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009『八百比丘尼』
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勇者乙の天路歴程
009『八百比丘尼』
先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。
「どうしたんだ、静岡ぁ?」
「あ、いえ……」
左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。
「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」
「え?」
「ゼーゼー……八百比丘尼です」
やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。
「え……だって」
「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」
「え、そうなの?」
「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」
ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。
「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちていて、それがお辞儀する時の勢いになっていて」
「あ、うん。常日頃、ああいう風に振舞えたら、もう言うことなしなんだけどね」
「ですね。わたしも感動したから、この姿になりました。ええと、原則的にタカムスビさまは神社の境内からはお出ましにはなりませんので、わたしが仲立ちをいたします。まあ、人の形をしたインタフェイスとでも思ってください。少しぐらいなら戦闘力やスキルもありますので、きっと役に立ちます」
「そうか、そうですか……」
「あ、わたしにはタメ口でけっこうです。呼び方は正式には八百比丘尼ですが、ビクニでけっこうです。なんなら、その時その時の姿やキャラに見合った呼び方でもかまいませんので」
「ええと……じゃあ、比丘尼」
「あ、それは漢字のニュアンスですね。もっと気楽に平仮名か片仮名のニュアンスでけっこうですよ(^○^)」
「そ、そうか」
「先生も、勇者らしく逞しいビジュアルになられてよかったですね!」
「え、あ、そう。気が付いたらこんな感じになっていて、いや、こっちこそ、ちょっと恥ずかしいかな」
「これからはカオスの旅になると思いますので、それでちょうどいいと思います」
「そうかそうか。ではビクニ、とりあえずはこっちの方でいいのかなあ?」
草原の獣道を指さす。
「はい、正解だと思います。さっそく参りましょうか!」
勢いよくスカートを翻して前に立つビクニ。
「ああ……」
「はい、なにか?」
「この草原を行くのに、制服では厳しくないかなあ。せめて体操服にするとか」
「あ、そうですね、気が付きませんでした! えい!」
シャラ~ン
べつにエフェクトが入ったわけではないが、そんな感じでコスが変わった。
「あ、その体操服はぁ(^_^;)」
「え、ダメですか?」
「今はブルマなんて穿かないからね」
「先生の頭に浮かんだイメージでやってみたんですけどぉ」
「え、あ、ジャージジャージ! 耐寒登山の時の服装!」
「了解です!」
シャラ~ン
「どうですか?」
「あ、うん、これなら大丈夫かなぁ」
学年色のジャージに軍手、ネックウォーマーにキャップを被り、背中にはリュック。
「ちょっと、こっち向いて」
「はい」
振り向いた胸の名札が静岡のままだ。
「あ、名前!?」
パチンと指を鳴らすと、名札は『ビクニ』と変わった。
「よし、では行くとするか」
「出発進行!」
ビクニと二人、草原に踏み込む。
少し行って振り返ると、始まりの駅は灰色の闇に呑み込まれて見えなくなっていた。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
009『八百比丘尼』
先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。
「どうしたんだ、静岡ぁ?」
「あ、いえ……」
左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。
「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」
「え?」
「ゼーゼー……八百比丘尼です」
やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。
「え……だって」
「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」
「え、そうなの?」
「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」
ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。
「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちていて、それがお辞儀する時の勢いになっていて」
「あ、うん。常日頃、ああいう風に振舞えたら、もう言うことなしなんだけどね」
「ですね。わたしも感動したから、この姿になりました。ええと、原則的にタカムスビさまは神社の境内からはお出ましにはなりませんので、わたしが仲立ちをいたします。まあ、人の形をしたインタフェイスとでも思ってください。少しぐらいなら戦闘力やスキルもありますので、きっと役に立ちます」
「そうか、そうですか……」
「あ、わたしにはタメ口でけっこうです。呼び方は正式には八百比丘尼ですが、ビクニでけっこうです。なんなら、その時その時の姿やキャラに見合った呼び方でもかまいませんので」
「ええと……じゃあ、比丘尼」
「あ、それは漢字のニュアンスですね。もっと気楽に平仮名か片仮名のニュアンスでけっこうですよ(^○^)」
「そ、そうか」
「先生も、勇者らしく逞しいビジュアルになられてよかったですね!」
「え、あ、そう。気が付いたらこんな感じになっていて、いや、こっちこそ、ちょっと恥ずかしいかな」
「これからはカオスの旅になると思いますので、それでちょうどいいと思います」
「そうかそうか。ではビクニ、とりあえずはこっちの方でいいのかなあ?」
草原の獣道を指さす。
「はい、正解だと思います。さっそく参りましょうか!」
勢いよくスカートを翻して前に立つビクニ。
「ああ……」
「はい、なにか?」
「この草原を行くのに、制服では厳しくないかなあ。せめて体操服にするとか」
「あ、そうですね、気が付きませんでした! えい!」
シャラ~ン
べつにエフェクトが入ったわけではないが、そんな感じでコスが変わった。
「あ、その体操服はぁ(^_^;)」
「え、ダメですか?」
「今はブルマなんて穿かないからね」
「先生の頭に浮かんだイメージでやってみたんですけどぉ」
「え、あ、ジャージジャージ! 耐寒登山の時の服装!」
「了解です!」
シャラ~ン
「どうですか?」
「あ、うん、これなら大丈夫かなぁ」
学年色のジャージに軍手、ネックウォーマーにキャップを被り、背中にはリュック。
「ちょっと、こっち向いて」
「はい」
振り向いた胸の名札が静岡のままだ。
「あ、名前!?」
パチンと指を鳴らすと、名札は『ビクニ』と変わった。
「よし、では行くとするか」
「出発進行!」
ビクニと二人、草原に踏み込む。
少し行って振り返ると、始まりの駅は灰色の闇に呑み込まれて見えなくなっていた。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
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