285 / 301
285『八丈島沖空中戦・1』
しおりを挟む
魔法少女マヂカ
285『八丈島沖空中戦・1』語り手:マヂカ
北斗(特務師団高機動車)は欠員のまま大塚台公園の基地を飛び立った。
さすがに、位相変換もせずに飛びたったわけではないが、機関士(友里)、機関助手(ノンコ)、砲雷手(清美)の三人を欠いていては実力を発揮できない。
ブシューー!
「こら、ベント早すぎ!」
「手順に間違いはない! きちんとテイクオフの5秒後だ!」
安倍隊長の注意に文句で返すブリンダ。
「位相閉鎖が完全じゃない、漏れた蒸気がリアル空蝉橋にかかってる!」
「下はJRだから、誤魔化せるだろが」
「今どき都内でSLなんか走らん! サム、パルス砲試射」
「アイ、マム!」
ズビーーーン!!!
「フルパワーで打ってどうする!」
「ソーリー、仕様が第七艦隊とちがうもんで」
ズゥイーーーーーン
「ブースト、第二戦速、進路八丈島。ブースト閉鎖、赤黒なし」
「早すぎ、失速するぞ!」
ガクン
「ほら、頭が下がった、上昇角20度、ブーストフタジュウ!」
「あ、ベント閉まったまま!」
「速度もどーせ! 進路そのまま、ヨーソロー!」
「ちょ、速すぎ!」
「ヨーソロは力まないで言って! 今のヨーソロは第二戦速の勢いだ!」
「ええ、もう、とっとと八丈島に向かええええ!」
『北斗はバージョンアップしとるんだ、オートのボタン押すだけで普通に飛ぶ。おまえらは、計器見て復唱するだけでいい!』
モニターの司令が呆れている。
なんとか十分遅れで八丈島上空に着いて下降すると、雲の切れ間にキラリと光るものがある。経験から、剣のようなものが光を反射していると分かる。
敵をあぶりだすために主砲の発射を具申しようと思ったが思いとどまる。敵を視認できれば、こちらの居場所を暴露する発砲はしなくて済むからだ。
「孫悟嬢!」
安倍隊長が、ちょっと対抗心のこもった声を上げる。
我々同様にファントムを敵とする魔法少女の対抗心でからではない。
トキワ荘で初めて会った孫悟嬢が自分よりも美しいのが気に入らないのだ。
特務師団の魔法少女は、いずれもお約束通りの美少女ばかりだが、安倍隊長は、それに嫉妬することは無い。
自分自身、かつてはアキバのメイドクィーン、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世の看板を張っていたので、メイドのメイン属性である『萌』には免疫がある。いくら美少女でも、それは所詮女としては未熟未完成の『萌』に過ぎない。普遍的成人女性美という点では圧倒的に自分にアドバンテージがあるという自負があるのだ。
それが、トキワ荘で間近に見た孫悟嬢は中国四千年の歴史を体現したような美しさとだと脳みそとほうれい線の皴に刻み込んでしまったのだ。
正直、そこまでの歳ではないと思うのだが、日中国交回復以来中華礼賛に染まってしまった教育現場に身を置いているせいか、中国の留学生や若者に大学でも就職戦線でも水をあけられた世代のトラウマか、はたまた、憂さ晴らしで、ついポチってしまうネット通販の商品のことごとくが中華製であることに脅威を感じてなおポチらずにはおられない心の弱さの反映か、そのいずれもが自己嫌悪の裏返しであるとも気づかずに、中華美女を恨みかつ恐れている。
「あれは、如意棒だ!」
大連で見慣れているわたしとブリンダには分かる。
筋斗雲を目くらましに使って、敵を翻弄し、如意棒で敵に立ち向かっているのだ。
主砲を発射するまでもなく、敵は、孫悟嬢の視線の先に浮かんでいるはずだ。
「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ! 右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」
「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ!」「右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」
安倍隊長の指令に、ブリンダとサムの復唱が続く。
さすがに、戦闘を前にしての指令と操作にブレは無い。
孫悟嬢の斜め前方に躍り出た我々の目前に現れたのは、北洋艦隊の主力であった定遠と鎮遠であった。
「主砲! パルス砲! 斉射! テーーーー!」
ズビーーーン!!
惜しくも二艦の鼻先を掠めるに終わった初撃だったが、孫悟嬢を回避させるのには十分であった。
……八丈島沖空中戦が始まった。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ ロシアの魔法少女
孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
ファントム 時空を超えたお尋ね者
285『八丈島沖空中戦・1』語り手:マヂカ
北斗(特務師団高機動車)は欠員のまま大塚台公園の基地を飛び立った。
さすがに、位相変換もせずに飛びたったわけではないが、機関士(友里)、機関助手(ノンコ)、砲雷手(清美)の三人を欠いていては実力を発揮できない。
ブシューー!
