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147『荒川土手道の幻想・2』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
147『荒川土手道の幻想・2』語り手:友里
瞬きした瞬間、ゼロ戦の操縦席に収まってしまった。
自然に左手が動いてスロットルを引く、エンジンの回転数が上がって、ゼロ戦は荒川の土手道を滑走したかと思うと、あっという間に空に舞い上がった。
え? ええ!?
『頭を空っぽにして!』
「え、マヂカ?」
『右を見て』
「右?」
右を向くと、もう一機のゼロ戦が高度を上げてきて横に並んだ。操縦席に収まっているのはマヂカだ。
「もう一機あったの!?」
『魔法で出した。ここは敵も味方も魔力が上がるみたい。頭を空っぽにして、敵機を墜とすことだけをイメージして。そうすれば機体は自由に操れる』
「機銃とか撃つのは?」
『イメージ!』
それだけ言うと、マヂカのゼロ戦は高度を上げて三時の方向に飛んでいく。わたしは反射的にフットバーを踏み込んで操縦桿をいっぱいに引いた。
グィーーーーーーン!
ゼロ戦はみるみる上昇していき、上空に迫るゴマ粒は金属バットに翼を付けたような姿に……ひょっとして、B29?
むき出しのジュラルミンの機体がキラリと光る。
きれいだ……。
ドドドドドドド!
「やばい!」
見とれていると、眼前に迫った三機のB29のあちこちからアイスキャンディーがほとばしってきた。
『ユリ!』
「分かってる!」
フットバーを蹴ってロールしながらアイスキャンディーの束を避け、二番目に近いB29の鼻先に20ミリ機銃をぶち込む!
なんで二番目かと言うと、一番近いB29を狙っても射撃の時間は二秒もなく、撃墜には至らないと判断したからだ。
狙った二番目はジュラルミンの破片をキラキラまき散らしながら高度を下げていき、視界から姿を消したかと思うと、下後方からドーンと鈍い音をさせた。
『ひき続き下方の敵機を食って!』
「了解!」
敵編隊の上空に突き抜けたところで捻りこみをかけ、八十度の降下角で突っ込んでいく。この降下角ならば、敵機の機銃はこちらを狙えない。しかし、機速は350ノットを超え華奢な機体は十秒も耐えられない。
ミシ ミシ
機体が音をたて、翼面のジュラルミンに皴が寄り始める。
ドドドドドドドドドド! ドドドドドドドドドド!
二十発余りの二十ミリと八十発ほどの七・七ミリを左翼の付け根あたりにぶちまける。照準器のレチクルが敵機の翼で一杯になった瞬間、操縦桿をいっぱいに引く!
ガシ
水平尾翼のあたりで嫌な音がする、敵機のプロペラに擦られた!
ボグ
敵機の翼が折れたか?
やっと水平を取り戻して、見上げると、数百メートル上空で煙を吐いて墜ち始める敵機が見えた。
ガクン ガクン
機体が震えて、操縦が難しくなってきた。
『一度下りて、別の機体に乗り換えろ』
「わ、分かった」
土手道は、いつのまにか滑走路になっていて、予備のゼロ戦が準備されている。
そうやって、機体を乗り換えること三回。
十機は墜としただろうか、マヂカは、その倍は墜としている。
頑張らなきゃ……気は焦るんだけど、集中力がもたない。
敵の編隊が、消えては現れるというバグのような状態になってきた。
『ここまでよ、これ以上やっては次元の断裂に呑み込まれてしまう』
マヂカの無線で気が抜けた。
すると、敵機は寄り集まった……かと思うと、赤白に塗り分けられた巨大なB29になって、ゆっくりと旋回しながら姿を消していく。
合体しきれなかった敵機はプテラノドンに姿を変えたが、瞬くうちにマヂカが撃ち落としていった。
「あれは、いったい何だったの?」
「全部墜とせたら、東京大空襲を阻止できたかもしれんがな」
「東京大空襲?」
「昭和二十年三月十日に三百機のB29が来襲してきて、十万の東京市民が犠牲になった」
「……教科書に書いてあったような」
「いいさ、ろくに教えられてはいないんだから」
「全部墜とせたら、本当に阻止できた?」
「フフ、そんな気がしただけ」
マヂカは、ずっと昔から魔法少女をやっている。ひょっとしたら、リアルに出撃していたのかもしれない。
でも、聞いてもマヂカは答えないだろう。
話題を変えた。
「合体したら、赤白のB29になったじゃない……」
「うん、あの姿は意味があると思う」
「でも、怖いよね」
「でも、後戻りはできない。もう、荒川を渡ってしまったからね」
「え、いつの間に!?」
「とりあえず、クロ巫女には伝えておくか」
ひそかを取り出すと、クロ巫女に電話をするマヂカだった。
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