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092『M資金・29 ハートの女王・5』
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魔法少女マヂカ
092『M資金・29 ハートの女王・5』語り手:ブリンダ
たとえ国会議員でも牛を通すわけにはいかないのだ!
護送車が宮殿の前に着くと、大きな黒熊の帽子に赤い制服、袖にぶっとい金筋の入った衛兵長が通せんぼをする。
オレの胸の谷間に収まっているマヂカを見咎めたのだ。マヂカはロデオから牛女の姿になったままなのだ。
「女王陛下と議会の要請なのだ」
ビーフィーターのキャロラインが詰め寄るが、衛兵長はウンとは言わない。
「我が国は法治国家なのだ、君主も議会も法を違える決定はできないのだ。どうしても通りたければ法を改正せよ!」
「その法を改正するには議会を開かなければならないが、議会の人質が宮殿に収まらなければ、開けないんだぞ!」
「それは小官が関知するところではない。とにかく法を守れ! 法こそが世界の柱、法こそが国の根幹なのだ! 法こそが!」
「ホーホーと間抜けなフクロウのように言わないでいただきたい! そんなだから、旧法に拘泥するあまり、いまだに宮殿には電気も通わないではないか! エアコンどころか、電気ストーブも使えないから、お互い真っ赤っかの制服で誤魔化しているのではないか!」
「あ、それはチューダー朝からの秘密……んなことはいいのだ、昨日の法改正で宮殿にも、この夕方から電気が点くのだ!」
「え!?」
すると、ちょうど時間になったのだろう、宮殿の内外に一斉にLEDやら蛍光灯やらが灯り始めた。
「ずっと辛抱していたが、その甲斐あって、誰を憚ることもなく電気が使える。法治主義のありがたみだ! だから、おまえたちも法律が改正されるのを待って出直してこい!」
「いや、だから、人質が入らなければ議会が開けない!」
面白いことになってきた。マヂカとニヤニヤしていると、一人の衛兵が衛兵長に耳打ちした。
「なになに……そうか、なかなか良いことを言う、ハリー伍長。では、おまえに任せる」
衛兵長はハリー伍長の肩を叩くと、鷹揚に門の中に帰って行った。
「警衛中に事故者や病人を発見した場合は、衛兵は救急措置をとることになっているんです」
ハリー伍長は、目深に被った毛皮帽の下から眼鏡越しに優しい瞳を向けてきた。
「どういうことなのだ?」
「胸の谷間に挟まれている人は病気です」
「え、マヂカ、病気だったのか?」
「え、いや、特には、そんなことより……」
「いえ、病気です。人牛合体病、至急に直さなければ」
「そうか、ハリーの言う通りだ!」
キャロラインまで調子に乗り出した。
「ハリーは魔法学校を出ているんだ、マヂカの牛女を解除すれば宮殿に入れる!」
「そういうことか!」
「それじゃ、頼む。ブリンダの胸にも飽きてきたからね」
「オレも飽きた!」
「じゃ、始めます」
真面目な顔になったハリー伍長は両手をかざすと、ゆっくりと呪文を唱え始めた。秘伝の呪文なので呪文そのものを書くわけにはいかないが、すぐに体が暖まり、周囲の空気までホワホワとして、一瞬炸裂した打ち上げ花火の真ん中にいるようになった。
すると、マヂカと牛が分離して、身の丈も元に戻った。牛も「モーーー」と声をあげるとポクポクと歩き去っていった。
「おう、議会の人質の到着か、待ちくたびれていた、急いで宮殿内に収監するぞ!」
衛兵長が、初めて気が付いたように部下に命じた。
092『M資金・29 ハートの女王・5』語り手:ブリンダ
たとえ国会議員でも牛を通すわけにはいかないのだ!
護送車が宮殿の前に着くと、大きな黒熊の帽子に赤い制服、袖にぶっとい金筋の入った衛兵長が通せんぼをする。
オレの胸の谷間に収まっているマヂカを見咎めたのだ。マヂカはロデオから牛女の姿になったままなのだ。
「女王陛下と議会の要請なのだ」
ビーフィーターのキャロラインが詰め寄るが、衛兵長はウンとは言わない。
「我が国は法治国家なのだ、君主も議会も法を違える決定はできないのだ。どうしても通りたければ法を改正せよ!」
「その法を改正するには議会を開かなければならないが、議会の人質が宮殿に収まらなければ、開けないんだぞ!」
「それは小官が関知するところではない。とにかく法を守れ! 法こそが世界の柱、法こそが国の根幹なのだ! 法こそが!」
「ホーホーと間抜けなフクロウのように言わないでいただきたい! そんなだから、旧法に拘泥するあまり、いまだに宮殿には電気も通わないではないか! エアコンどころか、電気ストーブも使えないから、お互い真っ赤っかの制服で誤魔化しているのではないか!」
「あ、それはチューダー朝からの秘密……んなことはいいのだ、昨日の法改正で宮殿にも、この夕方から電気が点くのだ!」
「え!?」
すると、ちょうど時間になったのだろう、宮殿の内外に一斉にLEDやら蛍光灯やらが灯り始めた。
「ずっと辛抱していたが、その甲斐あって、誰を憚ることもなく電気が使える。法治主義のありがたみだ! だから、おまえたちも法律が改正されるのを待って出直してこい!」
「いや、だから、人質が入らなければ議会が開けない!」
面白いことになってきた。マヂカとニヤニヤしていると、一人の衛兵が衛兵長に耳打ちした。
「なになに……そうか、なかなか良いことを言う、ハリー伍長。では、おまえに任せる」
衛兵長はハリー伍長の肩を叩くと、鷹揚に門の中に帰って行った。
「警衛中に事故者や病人を発見した場合は、衛兵は救急措置をとることになっているんです」
ハリー伍長は、目深に被った毛皮帽の下から眼鏡越しに優しい瞳を向けてきた。
「どういうことなのだ?」
「胸の谷間に挟まれている人は病気です」
「え、マヂカ、病気だったのか?」
「え、いや、特には、そんなことより……」
「いえ、病気です。人牛合体病、至急に直さなければ」
「そうか、ハリーの言う通りだ!」
キャロラインまで調子に乗り出した。
「ハリーは魔法学校を出ているんだ、マヂカの牛女を解除すれば宮殿に入れる!」
「そういうことか!」
「それじゃ、頼む。ブリンダの胸にも飽きてきたからね」
「オレも飽きた!」
「じゃ、始めます」
真面目な顔になったハリー伍長は両手をかざすと、ゆっくりと呪文を唱え始めた。秘伝の呪文なので呪文そのものを書くわけにはいかないが、すぐに体が暖まり、周囲の空気までホワホワとして、一瞬炸裂した打ち上げ花火の真ん中にいるようになった。
すると、マヂカと牛が分離して、身の丈も元に戻った。牛も「モーーー」と声をあげるとポクポクと歩き去っていった。
「おう、議会の人質の到着か、待ちくたびれていた、急いで宮殿内に収監するぞ!」
衛兵長が、初めて気が付いたように部下に命じた。
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