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188『礼法教室のすきま風』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
188『礼法教室のすきま風』語り手:マヂカ
まるで大名家の黒書院だ。
黒書院とは将軍や大名家の奥向きの座敷で、いわば将軍・大名の居間のことだ。
わたしも徳川の時代には隠密という名の魔法少女として各地の大名の黒書院に忍び込んだ、時には奥女中として公然と侍って、情報を収集したり、時には大名を助けたり陥れたり……その時の癖が出て、立ち居振る舞いが楚々としてくる。
両手を添えて襖を開ける、座ったまま拳を立ててにじるようにして入室し、襖を閉めると座位のまま一礼、右太ももの上に手を載せた姿勢で立ち上がり、畳の縁を踏まぬよう上段の間に正対する位置まで進んで右足を引いて正座、さらに一礼したのち、男で言えば蹲踞の姿勢で、上段の間に人の現れるのを待つ。
霧子も高坂侯爵家の娘、教室とはいえ黒書院同様のしつらえ、作法通りに現れるだろう……ん?
帳台(上段の間、向かって右にある丈の低い四枚の襖で仕切られている小部屋)の襖がわずかに開いていて、微かに風が吹き込んでくる。
大名家の帳台は、一種の納戸で、日ごろは武具や什器が収められているが、心許せぬ来客があった時には警護の者を控えさせておく言わば武者溜まりになっている。
学習院の礼法教室は文字通り教室なので帳台は装飾に過ぎない。おそらくは壁にハメ殺しの襖があるだけ。あの向こうは校舎の廊下になっていて、わたしは、その廊下を歩いてきて、ここにいる。吹いてくるとしたら廊下からのすきま風、仮にも女子学習院の校舎だ、すきま風が吹くような安普請のはずは無いだろう……それとも関東大震災で、さすがの校舎にもガタが来ているのか?
不審に思って上段の間に上がり、指一本分ほど開けられている襖をそろりと開けてみる。
当たり前なら壁か、開けているとしても廊下である。
おお?
そこは、学習院の廊下とは思えない古城のそれのような武者走り。武者走りの奥には厳つい急こう配の階段が上っていて、風はそこから吹いてくる。
足音を殺して武者走りを進んで階段に足を掛ける。
天井の梁で見えなかったが、真下から見ると引き戸式の扉がある。下から駆け上がってきた敵が簡単には上がってこれない造りで、ますます城郭の構造だ。
念のため、スカートのポケットからハンカチを取り出し、引き戸を開けると同時に階上に投げ入れる。
パサリ
一人分の反応がある。
この軽やかさ、霧子に違いない。
「なによ、こんなところで?」
声をかけると、窓の外を向いていた霧子がニンマリと振り返った。
「待ってたわ、やっぱり真智香は来れる人だったんだ」
あれ、魔法少女の素性が知れているのか?
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