魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお

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015『パンダ橋で待つ』

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魔法少女マヂカ

 015『パンダ橋で待つ』     

 

 それしかなかったのか!?

 エスカレーターを上がってきたケルベロスを見て目を剥いてしまった。

「急ぎだから仕方ないでしょ!」

 人が見たら、待ち合わせの場所にアイドルグループのステージ衣装めいたコスを着てきた友だちを咎めているように見えただろう。おまけに、わたしへの第一声がまるっきり女の子だ。それにルックスが反則的に可愛すぎる。乃木坂46の全員のいいとこどりをしてAKB48で割ったような顔をしているのだ。

 神田明神に恭順の意を示して、ブリンダと善行競争をする羽目になったのだが、自信が無いのだ。

 目付け役のケルベロスに相談したくて――すぐに来い!――と呼びだした。

 話が長くなりそうなので本来の黒犬の姿はNGだ。首輪も付けない犬が長時間女子高生にまとわりついていては、通報されてしまう。ケルベロスは上野の西郷さんに憑依すると言うが、西郷さんの銅像に長時間向き合っている女子高生と言うのも不気味だ。

 それで、上野のパンダ橋の上でと約束したら、この格好なのだ。

「東京のあれこれを調べていて、ちょうどサブカルチャーにさしかかったところだったのよ」

「せめて、その喋り方……」

「変えたら……オッサンの声になってしまう」

 アイドルのように可愛い少女がいきなりオッサンの声になったので、傍を通ったOL風が、ブッタマゲテいる(^_^;)

「わ、分かった、女の声でいい(-_-;)」

「では、そうするわ♡」

「って、おまえ、それはアニメ声……それも霞ヶ丘詩羽……まあ、いい……冴えない魔法少女の育て方ってか」

「焦っちゃいけないと思うわ、倫理くん」

「腕をゾゾっと撫でるのやめてくれる、それに倫理くんじゃないし、マヂカ、あるいは渡辺真智香だし」

「ごめんなさい、ちょっと、サブカルにはまり過ぎたみたいね」

「七十二年ぶりの復活は、あくまで休息が目的なのだぞ」

「うん」

 手すりに載せた手に顎を預けて眼下に伸びる山手線。傾いた夕陽がレールを輝かせ、なんだか、小津安二郎がアニメを作ったらこうなるだろうという雰囲気。

 溜まっていたものが、ぽつぽつと、でも、ほとばしってしまった。

「ずっと渡辺真智香でやっていくつもりだった……魔法なんて一切使わずに、数十年は人間として生きていくつもりだった。でも、ちょっとしたミスで人間ではないことがバレそうになって、調理研を作るとかイレギュラーなことをやってしまったが、それもこれも、ひたすら普通の人間として穏やかに生きていくためなのだ。わかるだろ、おまえなら……日暮里駅の階段でブリンダと出会った時も、最初は分からなかったが、接近した時のヤツの悪戯めいた殺気で分かった。分かった瞬間ブラを取られそうになったので、反射的にヤツのパンツに手を掛けてしまった。あとは、おまえも知っての通り、階段の上と下で見得を切り合ってしまったのだ。魔法少女の性というか、反射神経の為せる技というかで、あいつと改めて戦おうなどと思っての事ではないのだ。あんなところで出会うなんて、運命の神も反則だぞ」

「そう、魔法少女の性よね。この前も、お昼にボーっとお弁当を食べていたら、いつの間にか魔法少女の食べ方(お箸を使わないで、食べ物の方から口に入って来る)してしまって、それをユリに見られて調理研究部を作る羽目になったんだものね、倫理君」

「そうなんだ。そうなんだけど、わたし倫理くんじゃないし」

「ああ、この声だめ。チェンジしなくちゃ……とにかく、時間は巻き戻せないんだから、前向きに頑張るしかないじゃないですか、お兄さん、がんばれ! 頑張ってこそ桐乃のお兄さんです! できなきゃ通報しますからね!」

「今度は『オレイモ』のあやせになってるし」

「仕方がない、魔界の力を持ってクィーンオブナイトメアを召喚し、直接心に語り掛けるしかないわね」

「それは黒猫だし……」

「爆ぜろリアル! 弾けろシナプス!」

「『中二病でも恋がしたい!』の小鳥遊六花になってるし!」

――魔法少女が魔力を発揮すると、魔波が発せられる。魔波とは電波のようなもので、魔力のある者なら、相当の距離があっても探知されてしまう。日暮里で発した魔波は神田明神が知るところとなり、ついさっき、ブリンダ共々呼び出されて釘を刺されてしまったのだ。それが制御できていない。これは、とりもなおさず、七十余年前の戦時の感覚が抜け切れていないことの現れ、時間をかけて直していくしかあるまい。及ばずながらわたしも協力していこう。これからは、ギリギリまでお前の傍にいるから、おまえも励め――

 さすがに思念で語り掛けてきた。

「ケルベロス、おまえは使い魔だ。恒常的にこちらにいると魔界に戻れなくなるぞ」

――心配するな、おまえの数百倍も魔界にいた身だ。加減は分かっている――

「そうか、すまん、面倒をかける」

――橋の真ん中で見つめ合っていると注目され過ぎるな、こちらへ……――

「ああ……」

 ケルベロスはゆっくりと歩き出した。上野公園の方に進めば落ち着いて話せるからだろう。欄干に頬杖ついて涙声になっては、さすがに目立つ。

 あれ、似たような二人組が……?

「ブ、ブリンダ!?」

「「お、おまえたち!?」」

 
 それは、わたしたち同様にタソガレていたブリンダと、モテカワ美少女に擬態していた使い魔のガーゴイルだった。

 

 
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