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064『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』
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魔法少女マヂカ
064『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』語り手:来栖司令
核武装すべきです。
新防衛大臣を前に、かましてやった。
先々代の女性防衛大臣は、自分の政治的ポテンシャルにプラスになるかどうかだけの興味しかないオバハンだった。
だから「ここだけの話ですが」と前置きをしたのにもかかわらず、三日後にはマスコミに漏れてしまって、一カ月間マスコミに叩かれたあげく、防衛省資料部に左遷された。
制服組の暴走を阻止した防衛大臣として、マスコミは彼女をもてはやした。しかし、お蔭で『ふそう計画』が実施できることになったのだから結果オーライ。この経緯について話し出すとキリが無いので、そういうことであったと理解してくれればいい。
先代はギャンブル産業の利益代表みたいなオッサンだった。
先々代同様に『核武装すべきです』とかましただけで頭にも心にもシャッターを下ろしてしまいやがった。
半島に核武装した統一国家が生まれそうで、日本は中国・ロシアと合わせて三つの核武装国家に囲まれてしまうのだ。ロケット技術、核技術、プルトニュウムの三つが揃っているのだから、その気になれば数か月で世界有数の核保有国になれる。しかし、日本には(核兵器を持つ)意思がない。
わたしも、なにがなんでも核武装と言っているわけではない。核武装するとなれば、いまのGDP1%以内の防衛費ではいかんともしがたい。
核武装はブラフだ。
核武装がダメなら次善の策として提案したふそう計画の充実を図りたいのだ。
霊魔や異世界の脅威は一般的な認知には至っていない。SFかラノベやアニメの世界のことだと思われている。
霊魔や異世界の脅威は、ある面、半島や大陸国家の軍事的脅威よりも深刻なのだ。近年、大規模災害の増加が著しいが、その半ば以上は霊魔や異世界に原因があったり絡んだりしている。いつまでも、災害で処理しておくわけにはいかない。
その、対霊魔・異世界戦の要となるのが『ふそう計画』なのだ。ふそう計画の戦略的部隊が特務師団であり、最大戦力が魔法少女なのだ。
この日本に魔法少女部隊は一つしかない。特務師団と名前だけは立派だが、二人の魔法少女に頼り切っている。二人を出撃させる高機動車『北斗』は予算不足で、二回出撃に使っただけで大塚台公園の格納庫に仕舞ったままだ。二人の魔法少女には「北斗を使うまでもない」と言ってあるが、いつまでも、これでは済まないだろう。
「M資金捜索に手を付けてもらえないだろうか」
防衛大学の先輩である新大臣は核武装論のブラフには見向きもしないで斜め上から迫ってきた。
「防衛省はミステリー映画でも作るつもりですか?」
M資金とは、終戦直後から噂になり、様々なミステリーじみた事件や詐欺を巻き起こした、旧日本軍の隠匿財宝のことである。一時GHQが本気で捜索したが――そんなものは存在しない――ということが前世紀には確定していて、今ではテレビドラマの種にされることもなくなった。二十一世紀の今日に、それを持ち出すのは質の悪い冗談でしかなく、言い出したのが先輩でなければ張り倒しているところだ。こちらは、真剣に『ふそう計画』の進展を提起しているのだ。
「大臣、蕎麦があがりましたよ」
いつの間にか、食堂のおばちゃんが大臣室のドアを開け、岡持ちを持って立っている。
「おお、できたか! 来栖、俺が初めて打った蕎麦だ、まあ、食ってから話をしよう」
おばちゃんは、テーブルの上にモリそばを並べていく。なんだか煙に巻かれそうな気配だが、大人しくいただく。
ズルズルズル~~~~~
「こ、これは……!?」
驚いた。生まれてこのかた、こんなに美味い蕎麦を喰ったのは初めてだ!
「驚いたか? 俺には三百年前の蕎麦聖の血が流れているんだそうだ」
蕎麦聖!? それは湯島の聖堂近くで蕎麦屋を始めたという蕎麦名人のことである。歌舞伎や講談の話で、半ば江戸前蕎麦の伝説と言われている人物だ。
「な、こんなことがあるんだから、M資金だって存在するのさ。来栖君」
大臣の後ろで、おばちゃんが大きく頷いた。
え?
