上 下
73 / 301

073『M資金・10 消しゴムが床に落ちるまで・5』

しおりを挟む
魔法少女マヂカ

073『M資金・10 消しゴムが床に落ちるまで・5』語り手:マヂカ 

 

 駆けつけると、ブリンダは十数体のツェサレーヴィチと戦っていた。

 やみくもに切ってしまったために数が増えてしまったのだ。

「だから、切るなと言っただろ!」

「一刀両断がオレの剣だ、体が、勝手に動いてしまう!」

「剣を真っ直ぐ構えて、体ごとぶつかっていけ! ぶつかったら、抱きしめて動かせるな! 動かれると両断になってしまって、そこから数が増えてしまうぞ!」

「くそ!」

 側面から振りかぶってきた敵を身かわして串刺しにするブリンダ。

「掴まえて! 離すな!」

 セイ! セイ! セイ! セイ!

 横抱きにされているツェサレーヴィチを、ひたすらに突きまくる。

「ちょ、オレが刺される!」

「うまく躱しなさい!」

 グエーー!

 度重なる突きに断末魔の声をあげるツェサレーヴィチ。あと一突きというところで、別のツェサレーヴィチが挑みかかって来る。瀕死の敵はブリンダを振り切って斜め上に逃げる。放置しておけば、瞬くうちに回復してしまう。

「させるかあ!」

 背後から締め上げて、さらに突きを入れて、なんとか霧消させる。次! そう思ったら、ブリンダは斜め下で敵を両断してしまっていた。

「ブリンダあ!」

「すまん!」

 ブリンダの斬撃癖で、敵はなかなか減らなかったが、五体増やしたところで、ようやく連携がとれるようになって、十分後に敵は二体にまで減った。

「さあ、コツは掴んだ、覚悟しろ!」

 すると、あろうことか、二体の敵は互いの体を、抱き合うようにして刺し貫いた!

 壊れた消火栓のように、抱き合った二人の体から血が噴き出ていく。両断するのではと警戒したが、ハッシと抱き合った腕は緩む様子がない。

「お、おまえら、死ぬぞ!」

 ブリンダが顔色を変える。

 先の大戦のころも、そうだったが、敵が自殺的行為を行うと顔色を変えて非難する。神風特攻やバンザイ突撃には終戦まで憤っていた。

 わたしはわたしで、力及ばず自決する敵にとどめを刺すなどできない。してはならない、せめて見届けてやろう。風切丸を鞘に納めた。わたしは日本の魔法少女なのだ。

「スパシーボ……」

「武士の情けね……」

「言い残すことはあるか?」

「ロシアは貧しい……」

「世界最大の国土を持ちながら、国の経済は火の車よ……」

「偉大なロシアを取り戻すためには、あのM資金が必要なのよ……」

「自信が必要なの……形だけでも日本の魔法少女に勝たなければ……」

「ウラル山脈ように高い誇り……」

「バイカル湖を覆う氷よりも固い決意……」

「ツェサレーヴィチは、ロシアに殉ずる……あ、もう……」

「力が……」

「お願い、トドメを……」

「お、おまえら……!」

 ブリンダはナイアガラの滝のように涙をあふれさせた。ミズーリ号に飛び込んだ特攻機に涙していたころのブリンダを思い出す。

「おまえら、よく戦った。介錯してやるぞ!」

「待て!」

 言ったときには、ブリンダは二人の首をはねていた。

「しまった!」「ブリンダあ!」

 大量の出血のためか、傷口から復活したのは一体だけだった。それも、歯向かってくることはなく、後ろのゲートから弱弱しく逃げて行った。

「くそ! 追うぞ!」

「よせ」

 わたしはブリンダを止めた。

「もう、あいつに戦う力は残っていない」

「そ、そうか……そうだな」

 
 しかし、わたしが甘かった。

 戦う力は残っていなかったが、金塊をテレポさせる力は残っていたようで、気づいてから取り戻せた金塊は、インゴット二つ分だけであった。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~

つちねこ
ファンタジー
モンスターが現れるようになってから百年。ドロップアイテムの研究が進んだ結果、抽出された魔法接種薬により世に魔法少女が誕生していた。 魔法少女はモンスターから街の平和を守るため活躍し全ての少女達の憧れとなっている。 そんなある日、最低ランクのFランク魔法少女としてデビューをむかえるエリーゼに緊急の指令が命じられる。それは、政府と距離を置いていた魔法一族との共同事業だった。 この物語は、最強の魔法使いがFランク新人魔法少女をしょうがなく育成していく物語である。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

召喚されたのに無実の罪で島流しにされた俺はスライムを食べた ~異世界人はスライム人間~

十本スイ
ファンタジー
突然、海原沖斗は、同じ学校のイケメンである矢垣総司とともに異世界に召喚された。聞けば多種族間に起きている争いに勝つためだという。あまりにも勝手な言い分に乗り気ではない沖斗ではあったが、とにかく生き残るために最善を尽くそうとする。しかしその最中、総司の悪意によって無実の罪をなすりつけられてしまう。その結果、沖斗は流刑に処せられた。そして人気のない無人島で孤独と飢餓に苦しむ沖斗は、腹を満たすために生息していたスライムを口にすることに。すると沖斗の身体が突然変異を起こし、スライムの特性を持つ身体に転化してしまった。しかしその力のお蔭で島から脱出することもでき、沖斗は異世界生活を満喫しようと試みる。

転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ
ファンタジー
地球末期。パーソナルデータとなって仮想空間で暮らす人類を管理するAI、システム・イリスは、21世紀の女子高生アイドル『月宮アリス』及びニューヨークの営業ウーマン『イリス・マクギリス』としての前世の記憶を持っていた。地球が滅びた後、彼女は『虹の女神』に異世界転生へと誘われる。 エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに豪商ラゼル家の一人娘として生まれたアイリスは虹の女神『スゥエ』のお気に入りで『先祖還り』と呼ばれる前世の記憶持ち。優しい父母、叔父エステリオ・アウル、妖精たちに守られている。 三歳の『魔力診』で保有魔力が規格外に大きいと判明。魔導師協会の長『漆黒の魔法使いカルナック』や『深緑のコマラパ』老師に見込まれる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...