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228『天城の願い』

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魔法少女マヂカ

228『天城の願い』語り手:マヂカ   




 ズドドーーン!


 アレクサンドル三世の30サンチ砲が火を噴く。

 同時に身を沈めて四発の砲弾を躱す。

 ジュ!

 追随し遅れた髪の毛が焦げる。

 躱すにしても前方に出るべきだった。髪は後方に流れて焼かれることは無かっただろう。

 大正時代に馴染み過ぎて、瞬発力が甘くなったか?

 以前の戦いで敵の学習が進んだか?

 グィーーーン

 空中で大回りして、敵を観察する。

 横須賀の街と軍港と背後の山がグルリと回る。

 遠くに駆逐艦や水雷艇の艦娘たち、半ば以上は擱座したり煙を吐いていたり。得物は構えてはいるが、足並み揃えて吶喊するほどの力は残っていない。

 大型艦はアレクサンドル三世のみ。

 ……やはりな。

 日露戦争から20年、正確には19年か。

 艦娘として具現化するには年月が浅すぎるんだ。

 海底に沈んで艦娘として復活するには、百年余りの年月が必要なんだ。

 横須賀上空に顕現した艦娘どもは、わたし達同様に、令和の未来からジャンプしてきたに違いない。

 それも、同時にジャンプできるのは、小型艦艇を除けば戦艦一隻に限られる。


 ズドドーーン!

 セイッ!


 アレクサンドル三世の第二斉射と、わたしが見切るのが同時だった。

 今度は身を沈めると同時に突進!

 
 ガシガシ!


 すれ違いざまに風切丸を一閃させる。

 アレクサンドル三世の踵に手応え。

 500メートルほど飛んだところで振り返ると、二つのスクリューが夕陽に煌めきながら落ちていく。

 #$&‘=**%$#####*(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

 ズドドーーン!

 なにか喚きながら、第三斉射を放つが、距離をとっているので、悠々と躱せる。

「やめろ! お前の相手なら、令和の時代に戻った時にやってやる」

 #$&‘=**%$#####*(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

「これ以上やったら、そのまま墜ちて、海の戦艦が横須賀の山の中で赤さびだらけになって朽ち果てることになるぞ」

 クソーーーーー!!

 いきり立つが、スクリューを失っては身動きが取れない。

 Это так раздражает! Это так раздражает!(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

 魔法少女語に変換もせずにロシア語で喚きだすと、駆逐艦の艦娘が寄ってたかって主を移動させ、たぶん、そこが時空の狭間であったのだろう、残りの水雷艇と共に上空の一点で掻き消えた。


「あそこに妹が居ます」


 天城が指差したのは、横須賀海軍工廠の二号船台だ。

 最大戦速30ノットを約束された船体は流麗で、幅広の船台の両脇を道路一本分残るほどに絞り込まれ、艦首は令和の時代の新幹線を偲ばせるように鋭く、演技を始める新体操選手の顎(あぎと)のように研ぎ澄まされている。

「その向こう側に居るのがわたしです」

 建屋を回り込むようにして進むと、一号船台に赤城よりも進捗して、上部構造物の工事に入っている天城の姿があった。

「天城の方が進捗んでいる……」

「竜骨にヒビが入っています」

「折れてはいないのね?」

「はい……だから、工廠の技師さんたちは悩んでいるんです」

「だろうね」

「二隻とも助けられないの?」

「みんな霧子と同じ気持ちよ」

「だったら……」

「震災前から海軍は苦渋の決断を迫られていたんです」

「ワシントン軍縮会議ね」

「ええ、わたしも妹も損傷を受けています。でも、わたしの方が進捗しているし、技師さんたちは一番艦のわたしを可愛く思ってくれています」

「同程度の損傷なら一番艦を残したい……」

「キールのヒビくらいなら直せるもんね」

「残された方は、おそらく航空母艦に改造されます」

 ああ、運命を知っているんだ。

「それには、工事が進捗していない方が都合がいいんです……」

「それだけが理由?」

「赤城の方が縁起がいいです、国定忠治が決起した山です『赤城の山も今宵が限り、可愛い子分のてめえ達とも別れ別れになる門出だ……』」

「『雁が鳴いて西の空に飛んで行かあ……』って、やつね?」

「ええ、日本人なら誰でも知っている。思いのこもった山です。赤城なら、将来起こるかもしれない戦いで、十分の働きをしてくれるでしょう。国民の人たちにも愛されます、まだ、船体ができたばかりの子ですけど、あんなに可愛いです。あの子なら、妹なら、きっと日本に吉を呼び込んでくれます(^#▽#^)」

 わたしは知っている、ミッドウェーで赤城がどんな死に方をするのか。

 三発の爆弾を受け、出撃間近の艦攻の魚雷や艦爆の爆弾が誘爆して手の付けられない大火災になって、最後は味方の魚雷で海没処分にされてしまう。

 でも、そんなことを言って何になる。霧子も天城も、そんな先のことは知らないぞ。

「だから、赤城を、妹を助けてやってください」

「でも、どうやって?」

「わたしの竜骨を折ってください、そうすれば、技師さんたちも妹を選ばざるを得なくなります」

「そんな……」

「霧子、すまないが、先に帰っていてもらえるか。この先は天城と二人で話しがしたい」

「マヂカさん……」

「……うん、分かった」

「ありがとう、霧子さん」


 霧子を地上に下ろし、電車で帰すと、わたしは天城と日の暮れるまで話した。


 あくる日、海軍省から発表があった。

―― 横須賀海軍工廠において建造中であった戦艦天城の竜骨が震災の傷によって完全に破断したことを確認。艦政本部は天城を破棄、解体とし、二番艦赤城を航空母艦に改造せしめんことに決す ――

 わたしが、どんな風にやったかって?

 先に原宿の屋敷に帰った霧子は、思っていても聞かなかったわよ。




※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
春日         高坂家のメイド長
田中         高坂家の執事長
虎沢クマ       霧子お付きのメイド
松本         高坂家の運転手 
新畑         インバネスの男
箕作健人       請願巡査

 
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