魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
182 / 301

182『メイド長のエクボ』

しおりを挟む

魔法少女マヂカ

182『メイド長のエクボ』語り手:春日メイド長    

 

 
 あら、旅順開城以来!

 思わず呟いてしまいました。

 田中執事長が鼻歌を口ずさんでいたのです。

 
 過ぐる日露の戦役では、現当主の尚孝さまは士官学校を繰り上げ卒業されて少尉に御任官され、我々使用人は尚孝さまが旅順以外の任地に征かれますようにとお祈りばかりしておりました。

 軍団長の乃木将軍は、ご子息お二人とも旅順の戦いで亡くされ、乃木家は嫡流の跡継ぎの男子が居られなくなられました。

 高坂家は尚孝さまの他はお姫さまばかり。尚孝さまに万一のことがありましたら、五代遡った御分家様がお継ぎになられます。御分家様は、とかく噂の多きお方で、口には出さずとも、ずいぶん心配したものでございます。

 それが旅順の開城で尚孝さまの御生還への道が大きく開けたのですから、まだ若い執事であった田中執事長が思わず鼻歌を口ずさむのもむべなきことでございました。

「おや、そういうメイド長も方頬にエクボが出ておりますぞ(^▽^)/」

「え、エクボだなんて、これは歳相応のほうれい線ですよ!」

「あはは、お互い嬉しい時には出てしまうものだね」

「ほ、ほんとうに……」

 あとは二人で泣き笑いになってしまいました。

 
 今日は、霧子様が〇カ月ぶりにご登校遊ばされるのです。

 
 正直なところ、西郷家からお遣わされた二人が、こんなに早く結果を出してくれるとは思っても居ませんでした。

 朝の御挨拶(という名目でお起こしに参るのです)に伺おうと、霧子様のお部屋に通じる廊下に差し掛かりますと、すでに霧子様は制服に御着替えになられて西郷家のお二人を従えておられたのです。

「春日、今まで心配をかけました。今日より霧子は西郷家の二人といっしょに学校に通います。よろしく用意をして下さい。わたしは御仏間でご先祖様にご報告申し上げてからダイニングに向かいます。二人を案内しておいてちょうだい」

「え、あ、はい、承知いたしました」

 駆け出しのメイドのようなご返事をしてしまいました。

「あら、春日ってエクボがでるのね」

「お、おからかいにならないでくださいませ。こ、これはほうれい線でございます(;^_^A」

「おお、霧子様もエクボに気付かれたのですか。いやいや、君臣相和し、目出度いことです」

「ですから、ほうれい……あ、お出ましになられます」

 
 高坂家の御玄関は東に向かって開いており、ちょうど車寄せにお出ましになった時に朝日がスポットライトのように差すようになっております。アプローチにお立ちになった霧子様は、そのスポットライトに照らされ、舞台の真中(まなか)にお立ちになったように輝いておられます。

「では、これより学校に向かいます。見送りご苦労でした」

「行ってらっしゃいませ!」

 他の使用人たちと共にご挨拶申し上げます。

 運転手の松本がパッカードのドアを開け、西郷家のお二人を従えて後部座席に収まられます。

 おそらくは西郷家の真智香さまのお力なのでしょうが、当の真智香さまは何事もなかったように、典子さま霧子お嬢様に続いてお乗りになられます。

 お三方をお乗せしたパッカードは、ゆるりと車寄せを周ってご門を出て行きました。

 お見送りを終わって朝のお掃除。

「さあ、みなさん、朝のお仕事、キリキリと働きましょう!」

 ふと御玄関の鏡に映った自分の姿に目が停まります。

 いっしょに映り込んだメイドたちと鏡の中で目が合い、我知らず狼狽えてしまいます。

 どうやら、わたしの頬を見ております。

「こ、これは……エクボです。文句ありますか!?」

 メイドたちは、笑いをこらえてフルフルと首を振って、まあ、たまにはこんな朝もいいでしょう。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...