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176『JS西郷と人形焼』

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魔法少女マヂカ

176『JS西郷と人形焼』語り手:マヂカ    

 

 なんでJS西郷が?

 
「時間を跨いで救援に来れるのがわたししか居ないからよ。九月に関東大震災がおこって、みんな忙しいから」

 そうだ、大正十三年と言えば関東大震災の年だ。緑の多い原宿は目立たないが、震災直後の東京は大変なことになっているはずだ。

「マヂカ、その子は?」

 JS西郷に気づいたノンコが近寄ってきた。

「魔法少女よ」

 説明する前にJS西郷が応える。

「うっわー可愛い! 魔法少女ってJKばっかだと思ってた」

「いや、こいつの中身は……」

「人形焼きでできてんの」

「は?」   

「食べる? 浅草名物人形焼、あんことカスタード、中身は食べてのお楽しみ(^▽^)/」

 JS西郷が差し出した紙袋には溢れんばかりのホカホカの人形焼が入っている。

「わ、ひっさひブリ~(o^―^o)」

 さっそく弁天さんの人形焼を頬張ったノンコはJS西郷の詮索を忘れてしまった。

「神田明神にでも頼ろうかと思っていたんだけど、その話しぶりだと無駄足になりそうね」

「うん、将門さんは寝込んじゃってるよ」

 さもありなん、神田の御大が健康ならこんな災厄は起きていないだろう。

「で、まあ、今夜寝るところにも困ってるだろーから……」

「え、すぐには帰れないの?」

 二つ目の人形焼きに伸ばした手が止まってしまうノンコ。

「この紹介状を持って高坂侯爵のお屋敷に行くといいわ」

 器用に背負ったままのランドセルから封筒を取り出して、わたしとノンコに示した。

「高坂侯爵……」

 華族のお屋敷と言えば多くは山の手だ、渋谷に近い原宿あたりにあったか……?

「ほら、あそこよ。こんもりとした森のようなお屋敷」

 JS西郷の指の先……そこは東郷神社が……ああ、この時代東郷元帥はまだ生きている、神社の敷地は、さる華族様のお屋敷だったな。そうか高坂侯爵だったか。

「で、なんの紹介状……」

 振り返るとJS西郷の姿は無く、紙袋一杯の焼き立て人形焼きだけが残っていた。
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