22 / 30
022『ヤガミヒメとフェイクたち』
しおりを挟む
勇者乙の天路歴程
022『ヤガミヒメとフェイクたち』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
高床式の前に立つと、恭しく一礼する白兎。
なんだか、神主に先導されてお参りしているようで、自然と倣ってしまう。
パーーーーーーン
手のひらを微妙にすり合わせるような所作も神主風で、軽く打ったにもかかわらず、森の巨木たちをピリッと震わせ、空気を引き締めた。
「かむながらの世界だ……」
思わずつぶやいて、下げた頭が上げられない。視野の端に、わたし以上に畏まったビクニが見える。
十秒あまりそうしていただろうか、やがて、階(きざはし)の上の扉が静かに開いた。
ゴクリ
息をのむこと数秒……なんだか真珠湾攻撃に際し天皇陛下から出師のお言葉を賜る山本大将……トラトラトラ!
……古希を迎えると例えも古くなる。
こっちよ……こっちこっち。
え?
後ろから囁きがして、白兎が振り返る。
つられて振り返ると、背後の巨木の陰から形のいい手がヒラヒラとわたしたちを招いている。
「ああ、もう、姫さま、警戒のし過ぎ!」
「だってぇ、何があるか分からないでしょ」
「そうですけどね」
「文句はあとで聞きます。とりあえず、中へどうぞ」
誘われて階を上る。みんなが上り終えると階は地中に収納されてしまう。
「いざという時は、この高床式ごと格納することもできるのよ。はい、中へどうぞ……」
おお!?
見た目は、それこそ登呂遺跡の高床式倉庫ほどだが、扉を潜った中は広さも高さも学校の体育館ほどの広さがある。
上中下三段になった床は全体に板張りなのだが、中央には朱色の絨毯が敷かれ、両脇には幾重にも薄物の幔幕がひかれて最上段の御座を荘厳している。
下段の幔幕の下には、ヤガミヒメに似た装束の侍女たちが、中段にはそれより身分の高そうな侍女が四人……そして、驚いたことに、上段の玉座にはヤガミヒメそのものが、スポットライトが当たったように神々しい姿で女王然と笑みをたたえて収まっている。
これは……?
「あ、これはフェイクです。敵が侵入してきたときは、万一に備えて、ね白兎(^_^;)」
「もう、姫さま。フェイクたって、ギャラ払ってんですからね。みんなお疲れさま、今日はもういいよ。これは再来月の振り込みになるからね」
ええ、再来月ぅ!?
白兎の説明に口を尖らせるフェイクたち。
「20日締めの25日払いだから、帰りはちゃんとタイムカード押してねえ」
「もう、割増つけてよねぇ」「新しい服買ったのにい」「来月もコンビニ弁当」「あたしはのり弁」「あたしは、一食減らさなきゃあ」
愚痴を言いながら消えていくフェイクたち。
「あはは、みんな式神なんですけどね。姫さまの趣味で女子大生風の設定にしてますんで、いやはや(^_^;)」
「さあ、お二人とも、こちらへ」
中段の間に座椅子が四つ現れ、笑顔で誘うヤガミヒメ。
姫に倣って席に着くと、下段の幔幕の陰で姫のフェイクにヘコヘコ頭を下げている白兎。
「ほんとうに式神なんでしょうかぁ……」
ビクニが心配そうに、でも、少し面白がって呟いた。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
ヤガミヒメ 大国主の最初の妻 白兎のボス
因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ
022『ヤガミヒメとフェイクたち』
※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者
高床式の前に立つと、恭しく一礼する白兎。
なんだか、神主に先導されてお参りしているようで、自然と倣ってしまう。
パーーーーーーン
手のひらを微妙にすり合わせるような所作も神主風で、軽く打ったにもかかわらず、森の巨木たちをピリッと震わせ、空気を引き締めた。
「かむながらの世界だ……」
思わずつぶやいて、下げた頭が上げられない。視野の端に、わたし以上に畏まったビクニが見える。
十秒あまりそうしていただろうか、やがて、階(きざはし)の上の扉が静かに開いた。
ゴクリ
息をのむこと数秒……なんだか真珠湾攻撃に際し天皇陛下から出師のお言葉を賜る山本大将……トラトラトラ!
……古希を迎えると例えも古くなる。
こっちよ……こっちこっち。
え?
後ろから囁きがして、白兎が振り返る。
つられて振り返ると、背後の巨木の陰から形のいい手がヒラヒラとわたしたちを招いている。
「ああ、もう、姫さま、警戒のし過ぎ!」
「だってぇ、何があるか分からないでしょ」
「そうですけどね」
「文句はあとで聞きます。とりあえず、中へどうぞ」
誘われて階を上る。みんなが上り終えると階は地中に収納されてしまう。
「いざという時は、この高床式ごと格納することもできるのよ。はい、中へどうぞ……」
おお!?
見た目は、それこそ登呂遺跡の高床式倉庫ほどだが、扉を潜った中は広さも高さも学校の体育館ほどの広さがある。
上中下三段になった床は全体に板張りなのだが、中央には朱色の絨毯が敷かれ、両脇には幾重にも薄物の幔幕がひかれて最上段の御座を荘厳している。
下段の幔幕の下には、ヤガミヒメに似た装束の侍女たちが、中段にはそれより身分の高そうな侍女が四人……そして、驚いたことに、上段の玉座にはヤガミヒメそのものが、スポットライトが当たったように神々しい姿で女王然と笑みをたたえて収まっている。
これは……?
「あ、これはフェイクです。敵が侵入してきたときは、万一に備えて、ね白兎(^_^;)」
「もう、姫さま。フェイクたって、ギャラ払ってんですからね。みんなお疲れさま、今日はもういいよ。これは再来月の振り込みになるからね」
ええ、再来月ぅ!?
白兎の説明に口を尖らせるフェイクたち。
「20日締めの25日払いだから、帰りはちゃんとタイムカード押してねえ」
「もう、割増つけてよねぇ」「新しい服買ったのにい」「来月もコンビニ弁当」「あたしはのり弁」「あたしは、一食減らさなきゃあ」
愚痴を言いながら消えていくフェイクたち。
「あはは、みんな式神なんですけどね。姫さまの趣味で女子大生風の設定にしてますんで、いやはや(^_^;)」
「さあ、お二人とも、こちらへ」
中段の間に座椅子が四つ現れ、笑顔で誘うヤガミヒメ。
姫に倣って席に着くと、下段の幔幕の陰で姫のフェイクにヘコヘコ頭を下げている白兎。
「ほんとうに式神なんでしょうかぁ……」
ビクニが心配そうに、でも、少し面白がって呟いた。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
ヤガミヒメ 大国主の最初の妻 白兎のボス
因幡の白兎課長代理 あやしいウサギ
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる