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251『ノンコ戻って良いこと起こる』
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魔法少女マヂカ
251『ノンコ戻って良いこと起こる』語り手:ノンコ
長門は史実よりも三時間早く横須賀に着いた。
霧子を大連武闘会に参加させて優勝させるという遠回りな手段を取らざるを得なかったが、任務は成し遂げられた。
英国巡洋艦の水兵に化けたノンコの回収を忘れていたが、ノンコはとっさに芝居を打った。
長門追跡の為に、巡洋艦が増速した時に反動で転倒したということにしたのだ。
頭を打って意識がもどらないので安静ということになり、巡洋艦は急きょ佐世保に回航されノンコの水兵を海軍病院に入院させようとした。
担架に載せられたノンコは、ランチに乗り移る時に見を捩って海に転落。
その後、いささかの苦労と言うかドラマがあって、二日後には原宿の高坂邸に戻ってきた。
「もう、大変やってんさかいにねえ(;`O´)!」
激おこぷんぷん丸のノンコだったが、赤城から『長門の乗組員がニ十八人の被災者を救助しました!』という連絡を受けると、すっかり機嫌が戻った。
「史実では長門が救助した人はゼロなんだよ」
「え、そうなんや、手間暇かけた甲斐があったねえ(^▽^)/ 新聞とかに載ってるかなあ」
まかないに行ってクマさんに新聞を見せてもらって、ノンコは固まってしまった。
「え? 十月三日!?」
驚くのは無理もない。
大連武闘会は八月の三十日で、演習中の長門に震災の連絡が入ったのは九月一日なのだ。
そもそも、最初にやってきたのは大正十三年、震災の明くる年だった。
それが、凌雲閣のドアから出て霧子と震災直後の東京を体験してからは、震災直後に戻っている。
歴史の神さまが居るとしたら、関東大震災の影響が多すぎ、それでも修正したいところが気になって、われわれ令和の魔法少女を時を前後してまで動かさざるを得なかったんだろう。
トントン
霧子の部屋でノンコをオモチャにしていると、ドアがノックされた。
あ、田中執事長……ノックの仕方で、人が分かるほどに、我々も、この時代に馴染んでしまった。
「なにかしら、執事長?」
とうぜん霧子も分かってドアを開ける。
「おくつろぎのところ失礼します」
執事長も当然の如く本題を切り出す。
「あら、なにか良いことかしらあ?」
霧子が言うまでもなく、いつになく、田中執事長の目尻が下がっている。
「はい、良いことかどうかは、田中には分かりませんが、三時になりましたらご家族様、手すきの家人は舞踏室に集まるようにと、ご主人様のお申し付けでございます」
「ふふ、家の者全員を集めて、何を言う気かしら?」
「それでは、確かにお伝えしましたので、遅参なさいませんように。では、失礼いたします」
バタム
ドアが閉まると、霧子はドタドタと窓辺に寄ってレースのカーテン越しに外を覗いた。
「カーテン開けて見たらええのに」
「ダメよ! 霧子は高坂家では要注意人物だからね、カーテン越しでなきゃバレちゃう」
「で、なにか見えるの?」
「あなたたちも見てごらんよ!」
「「なになに……?」」
霧子の部屋からは、玄関の車寄せから表門までが見渡せる。
表門を入ったところには門番の詰所があり、その詰所の主である箕作請願巡査が使用人たちに囲まれて、顔を真っ赤にして頭を掻いている。
「あそこにクマさん!」
ノンコが反対側の楠の下でオジオジしているクマさんを発見して、カーテンをめくってガラスに顔を付ける。
「あ、ダメ、ノンコ!」
三人でガチャガチャしたものだから、クマさんに気取られてしまい、揃って窓の下に姿を隠した。
「これは、確実に……だね!」
あとは言葉にしなくても、十七歳の女学生同士(え、マヂカは違うだろうって?)、ウフフと笑って分かってしまった。
「……ということで、請願巡査の箕作健人君と先任メイドの虎沢クマ君は、きたる明治節の日に華燭の典を上げることになったことを報告する」
ウワア! パチパチパチパチ!
歓声と拍手が舞踏室に鳴り響いた。
なんと、屋敷の人間が全員集まっている。門番の代わりは知らせを受けた本署から署長本人が出向いて立ってくれているらしい。
箕作巡査もクマさんも、みんなから愛されていることがよく分かる。
「本来ならば、この高坂尚孝が媒酌の任を務めたいのだが、田中執事長と春日メイド長のたっての頼みで、二人に譲ることとする。家の者も、そう心得て、式までの二人を見守ってやって欲しい!」
バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!
