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199『堀越を救う』

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魔法少女マヂカ

199『堀越を救う』語り手:マヂカ    

 

 ドコン!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……!!

 
 突き上げるような衝撃がきたかと思うと、車両は左に傾き振動したまま金属を捩るような音をさせて走った!

 キャーーー! ウワーーー!

 悲鳴と衝撃は永遠に続くのかと思ったが、実際には十秒そこそこのものだろう。

 車両は進行方向に向かって左側に傾いて停まった。

 わたしは手すりやフックに掴まって耐えた。

 ブリンダは正面の堀越に覆いかぶさるようになっていて、自分の上半身、主に胸でもって堀越と堀越の膝の上に倒れ込んできた霧子を庇っていた。

 ブリンダ……!?

 すまん、抜いてくれ。

 思念で会話した。

 後ろの網棚から飛び出したんだろう、植木鋏が二本突きたって、足もとには口の開いた鞄が、他の散乱物と一緒に転がっている。

「あ、商売道具が……」

 職人の親方風が鞄を拾って、わたしが抜いたばかりの植木鋏を仕舞っている。ブリンダが庇わなければ、堀越の胸に突き刺さっていただろう。

「ダイジョウブですか?」

「あ、ああ、これはすみませんでした! だ、大丈夫のようです」

「あ、わたしこそ……」

 ブリンダが声をかけると、堀越は状況を理解して、頬を赤らめて礼を言う。霧子は堀越に助けてもらったと思って、これはこれで赤くなっている。

「大丈夫?」

「気を付けろ、これだけじゃ済まない」

 小さく聞くと、恐ろしい返事を返す。気が付くと、禍々しい空気が密度を増している。地震による期の乱れ……だけではない剣呑なざらつきがある。

「地震の事じゃないな」

 小さく頷くと、ブリンダは進行方向の右側を目で示した。左側には出るなということだろう。

 通路を通ってデッキから外に出る。

「いや……これは……」

 堀越に、後の言葉は無かった。

 あちこちで家が倒れ、時間が昼前であったこともあって、数か所から火と煙が上がり始めている。

 ゲシュタルト崩壊だろう、軌道上に出た乗客たちは、呆然と震災直後の惨状に目を奪われるばかりだ。

「おい、手を貸してくれ!」

 車両の中から声が上がる。取り残された負傷者がいるようだ。

「おーーい、こっちにも来てくれ!」

 前の方からも声がかかる。

「機関士が閉じ込められてしまったぞ!」

 堀越は、瞬間悩んで機関車の方に向かおうとする。

「そっちは、向こう側に任せましょう」

「あ、ああ」

 ブリンダは、車内を促した。機関車の方には事情がありそうだ。

「医者か看護婦はいないか!?」

 車内から声がかかる。動かせないケガ人がいるようだ。

「わたしたち、心得があります」

 ブリンダが手を挙げる。魔法少女は医療の心得もあるのだ。

「堀越さん、ここで救助の指揮を」

「心得た、とにかく怪我人を搬出して避難することだね」

「霧子さんも手伝って、真智香さんは堀越さんといっしょにいらして」

「了解」

 ブリンダが戻り、堀越が搬送の指揮を執ると、他の乗客も正気を取り戻して救助や避難が進んで行く。

 グワァッシャーン! ウワアア!

 前方で衝撃と悲鳴が起こる。

 微妙な傾斜で停まっていた機関車が転覆したんだ。堀越が向かっていたら危なかったかもしれない。

 視界の端を、さっきの親方風、一瞥をくれたかと思うと、数人の男女と共に築堤の高架を下りていく。

 空気のざらつきが消えて、震災直後の疲弊と慄きに震える空気だけが残った。

 
 一通りの救助と避難を済ませると、わたしたちは凌雲閣の地下にテレポした。

 

 
※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
春日         高坂家のメイド長
田中         高坂家の執事長
虎沢クマ       霧子お付きのメイド
松本         高坂家の運転手 

 
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