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300『クマさんの名前の秘密』

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魔法少女マヂカ

300『クマさんの名前の秘密』語り手:マヂカ 




 御維新までは美濃の国っていったんですよね。いかにも実り豊かなお国という響きで素敵です。


 眼下の濃尾平野を愛でながら、クマさんは地理の先生のような感想を言う。

「ああ、戦国の昔は、ここを扼すれば、天下が取れると言われたものだ」

「斎藤道三が主家の土岐を追い、織田信長が奪い……信長は、周の文王が岐山に拠って天下を窺った故事にちなんで岐阜と改め、それをもって岐阜県とされましたが、美濃の方が似合います」

「クマさん、なんだか学者のような感想だな」

「祖父の代までは、奥多摩の村で神主をやりながら本草学の学者をやっていました」

「そうなのか」

「村の山には悪い神さまがいると言われて、それを祀って封じるのが家代々の役目でした」

「過去形だな……ひょっとして、明治になって離散した?」

「はい、水害があったり、地租改正で苦しくなったりで、おまつりもろくにできないほど寂れてしまって。父の代になってうちも村を離れたんです。山の神さまは『村をたたむなら儂も連れていけ』と父に迫りました」

「寂しがりの神さまなのだなあ」

「父は、別の神社にお祀りするからと言ったんですが、神さまは聞きません」

「わがままな奴だなあ」

「交渉の末に、神さまは父に言いました『お前たち夫婦に子を授ける。その生まれてくる子の魂に間借りする。構えて悪さはせんから、それで手をうて』と。父は、母と寝たきりになっていた祖父と相談しました……」

 ウワア! キャ!

 ちょっと面白くなってきたと思ったら、オートマルタがグラッと揺れて高度が下がった。

「ああ、すみません。ボクも聞きいっちゃって(^_^;)」

「聞いていてもいいが、ちゃんと真っ直ぐ飛べ」

「ハーイ!」

「で……どこまで話しましたっけ?」

「えと……」

「お母さんと寝たきりのお祖父さんに相談するとこです!」

「あ、そうそう……それで、祖父はご先祖さまにもお伺いをたてて、生まれてくる子に強い名前を付けて神さまを封じることにしたんです」

「クマさん、兄妹がいるのか?」

「いえ、一人っ子です」

「「え!?」」

「はい、わたしのクマという名前は神さま封じの名前なんです」

「そうだったのか……テディ、また高度が落ちてるぞ」

「すみませ~ん」

「ファントムが目を付けたのは、クマさんの、そういうところを見抜いてのことだったのかもしれないなあ」

「はい、おそらくは……」

 明治大正のころは、まだまだ江戸時代の風を残していて、女の子の名前に『クマ』『トラ』『カメ』『ツル』とかの動物の名前を付けることが多かった。

 それは、子どもが強く長生きできることを託して付けられた名前だ。

 身のうちの悪鬼を封じるためという例は聞いたことが無い。

「まあ、名前はともかく、無事に戻れてなにより……ほら、海が見えてきたよ、トラさん」

「うわあ…………日本海と違ってキラキラと明るいですね!」

 目を細めて、海の輝きを愛でるトラさんは可愛い……早く箕作巡査の待つ大正時代に戻してやらなければな……


 その気持ちが通じたのか、オートマルタは駿河湾の上空で速度を増した。

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル        ブリンダの使い魔
サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ         ロシアの魔法少女
孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
春日         高坂家のメイド長
田中         高坂家の執事長
虎沢クマ       霧子お付きのメイド
松本         高坂家の運転手 
新畑         インバネスの男
箕作健人       請願巡査
ファントム      時空を超えたお尋ね者

 
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