上 下
8 / 277

序・8『人とロボット・1』

しおりを挟む

銀河太平記

序・8『人とロボット・1』    

 

 俺の勘は外れた。

 マン漢国境の弱点に集結した敵はニ十分ほどで消えて、その後は威力偵察のように一個大隊規模の部隊が侵入を繰り返したが深入りはしてこない。
 逆にマンチュリア北方の露マン国境近くにロシア軍が集結し始めている。マン漢戦が飛び火しないための手当てではあるのだろうが、絶対的に戦力不足の日マン軍には脅威だ。二百数十年前、まだソ連と名乗っていたロシア軍が日ソ不可侵条約を一方的に破棄して攻めてきた歴史的前科がある。

「おちょくってやがる」

 いったんCICに入ったが、一時間足らずで司令官室に戻った。

「敵は、俺を疲れさせるつもりらしい。ひと眠りする」

 靴のままベッドに飛び込んだかと思うと三秒で95%の眠りに落ちる。

 5%は起きている。

 三百年前、満州軍総参謀長を務めたご先祖は、弾雨の中でも熟睡できたと言われるが。俺にはできない。ご先祖は江ノ島弁天の加護があったと言われる。江ノ島に別宅を持っていたことから出た伝説だろうが、案外そうなのかもしれない。

 特段の信仰を持たない俺に、神仏の加護があろうはずもない。だから95%で十分だ。

 ……江の島弁天が覗き込んでいる……なんとも懐かしい。
 
 そうだ、士官候補生仲間で、児玉神社に寄ったついでに江ノ島弁天を拝みに行ったんだ。

 全裸同然の弁天さまをまともに見れずに……そうか、横で惟任美音が意地悪な目で笑っていたか。

 では、なぜ、目の前のこれが、弁天さまだと分かるんだ?

 
 ねぇむれ ねぇむれ は~はの胸~に♪

 
 弁天さまが子守唄を歌っている。

 これは夢か……95%の眠りにしてはいい夢だ……

 危うく100%の眠りに落ちかけて、閃くものがあって目が覚めた。

「今度こそ来る。ついてこい!」

 俺を起こそうと、ちょうどヨイチが来るところだった。


 そのままCICに向かうと「奉天市内の衛星画像を出せ!」と命じた。

「マン漢国境付近から百二十基のミサイル、突っ込んでくる!」

「迎撃ミサイルは?」

「いま発射されました」

「何発?」

「108」

「残りはCIWSで間に合う、奉天を」

「奉天出します」

 オペレーターが復唱すると同時に画面が揺らめいたかと思うと、突如映像が切れた。

「偵察衛星ロスト」

「敵ミサイル百五機を破壊、一機ロスト、十四機突っ込んでくる」

 それには躊躇せずに、司令は別の命令を出した。

「航空管制レーダーを出せ!」

「航空管制レーダー出します」

 メインモニターに奉天空港の管制レーダーが出された。

 マンチュリアの上空には五機の航空機が映っている。マンチュリアを引きあげる最終便だ。

「全機に緊急着陸を指示!」

「我が方には航空管制権はありませんが」

「戦時だ!」

 その時、ドスンと衝撃がやってきて、数秒遅れてくぐもった爆発音が響いた。

「奉天市内で爆発、衝撃の八十パーセントは上空を指向」

「アンチパルス弾だ……」

 二十三世紀初頭、航空機、船舶、ロケット、自動車、戦車、バイクに至るまで大半がパルス動力で動いている。アンチパルス弾とは、爆発の衝撃で強いアンチパルス波を発し、パルス動力を一瞬で停めてしまうと言う恐怖の兵器。二百年前の核兵器同様、国際的に使用は禁止されている。

「民間機五機ロスト、墜落した模様」

 墜落……五機のどれかにはグランマが乗っている……。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

処理中です...