上 下
77 / 301

077『M資金・14 第七艦隊・3』

しおりを挟む
魔法少女マヂカ

077『M資金・14 第七艦隊・3』語り手:マヂカ 

 

 
 ウォルト・ディズニーのことはギャグだと思っていた。

 
 霊雁島の第七艦隊の司令官は、レーガン大統領だと思っていた。じっさい、最初に司令官室で着任の挨拶をしたのはレーガン大統領だった。ところが、話をしている間にコロコロと姿が変わる。ハルゼーだったりニミッツだったりパットンだったり、もうワンフレーズごとに姿が変わるので、アメリカアニメの総帥でありアミューズメントの神さまもいるだろうという、アメリカ人らしい皮肉をブリンダがかましたんだろうと思っていた。

 あくる日、ブリンダと二人そろって呼び出された司令官室にいたのは、その総帥であり神さまであるウォルト・ディズニーその人であった。足も長いしハンサムだし、日本アニメの巨匠たちと比べると、にこやかで数段カッコいい。

「やあ、昨日は失礼した。いろいろ変わったけど、正体は、この通りウォルト・ディズニーなんだ」

 デスクにお尻をよっかからせ、気さくに話をするのは、伝説通りのウォルト・ディズニーその人だ。でも、給湯室でお茶の用意をしているミニーとディジーが吹きだしたのを、わたしもブリンダも気づいている。ミニーとデイジーは、お茶を持ってくる前に、トレーに載せた三人分のボウルを運んできた。

「うちの司令官、朝ごはんがまだだから、付き合ってくださいね」「司令官は、こればっかりで」

 そう言って給仕してくれたのは、一見ハヤシライスのルーのようだ。

 数秒かかって思い出した。

 これはチリコンカンというごった煮で、ウォルト・ディズニーの大好物だ。大戦中、マンハッタン計画の偵察にネバダに行った時、何度か職員食堂で見かけたことがある。
 ディズニーは原爆工場の偽装を担当していたのだ。工場の上に街並みのセットを作り、空から偵察しただけでは分からなくしていた。アメリカ的発想というやつだ、瞬間頬が緩むが、核兵器のカモフラージュだ、笑いきれない。

「こいつは、打合せとかやりながら食べるのにはもってこいなんだ」

 現代の感覚なら、カップラーメン食べながら打合せするのに似ている。

「実は、いまや亜世界は異世界に通じ始めていてね、敵は、世界中の財宝や秘密資金を、そういうところに集め始めてる。君たちが追っているM資金も、そこにある」

 どうも敵はバルチック魔法少女隊だけではないという口ぶりだ。

「特務師団は自衛隊だから、専守防衛の枠を超える作戦には参加できないが、うちなら出来る。ブリンダと二人で挑んでもらいたんだ」

「少女二人にですか?」「怖いですウ」

「ハハハ、『魔法』を省略しちゃいけない。君たちが少女なのは見かけだけだ。君らの力は一人で一個師団に匹敵するよ。海軍なら一個打撃軍だね。これを見てくれたまえ」

 ウォルト・ディズニーが目配せすると、ミニーがスクリーンを下ろし、ディジーがモニターのスイッチを入れた。

 カラカラカラとクラシックな音がして、スクリーンに10が映し出され、9・8・7・6・5……と、フイルムカウントが続く。撮影済みのラッシュのように始まった映像は、一発で『不思議の国のアリス』であると知れた。

 青いワンピースに真っ白なピナフォー。「待ってえ、うさぎさーん」と追いかけるアリスは足首が細い割にはぶっといふくらはぎのディズニーアリスだ。

 やがて、お約束の巣穴にウサギを追いかけて、グルグルと落ちていく。

 ここから、アリスの不思議の国が始まるのだが、ちょっと展開がちがった。

 アニメのように、スカートがパラシュートのようになってフワフワ落ちるのではなかった。

 
 キャーーーーー!!

 
 悲鳴を残して、真っ逆さまに落ちて行ったアリスの姿は闇の底に消えていき、数秒後、嫌な音がした。

 グシャ!

 穴の底のズームになり、無残にも血みどろになったアリスの死体が転がっているのが映し出された……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...