攻めてきた歴史的前科がある。
「おちょくってやがる」
いったんCICに入ったが、一時間足らずで司令官室に戻った。
「敵は、俺を疲れさせるつもりらしい。ひと眠りする」
靴のままベッドに飛び込んだかと思うと三秒で95%の眠りに落ちる。
5%は起きている。
三百年前、満州軍総参謀長を務めたご先祖は、弾雨の中でも熟睡できたと言われるが。俺にはできない。ご先祖は江ノ島弁天の加護があったと言われる。江ノ島に別宅を持っていたことから出た伝説だろうが、案外そうなのかもしれない。
特段の信仰を持たない俺に、神仏の加護があろうはずもない。だから95%で十分だ。
……江の島弁天が覗き込んでいる……なんとも懐かしい。
そうだ、士官候補生仲間で、児玉神社に寄ったついでに江ノ島弁天を拝みに行ったんだ。
全裸同然の弁天さまをまともに見れずに……そうか、横で惟任美音が意地悪な目で笑っていたか。
では、なぜ、目の前のこれが、弁天さまだと分かるんだ?
ねぇむれ ねぇむれ は~はの胸~に♪
弁天さまが子守唄を歌っている。
これは夢か……95%の眠りにしてはいい夢だ……
危うく100%の眠りに落ちかけて、閃くものがあって目が覚めた。
「今度こそ来る。ついてこい!」
俺を起こそうと、ちょうどヨイチが来るところだった。
そのままCICに向かうと「奉天市内の衛星画像を出せ!」と命じた。
「マン漢国境付近から百二十基のミサイル、突っ込んでくる!」
「迎撃ミサイルは?」
「いま発射されました」
「何発?」
「108」
「残りはCIWSで間に合う、奉天を」
「奉天出します」
オペレーターが復唱すると同時に画面が揺らめいたかと思うと、突如映像が切れた。
「偵察衛星ロスト」
「敵ミサイル百五機を破壊、一機ロスト、十四機突っ込んでくる」
それには躊躇せずに、司令は別の命令を出した。
「航空管制レーダーを出せ!」
「航空管制レーダー出します」
メインモニターに奉天空港の管制レーダーが出された。
マンチュリアの上空には五機の航空機が映っている。マンチュリアを引きあげる最終便だ。
「全機に緊急着陸を指示!」
「我が方には航空管制権はありませんが」
「戦時だ!」
その時、ドスンと衝撃がやってきて、数秒遅れてくぐもった爆発音が響いた。
「奉天市内で爆発、衝撃の八十パーセントは上空を指向」
「アンチパルス弾だ……」
二十三世紀初頭、航空機、船舶、ロケット、自動車、戦車、バイクに至るまで大半がパルス動力で動いている。アンチパルス弾とは、爆発の衝撃で強いアンチパルス波を発し、パルス動力を一瞬で停めてしまうと言う恐怖の兵器。二百年前の核兵器同様、国際的に使用は禁止されている。
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