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013『三途の川・2・賽の河原』
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勇者乙の天路歴程
013『三途の川・2・賽の河原』
※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者
森の中を三途の川に沿って進む。
もはや糺の森ではない。糺の森は京都盆地の原始の森のように見えているが人の手が入っている。倒木や繁茂しすぎた下草や外来種は刈られて処分され、病んだ木々には治療も行われている。
ところが、この『糺の森』は生のままの森で、獣道はおろか、地面が見えているところさえ稀だ。
その稀な地面を拾い、露出した木々の根っこや岩、低い枝に飛び移りしながら進んで行く。時にはオリハルコンの剣で道を啓開し、なんだか、ガダルカナルのジャングルをいく一木支隊のようだ。
「縁起でもないことを思い浮かべるな」
「そうだな、一木支隊は全滅したんだった(;'∀')」
頭を切り替えて啓開と前進に専念する。
と、今度は目は慣れてきたはずなのに木々も草も蔦も黒いシルエットになって、森の外の景色が際立って見えてくる。
これは……黒澤明の『羅生門』だ。
薮の中で目が覚めた男は、薮の外、夫の目の前で女房が盗賊に犯されるところを目撃してしまう。その衝撃的な光景を際立たせるために、黒沢はカメラのアングルに入る草のことごとくを黒く塗らせた。
あの感じだ。
薮の外、枝にに衣服がいっぱいぶら下がった木が目に入った。
木の根方には老婆がいて、やってくる亡者たちに裸になるように命じている。
「あれは奪衣婆(だつえば)だ」
「ああ、三途の川を渡る前に亡者の衣服をはぎ取る……」
「そうだ、罪の重い者の衣服は、たとえTシャツ一枚でも大きく枝が撓ると言われている」
「あ、あのオバハン……」
それは、先日亡くなった〇〇党の女性議員だ。薄物のワンピースを着ていたが、奪衣婆が剝ぎ取って枝に掛けると、ギリギリギリと音をさせて折れそうなくらいに枝がしなった。
ワハハハハ(´∀`*)(* ´艸`)(*`艸´)(〃▭〃)
後続の亡者たちが笑う。
「え?」
亡者たちは、なぜか女性ばかりだ、それも後ろに行くほど若くてきれいな者が続く。
「行くぞ、あれは、中村。貴様の願望が作り出した幻影だ(-_-;)」
「そ、そうなのか(#'∀'#)」
「振り返るんじゃない、いくぞ!」
「おお(;'▢')」
しばらく行くと、今度は小さな石積みがチラホラ見えるようになってきた。
「あれが何か分かるか?」
「……賽の河原か」
ビクニが立ち止まると、半透明で存在感の薄い子どもたちが石積みの傍に現れ、黙々と小石を拾っては、それぞれの石積みに載せていく。
上は十二三歳、下はやっとお座りができたかというくらいの幼子までがノロノロと石を積んでいる。
田舎寺の坊主だった叔父が言っていた。
幼くして死んだ子供たちは、この賽の河原で永遠に石を積む。「一つ積んでは父のためぇ……二つ積んでは母のためぇ……」と祈りとも怨みともつかない呟きを繰り返しながら。
やがて、身の丈ほどに積み終わると、どこからともなく鬼が現れて、せっかく積んだ石積みを突き崩していく。
子どもたちは、ため息一つつくと再び石を積み始め、それが永遠に続くという。
「よく見ろ、実際はちがう」
「え?」
よく見ると、鬼は一匹も現れない。
「鬼にも都合がある、しょっちゅうは現れない。もっとよく見ろ」
「あ……」
気が付いた。
崩れていくものもあったが、多くの石積みは下の方から地面に沈んでいく。
子どもによって沈み方が違う。積んだ尻から沈んでいくもの、目の高さで沈み始めるもの、いろいろだ。いろいろだが、全て徒労だという点だけは同じ。
叔父の話では、賽の河原には地蔵が居て、そういう子どもたちを救ってくれるということだった。
町や村の辻にはお地蔵が立っている。お地蔵に祈ると、その祈りがいつか届いて、幼くして亡くなった子供たちは再びこの世に生まれ変われるという。
だが、森と河原の際まで進んで左右を見渡しても、地蔵めいたものは見当たらない。
「この子たちが積んでいるのは希望(のぞみ)だ」
「希望?」
「大きくなったら、あれがしたいこれがしたいという希望だ」
「しかし、あの子らは死んでしまった子たちだろ」
「死人が夢を見て悪いというのか?」
「あ、いや……」
「ああやって、叶わなかった夢を積み重ねているんだ」
「オーブのように光っているだけのは何だい? あれの前にも石がつんであるけど」
「生まれる前に命の終わった子たちだ」
「胎児が夢を持つのか?」
「胎児というものはへその緒で母親と繋がっている。母親が見聞きしたもの夢に見たことを全部知っている。母親の腹を通して外の様子も窺っている。そして希望を持つんだ、いくつもいくつも。生まれ落ちたら、その全ては意識の底に秘めてしまうがな」
「そうなのか……」
そうやって河原を見渡していると、一つのオーブが震えるように光った。
オーブは震えながらいびつなドーナツのような穴が開いて、穴が言葉を発した。
……お……おにいちゃん。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