このおばちゃんは何者だ……?
064『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』語り手:来栖司令
核武装すべきです。
新防衛大臣を前に、かましてやった。
先々代の女性防衛大臣は、自分の政治的ポテンシャルにプラスになるかどうかだけの興味しかないオバハンだった。
だから「ここだけの話ですが」と前置きをしたのにもかかわらず、三日後にはマスコミに漏れてしまって、一カ月間マスコミに叩かれたあげく、防衛省資料部に左遷された。
制服組の暴走を阻止した防衛大臣として、マスコミは彼女をもてはやした。しかし、お蔭で『ふそう計画』が実施できることになったのだから結果オーライ。この経緯について話し出すとキリが無いので、そういうことであったと理解してくれればいい。
先代はギャンブル産業の利益代表みたいなオッサンだった。
先々代同様に『核武装すべきです』とかましただけで頭にも心にもシャッターを下ろしてしまいやがった。
半島に核武装した統一国家が生まれそうで、日本は中国・ロシアと合わせて三つの核武装国家に囲まれてしまうのだ。ロケット技術、核技術、プルトニュウムの三つが揃っているのだから、その気になれば数か月で世界有数の核保有国になれる。しかし、日本には(核兵器を持つ)意思がない。
わたしも、なにがなんでも核武装と言っているわけではない。核武装するとなれば、いまのGDP1%以内の防衛費ではいかんともしがたい。
核武装はブラフだ。
核武装がダメなら次善の策として提案したふそう計画の充実を図りたいのだ。
霊魔や異世界の脅威は一般的な認知には至っていない。SFかラノベやアニメの世界のことだと思われている。
霊魔や異世界の脅威は、ある面、半島や大陸国家の軍事的脅威よりも深刻なのだ。近年、大規模災害の増加が著しいが、その半ば以上は霊魔や異世界に原因があったり絡んだりしている。いつまでも、災害で処理しておくわけにはいかない。
その、対霊魔・異世界戦の要となるのが『ふそう計画』なのだ。ふそう計画の戦略的部隊が特務師団であり、最大戦力が魔法少女なのだ。
この日本に魔法少女部隊は一つしかない。特務師団と名前だけは立派だが、二人の魔法少女に頼り切っている。二人を出撃させる高機動車『北斗』は予算不足で、二回出撃に使っただけで大塚台公園の格納庫に仕舞ったままだ。二人の魔法少女には「北斗を使うまでもない」と言ってあるが、いつまでも、これでは済まないだろう。
「M資金捜索に手を付けてもらえないだろうか」
防衛大学の先輩である新大臣は核武装論のブラフには見向きもしないで斜め上から迫ってきた。
「防衛省はミステリー映画でも作るつもりですか?」
M資金とは、終戦直後から噂になり、様々なミステリーじみた事件や詐欺を巻き起こした、旧日本軍の隠匿財宝のことである。一時GHQが本気で捜索したが――そんなものは存在しない――ということが前世紀には確定していて、今ではテレビドラマの種にされることもなくなった。二十一世紀の今日に、それを持ち出すのは質の悪い冗談でしかなく、言い出したのが先輩でなければ張り倒しているところだ。こちらは、真剣に『ふそう計画』の進展を提起しているのだ。
「大臣、蕎麦があがりましたよ」
いつの間にか、食堂のおばちゃんが大臣室のドアを開け、岡持ちを持って立っている。
「おお、できたか! 来栖、俺が初めて打った蕎麦だ、まあ、食ってから話をしよう」
おばちゃんは、テーブルの上にモリそばを並べていく。なんだか煙に巻かれそうな気配だが、大人しくいただく。
ズルズルズル~~~~~
「こ、これは……!?」
驚いた。生まれてこのかた、こんなに美味い蕎麦を喰ったのは初めてだ!
「驚いたか? 俺には三百年前の蕎麦聖の血が流れているんだそうだ」
蕎麦聖!? それは湯島の聖堂近くで蕎麦屋を始めたという蕎麦名人のことである。歌舞伎や講談の話で、半ば江戸前蕎麦の伝説と言われている人物だ。
「な、こんなことがあるんだから、M資金だって存在するのさ。来栖君」
大臣の後ろで、おばちゃんが大きく頷いた。
え?
このおばちゃんは何者だ……?
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