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159『宇都宮 十四餃子飯店・2』

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魔法少女マヂカ

159『宇都宮 十四餃子飯店・2』語り手:マヂカ     

 

 
 店の外に出ると、屋並みの向こうに首なし東京タワー(トップデッキから上が無い)がノシノシ歩いてくるのが見えた。

「街に入れてはならん! 一中隊二中隊は前へ! 三中隊は敵の左翼、四中隊は右翼に回って牽制!」

 十四餃子飯店の大将は野戦服の大隊長の姿で軍刀を振り回して、各中隊に下命している。

 中隊長は、さっきまでいっしょに餃子を食べていた客たちだ。

 鉄兜の兵隊はと見ると、顔にまで迷彩を施したギョウザたちだ。

「なるほど、やっぱり焼き餃子なんだね!」

 友里が感心する。顔の迷彩は、美味しそうな茶褐色の焼け焦げだ。

「大隊長、後続の兵たちは焼き上がり次第前線に向かわせます!」

「おう、早く頼むぞ! あいつが来るまでは持ちこたえねばならないからな!」

「了解!」

 大将の息子が店の中から元気な返事。続いて鍋に水を打つ『ジャーー!』という美味しそうな音がする。

「君たちはお客だ、お客を危険な目に遭わせるわけにはいかない。城山の方に避難したまえ。城山には再建された櫓がある。そこで、戦闘が終わる待つんだ」

「分かった」

 いっしょに戦うと言う選択肢もあるのだが、客の身では連携をとるのも難しい。大将の指示に従って街路を北に進む。犬に戻ったツンが先駆けして、曲がり角に来ては立ち止まって、こちらの様子を気にしている。西郷さんの躾なのだろうが、行き届いている。

「あ、お城だ!」

「おお!」

 宇都宮城は明治になって破却されたので、戦前に立ち寄った時は堀の一部しか残っていなかったが、隅櫓と白壁が復元されている。ひょっとしたら亜空間の中に生まれた幻かもしれないが、霊魔の東京タワーも亜空間の産物。しばらく身を寄せるには不足は無いだろう。

「立派な御殿がある!」

 堀の内は、かつての本丸であるので、位置的に本丸御殿があるのは当たり前だ。

「……一息つこう」

 御殿には立派な玄関が付いていて、框に腰かけて靴を脱ぐ。

「ツン、上がりたければ人の姿になれ」

「わん!」

 女子中学生になると、式台に上がって待ってくれる。

 三人揃ったところで奥を目指すと、二回角を曲がったところに、檜の香りが際立つ、新築間もないところにたどり着く。

 おあつらえ向きに障子が開いていて、青畳のいい匂いがする。

「ここで、待って居ようよ」

「ああ、そうね」

 次の間を過ぎると三十畳ほどの広間。格子の嵌った窓からは、城山の北方に同じような丘が見えた。

「あ、あそこ!」

 友里が指差した山の頂上に東京タワーに似た鉄塔が見えた。

 むろん戦前には無かったもので、わたしも見当がつかない。

「とりあえず、宇都宮タワー……ググってみよう……あ、本当に宇都宮タワーっていうんだ」

 スマホの画面を窺うと、高さ89メートルと表記された鉄塔の写真がある。東京タワーにソックリだ。

 よく見ると、展望台は一つだけだが、東京タワーのトップデッキは、いたって小振りなので、遠目にはトップデッキを持たない宇都宮タワーに似ている。

 ゴゴ……ゴゴ……

「なに、地震?」

「わんわん!」

 ツンが天井を指さす……なんと、天井がゆっくりと降りてくるではないか!?

 ギギ ギギ

「思い出した! 宇都宮の釣り天井だ!」

「釣り天井!?」

「わん!」

「くそ、結界ができていて出られない……」

 その昔、本多正純が日光参拝帰りの将軍を亡き者にしようと作ったからくりの釣り天井だ。

 思い出した、十四餃子飯店の大将は隅櫓に籠れと言っていたんだ。

 ギギ ギギ

 天井は、速度を増しながら頭の高さに達しようとしていた……。

 

 
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