013『三途の川・2・賽の河原』
※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者
森の中を三途の川に沿って進む。
もはや糺の森ではない。糺の森は京都盆地の原始の森のように見えているが人の手が入っている。倒木や繁茂しすぎた下草や外来種は刈られて処分され、病んだ木々には治療も行われている。
ところが、この『糺の森』は生のままの森で、獣道はおろか、地面が見えているところさえ稀だ。
その稀な地面を拾い、露出した木々の根っこや岩、低い枝に飛び移りしながら進んで行く。時にはオリハルコンの剣で道を啓開し、なんだか、ガダルカナルのジャングルをいく一木支隊のようだ。
「縁起でもないことを思い浮かべるな」
「そうだな、一木支隊は全滅したんだった(;'∀')」
頭を切り替えて啓開と前進に専念する。
と、今度は目は慣れてきたはずなのに木々も草も蔦も黒いシルエットになって、森の外の景色が際立って見えてくる。
これは……黒澤明の『羅生門』だ。
薮の中で目が覚めた男は、薮の外、夫の目の前で女房が盗賊に犯されるところを目撃してしまう。その衝撃的な光景を際立たせるために、黒沢はカメラのアングルに入る草のことごとくを黒く塗らせた。
あの感じだ。
薮の外、枝にに衣服がいっぱいぶら下がった木が目に入った。
木の根方には老婆がいて、やってくる亡者たちに裸になるように命じている。
「あれは奪衣婆(だつえば)だ」
「ああ、三途の川を渡る前に亡者の衣服をはぎ取る……」
「そうだ、罪の重い者の衣服は、たとえTシャツ一枚でも大きく枝が撓ると言われている」
「あ、あのオバハン……」
それは、先日亡くなった〇〇党の女性議員だ。薄物のワンピースを着ていたが、奪衣婆が剝ぎ取って枝に掛けると、ギリギリギリと音をさせて折れそうなくらいに枝がしなった。
ワハハハハ(´∀`*)(* ´艸`)(*`艸´)(〃▭〃)
後続の亡者たちが笑う。
「え?」
亡者たちは、なぜか女性ばかりだ、それも後ろに行くほど若くてきれいな者が続く。
「行くぞ、あれは、中村。貴様の願望が作り出した幻影だ(-_-;)」
「そ、そうなのか(#'∀'#)」
「振り返るんじゃない、いくぞ!」
「おお(;'▢')」
しばらく行くと、今度は小さな石積みがチラホラ見えるようになってきた。
「あれが何か分かるか?」
「……賽の河原か」
ビクニが立ち止まると、半透明で存在感の薄い子どもたちが石積みの傍に現れ、黙々と小石を拾っては、それぞれの石積みに載せていく。
上は十二三歳、下はやっとお座りができたかというくらいの幼子までがノロノロと石を積んでいる。
田舎寺の坊主だった叔父が言っていた。
幼くして死んだ子供たちは、この賽の河原で永遠に石を積む。「一つ積んでは父のためぇ……二つ積んでは母のためぇ……」と祈りとも怨みともつかない呟きを繰り返しながら。
やがて、身の丈ほどに積み終わると、どこからともなく鬼が現れて、せっかく積んだ石積みを突き崩していく。
子どもたちは、ため息一つつくと再び石を積み始め、それが永遠に続くという。
「よく見ろ、実際はちがう」
「え?」
よく見ると、鬼は一匹も現れない。
「鬼にも都合がある、しょっちゅうは現れない。もっとよく見ろ」
「あ……」
気が付いた。
崩れていくものもあったが、多くの石積みは下の方から地面に沈んでいく。
子どもによって沈み方が違う。積んだ尻から沈んでいくもの、目の高さで沈み始めるもの、いろいろだ。いろいろだが、全て徒労だという点だけは同じ。
叔父の話では、賽の河原には地蔵が居て、そういう子どもたちを救ってくれるということだった。
町や村の辻にはお地蔵が立っている。お地蔵に祈ると、その祈りがいつか届いて、幼くして亡くなった子供たちは再びこの世に生まれ変われるという。
だが、森と河原の際まで進んで左右を見渡しても、地蔵めいたものは見当たらない。
「この子たちが積んでいるのは希望(のぞみ)だ」
「希望?」
「大きくなったら、あれがしたいこれがしたいという希望だ」
「しかし、あの子らは死んでしまった子たちだろ」
「死人が夢を見て悪いというのか?」
「あ、いや……」
「ああやって、叶わなかった夢を積み重ねているんだ」
「オーブのように光っているだけのは何だい? あれの前にも石がつんであるけど」
「生まれる前に命の終わった子たちだ」
「胎児が夢を持つのか?」
「胎児というものはへその緒で母親と繋がっている。母親が見聞きしたもの夢に見たことを全部知っている。母親の腹を通して外の様子も窺っている。そして希望を持つんだ、いくつもいくつも。生まれ落ちたら、その全ては意識の底に秘めてしまうがな」
「そうなのか……」
そうやって河原を見渡していると、一つのオーブが震えるように光った。
オーブは震えながらいびつなドーナツのような穴が開いて、穴が言葉を発した。
……お……おにいちゃん。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師 天路歴程の勇者
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
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