期せずして万歳三唱になって、舞踏室の窓ガラスもビリビリと震えるほどだ。
「う、嬉しい!」
「なんだ、霧子が泣くことないでしょ」
「だって、クマが、クマさんが結婚するんだよ、お父様がそれを宣言して、こんなに嬉しいことはないわよ!」
クマさんもモミクチャになりながらも霧子に、これまた涙でクチャクチャの笑顔を向けている。
震災からこっち、最大の喜びごとになった。
「ちょ、真智香」
「うん?」
ノンコが天窓を指さす。
一瞬、黒い影が見えてサッと姿を消した。
魔法少女の直感で、その禍々しさを感じ取った。
「なんいもないよ、ノンコの気のせい」
「え、あ、そっか、佐世保から帰ってきて、ちょっと疲れてるのんかもなあ(^_^;)」
取りあえずは気のせいにしておいた……。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
251『ノンコ戻って良いこと起こる』語り手:ノンコ
長門は史実よりも三時間早く横須賀に着いた。
霧子を大連武闘会に参加させて優勝させるという遠回りな手段を取らざるを得なかったが、任務は成し遂げられた。
英国巡洋艦の水兵に化けたノンコの回収を忘れていたが、ノンコはとっさに芝居を打った。
長門追跡の為に、巡洋艦が増速した時に反動で転倒したということにしたのだ。
頭を打って意識がもどらないので安静ということになり、巡洋艦は急きょ佐世保に回航されノンコの水兵を海軍病院に入院させようとした。
担架に載せられたノンコは、ランチに乗り移る時に見を捩って海に転落。
その後、いささかの苦労と言うかドラマがあって、二日後には原宿の高坂邸に戻ってきた。
「もう、大変やってんさかいにねえ(;`O´)!」
激おこぷんぷん丸のノンコだったが、赤城から『長門の乗組員がニ十八人の被災者を救助しました!』という連絡を受けると、すっかり機嫌が戻った。
「史実では長門が救助した人はゼロなんだよ」
「え、そうなんや、手間暇かけた甲斐があったねえ(^▽^)/ 新聞とかに載ってるかなあ」
まかないに行ってクマさんに新聞を見せてもらって、ノンコは固まってしまった。
「え? 十月三日!?」
驚くのは無理もない。
大連武闘会は八月の三十日で、演習中の長門に震災の連絡が入ったのは九月一日なのだ。
そもそも、最初にやってきたのは大正十三年、震災の明くる年だった。
それが、凌雲閣のドアから出て霧子と震災直後の東京を体験してからは、震災直後に戻っている。
歴史の神さまが居るとしたら、関東大震災の影響が多すぎ、それでも修正したいところが気になって、われわれ令和の魔法少女を時を前後してまで動かさざるを得なかったんだろう。
トントン
霧子の部屋でノンコをオモチャにしていると、ドアがノックされた。
あ、田中執事長……ノックの仕方で、人が分かるほどに、我々も、この時代に馴染んでしまった。
「なにかしら、執事長?」
とうぜん霧子も分かってドアを開ける。
「おくつろぎのところ失礼します」
執事長も当然の如く本題を切り出す。
「あら、なにか良いことかしらあ?」
霧子が言うまでもなく、いつになく、田中執事長の目尻が下がっている。
「はい、良いことかどうかは、田中には分かりませんが、三時になりましたらご家族様、手すきの家人は舞踏室に集まるようにと、ご主人様のお申し付けでございます」
「ふふ、家の者全員を集めて、何を言う気かしら?」
「それでは、確かにお伝えしましたので、遅参なさいませんように。では、失礼いたします」
バタム
ドアが閉まると、霧子はドタドタと窓辺に寄ってレースのカーテン越しに外を覗いた。
「カーテン開けて見たらええのに」
「ダメよ! 霧子は高坂家では要注意人物だからね、カーテン越しでなきゃバレちゃう」
「で、なにか見えるの?」
「あなたたちも見てごらんよ!」
「「なになに……?」」
霧子の部屋からは、玄関の車寄せから表門までが見渡せる。
表門を入ったところには門番の詰所があり、その詰所の主である箕作請願巡査が使用人たちに囲まれて、顔を真っ赤にして頭を掻いている。
「あそこにクマさん!」
ノンコが反対側の楠の下でオジオジしているクマさんを発見して、カーテンをめくってガラスに顔を付ける。
「あ、ダメ、ノンコ!」
三人でガチャガチャしたものだから、クマさんに気取られてしまい、揃って窓の下に姿を隠した。
「これは、確実に……だね!」
あとは言葉にしなくても、十七歳の女学生同士(え、マヂカは違うだろうって?)、ウフフと笑って分かってしまった。
「……ということで、請願巡査の箕作健人君と先任メイドの虎沢クマ君は、きたる明治節の日に華燭の典を上げることになったことを報告する」
ウワア! パチパチパチパチ!
歓声と拍手が舞踏室に鳴り響いた。
なんと、屋敷の人間が全員集まっている。門番の代わりは知らせを受けた本署から署長本人が出向いて立ってくれているらしい。
箕作巡査もクマさんも、みんなから愛されていることがよく分かる。
「本来ならば、この高坂尚孝が媒酌の任を務めたいのだが、田中執事長と春日メイド長のたっての頼みで、二人に譲ることとする。家の者も、そう心得て、式までの二人を見守ってやって欲しい!」
バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!
期せずして万歳三唱になって、舞踏室の窓ガラスもビリビリと震えるほどだ。
「う、嬉しい!」
「なんだ、霧子が泣くことないでしょ」
「だって、クマが、クマさんが結婚するんだよ、お父様がそれを宣言して、こんなに嬉しいことはないわよ!」
クマさんもモミクチャになりながらも霧子に、これまた涙でクチャクチャの笑顔を向けている。
震災からこっち、最大の喜びごとになった。
「ちょ、真智香」
「うん?」
ノンコが天窓を指さす。
一瞬、黒い影が見えてサッと姿を消した。
魔法少女の直感で、その禍々しさを感じ取った。
「なんいもないよ、ノンコの気のせい」
「え、あ、そっか、佐世保から帰ってきて、ちょっと疲れてるのんかもなあ(^_^;)」
取りあえずは気のせいにしておいた……。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
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