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138『量子バルブ』
しおりを挟むライトノベル 魔法少女マヂカ
138『量子バルブ』語り手:マヂカ
北斗は黄泉比良坂の上空を旋回した。
僅かな時間だけど千曳の大岩が開いてしまったために、あたりは朱を含んだ闇色に淀んで、まるで地獄の空を飛んでいるようだ。
千曳の大岩は閉じてしまったが、周囲の岩や地面からは間歇的に風穴が開いては閉じて、醜女たちが姿をのぞかせては赤い舌を蛇のように動かして威嚇している。
シャー シャー シャー
「可愛くないよ、あいつら」
「すまない、嵐山のトンネルで手間取って、今になってしまった」
晴美隊長は、わたしとブリンダの不始末を咎めることもなく、自分たちの不手際を詫びてくれる。
「さすがは聖メイド、こんな不始末でも労ってくれるのね」
「それはお互いさまということで、どうするかを考えないとな」
「もう一度量子パルス砲で千曳の大岩をぶち抜けない?」
「嵐山のダメージで出力が足りない。回復の見込みは?」
「三日ほどはかかります」
友里の返事に隊長は静かにうなづく。悟ってくれという気持ちが読み取れる。
ノンコも清美も、助っ人のサムも黙々と操作しながら警戒してくれている。ミケニャンは北斗の外で醜女たちを牽制しているウズメから目が離せない。
「ウズメさんのエロはアキバにはないものニャー、あれ、アキバにも取り込めないかニャ?」
「風俗営業になってしまうし(^_^;)」
「違うニャ! あの目ニャ! 色っぽいだけじゃニャくて、可愛いニャ。萌ニャ。あの目で見られたら、一瞬動きが止まってしまいそうになるニャ。もし、アキバのメイドになったら50%は客足が伸びるニャ~(⋈◍>◡<◍)」
ウズメは責任を感じているんだ。
十銭玉の勢いで攻めきれずに押し返されて、せめて風穴から先には醜女たちを出さないように睨みを利かせてくれている。醜女の中には一銭玉を失くしてしまい、ウズメの流し目に直撃されて蒸発してしまう者もいる。
「なんとかしないと、ウズメもいつまでも持たないぞ」
「北斗のCPで解析中です」
砲雷手の清美が応える。CPは微かに唸りをあげながら演算を繰り返しているが、今のところ『エスケープ』と『撤退』の二文字を点滅させているだけだ。
「り、量子バルブが疲労破壊寸前!」
機関部の調整をしていたノンコが悲惨な声をあげる。
「定期点検で外したバルブ、まだ使えるかもよ!」
「廃棄品ですよーー(-_-;)」
「替えるまでもてばいいから!」
「はいい、隊長!」
ノンコは操作卓を離れてツールボックスに取りついた。
「二個残ってる、どっちします!?」
「どっちでもいい、即、交換!」
「友里、二十秒だけ機関停止して!」
「十秒でやって!」
「分かった!」
ズビューーーーーーーン
底が抜けるような音がして、エンジンが停止。しかし、質量50トンの北斗は、速度を5キロ落としただけの惰性で結構走る。
「交換完了!」
ズゥイーーーーーーーン
エンジンが再始動、5キロの失速はたちまち回復した。
ピポパポポ ピポ
「CPがアンサーを出します!」
「「「「「なんと!?」」」」」
全員がモニターに釘付けになる。
―― 量子バルブの真鍮にビタ銭の成分あり 量子バルブの真鍮にビタ銭の成分あり ――
「「「ビタ銭?」」」
クルーたちが頭を捻る、わたしと晴美隊長だけが分かった!
「「鐚銭だ!!」」
「だから、それはなんだ? ビタミンの一種か?」
「明治以前に使われていた通貨だよ、真ん中に四角い穴の開いた銅貨で、明治になってからもしばらくは補助貨幣として使われていた」
「『びた一文やれるか!』の鐚だ」
―― 鐚銭を抽出復元すれば醜女の一銭銅貨に対抗できる ――
「そうよ! 鐚銭一文は一銭の1/10よ!」
「じゃ、バルブから抽出復元して!」
「あ、でも、バルブを外したら北斗が……」
「動かなくなるニャ!」
「……だいじょうぶ! ツ-ルボックスに、もう一つ取り外したのがある!」
もうちょっと頑張って!
ウズメに祈りながら、バルブから鐚銭を抽出しにかかった。
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