「こら、ベント早すぎ!」
「手順に間違いはない! きちんとテイクオフの5秒後だ!」
安倍隊長の注意に文句で返すブリンダ。
「位相閉鎖が完全じゃない、漏れた蒸気がリアル空蝉橋にかかってる!」
「下はJRだから、誤魔化せるだろが」
「今どき都内でSLなんか走らん! サム、パルス砲試射」
「アイ、マム!」
ズビーーーン!!!
「フルパワーで打ってどうする!」
「ソーリー、仕様が第七艦隊とちがうもんで」
ズゥイーーーーーン
「ブースト、第二戦速、進路八丈島。ブースト閉鎖、赤黒なし」
「早すぎ、失速するぞ!」
ガクン
「ほら、頭が下がった、上昇角20度、ブーストフタジュウ!」
「あ、ベント閉まったまま!」
「速度もどーせ! 進路そのまま、ヨーソロー!」
「ちょ、速すぎ!」
「ヨーソロは力まないで言って! 今のヨーソロは第二戦速の勢いだ!」
「ええ、もう、とっとと八丈島に向かええええ!」
『北斗はバージョンアップしとるんだ、オートのボタン押すだけで普通に飛ぶ。おまえらは、計器見て復唱するだけでいい!』
モニターの司令が呆れている。
なんとか十分遅れで八丈島上空に着いて下降すると、雲の切れ間にキラリと光るものがある。経験から、剣のようなものが光を反射していると分かる。
敵をあぶりだすために主砲の発射を具申しようと思ったが思いとどまる。敵を視認できれば、こちらの居場所を暴露する発砲はしなくて済むからだ。
「孫悟嬢!」
安倍隊長が、ちょっと対抗心のこもった声を上げる。
我々同様にファントムを敵とする魔法少女の対抗心でからではない。
トキワ荘で初めて会った孫悟嬢が自分よりも美しいのが気に入らないのだ。
特務師団の魔法少女は、いずれもお約束通りの美少女ばかりだが、安倍隊長は、それに嫉妬することは無い。
自分自身、かつてはアキバのメイドクィーン、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世の看板を張っていたので、メイドのメイン属性である『萌』には免疫がある。いくら美少女でも、それは所詮女としては未熟未完成の『萌』に過ぎない。普遍的成人女性美という点では圧倒的に自分にアドバンテージがあるという自負があるのだ。
それが、トキワ荘で間近に見た孫悟嬢は中国四千年の歴史を体現したような美しさとだと脳みそとほうれい線の皴に刻み込んでしまったのだ。
正直、そこまでの歳ではないと思うのだが、日中国交回復以来中華礼賛に染まってしまった教育現場に身を置いているせいか、中国の留学生や若者に大学でも就職戦線でも水をあけられた世代のトラウマか、はたまた、憂さ晴らしで、ついポチってしまうネット通販の商品のことごとくが中華製であることに脅威を感じてなおポチらずにはおられない心の弱さの反映か、そのいずれもが自己嫌悪の裏返しであるとも気づかずに、中華美女を恨みかつ恐れている。
「あれは、如意棒だ!」
大連で見慣れているわたしとブリンダには分かる。
筋斗雲を目くらましに使って、敵を翻弄し、如意棒で敵に立ち向かっているのだ。
主砲を発射するまでもなく、敵は、孫悟嬢の視線の先に浮かんでいるはずだ。
「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ! 右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」
「面舵フタジュウ! 上昇角ヒトジュウ!」「右舷(みぎげん)砲雷戦ヨーイ!」
安倍隊長の指令に、ブリンダとサムの復唱が続く。
さすがに、戦闘を前にしての指令と操作にブレは無い。
孫悟嬢の斜め前方に躍り出た我々の目前に現れたのは、北洋艦隊の主力であった定遠と鎮遠であった。
「主砲! パルス砲! 斉射! テーーーー!」
ズビーーーン!!
惜しくも二艦の鼻先を掠めるに終わった初撃だったが、孫悟嬢を回避させるのには十分であった。
……八丈島沖空中戦が始まった。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ ロシアの魔法少女
孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
ファントム 時空を超えたお尋ね者
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
もう惚れたりしないから
夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。
恋は盲目
気づいたときにはもう遅かった____
監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は
リーナが恋に落ちたその場面だった。
「もう貴方に惚れたりしない」から
本編完結済
番外編更新中
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる