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003『渡辺真智香の復活』
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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ
003『渡辺真智香の復活』
おさおさ怠りは無いはずだった。
七十三年ぶりの復活。
復活するにあたっては条件を出してある。
普通の女学生をやらせて欲しい。
魔王は「そうさせてやりたいんだが……」と奥歯にものの挟まった言い方をした。
魔王というのは渾身ハッタリで生きているようなところがあって、こういう時にも視線を逸らしたり、顔を背けたりはしない。自分の不手際であっても――それは魔法少女たる、お前次第だ――という責任転嫁をする。
咎め立てていてはチャンスが逃げて行ってしまいそうなので大人しくケルベロスの車に乗った。
あ、ケルベロスってのは魔王の秘書というか世話係。
伝説では双頭の犬ということになっているが、年齢不詳の男。オッサンの時もあるしニイチャンの時もある、どうかすると少年のナリをしていることもある。ま、魔界の事はボチボチと。
復活が許されたのは日暮里にある都立日暮里高校。
通称ポリコウ。偏差値55という平凡な学校。平穏な女学生の生活を送るにはちょうどいいステージなんだろうけど。
日暮里というのが気になる。
東京の山の手がストンと落ちて関東平野が広がる境目に当たる。
なんだか境目とか結界をイメージさせる。
じっさい日暮里駅の構内には荒川区と台東区の境界があったりする。
ほかに、駅前の太田道灌の銅像などにイワクを感じるのだが、普通の生活を目指すので詮索はしない。
クラスは二年B組だ。
ガラス窓から降り注ぐ早春の陽光にくるまれて、左手にブェルレーヌの文庫本、右手に箸を持ってお弁当を頂く。
昭和十七年、学習院の春、級友の女生徒たちと机を囲んで以来の事。
つい気が緩んだのだろう、陽光とヴェェルレーヌの明るさに、つい無意識に魔法とも言えぬ技を使ってしまった。
仕方がない、ヴェルレーヌの言葉は春の木漏れ日のように調子がいいのだ。教室に残っている弁当組は、みな二三人で机を囲み、自分たちの取り留めもない談笑に余念がない。
うかつだった。
食堂利用者と分類されていた要海友里が息せき切って戻ってきて、自分の弁当を取り出したところで、浮遊する弁当のおかずを目撃してしまったのだ。普通に箸を使って食べていたのだが、ついヴェルレーヌに熱中し魔界の食べ方をしてしまっていた。
え? ええ!?
一瞬遅れておかずを弁当箱に戻したのだが、友里は息をのんで驚いている。わたしのことを気に留めない級友たちも友里に注目する。
「あ、要海さんもお弁当なんだ」
「は、はいいい!」
友里は頭のてっぺんから声を出した。
「よかったら、いっしょに食べない?」
友人として取り込まざるを得なくなった。
講師の安倍晴美もそうだ。
まんべんなく刷り込んでおいた疑似記憶が、こいつには効いていなかった。
五時間目の授業に来た彼女は――窓際の席が一つ多い上に見たことのない生徒が座っている――と見抜いてしまった。
放置しておくと「あんた誰?」と聞きそうになっているので正直焦った。
運よく授業が遅れそうだったので、彼女は深入りしてこなかった。
すぐに彼女のノートを書き換えて事なきを得た。まあ、今週末には期限の切れる非常勤講師、放っておいてもいいだろう。
わたし、元魔法少女渡辺真智香が復活した。普通の女学生として、いや、今は女子高生というのか。
とにかく、二度と戦わないと不戦の誓いを心に刻んだんだからね。
003『渡辺真智香の復活』
おさおさ怠りは無いはずだった。
七十三年ぶりの復活。
復活するにあたっては条件を出してある。
普通の女学生をやらせて欲しい。
魔王は「そうさせてやりたいんだが……」と奥歯にものの挟まった言い方をした。
魔王というのは渾身ハッタリで生きているようなところがあって、こういう時にも視線を逸らしたり、顔を背けたりはしない。自分の不手際であっても――それは魔法少女たる、お前次第だ――という責任転嫁をする。
咎め立てていてはチャンスが逃げて行ってしまいそうなので大人しくケルベロスの車に乗った。
あ、ケルベロスってのは魔王の秘書というか世話係。
伝説では双頭の犬ということになっているが、年齢不詳の男。オッサンの時もあるしニイチャンの時もある、どうかすると少年のナリをしていることもある。ま、魔界の事はボチボチと。
復活が許されたのは日暮里にある都立日暮里高校。
通称ポリコウ。偏差値55という平凡な学校。平穏な女学生の生活を送るにはちょうどいいステージなんだろうけど。
日暮里というのが気になる。
東京の山の手がストンと落ちて関東平野が広がる境目に当たる。
なんだか境目とか結界をイメージさせる。
じっさい日暮里駅の構内には荒川区と台東区の境界があったりする。
ほかに、駅前の太田道灌の銅像などにイワクを感じるのだが、普通の生活を目指すので詮索はしない。
クラスは二年B組だ。
ガラス窓から降り注ぐ早春の陽光にくるまれて、左手にブェルレーヌの文庫本、右手に箸を持ってお弁当を頂く。
昭和十七年、学習院の春、級友の女生徒たちと机を囲んで以来の事。
つい気が緩んだのだろう、陽光とヴェェルレーヌの明るさに、つい無意識に魔法とも言えぬ技を使ってしまった。
仕方がない、ヴェルレーヌの言葉は春の木漏れ日のように調子がいいのだ。教室に残っている弁当組は、みな二三人で机を囲み、自分たちの取り留めもない談笑に余念がない。
うかつだった。
食堂利用者と分類されていた要海友里が息せき切って戻ってきて、自分の弁当を取り出したところで、浮遊する弁当のおかずを目撃してしまったのだ。普通に箸を使って食べていたのだが、ついヴェルレーヌに熱中し魔界の食べ方をしてしまっていた。
え? ええ!?
一瞬遅れておかずを弁当箱に戻したのだが、友里は息をのんで驚いている。わたしのことを気に留めない級友たちも友里に注目する。
「あ、要海さんもお弁当なんだ」
「は、はいいい!」
友里は頭のてっぺんから声を出した。
「よかったら、いっしょに食べない?」
友人として取り込まざるを得なくなった。
講師の安倍晴美もそうだ。
まんべんなく刷り込んでおいた疑似記憶が、こいつには効いていなかった。
五時間目の授業に来た彼女は――窓際の席が一つ多い上に見たことのない生徒が座っている――と見抜いてしまった。
放置しておくと「あんた誰?」と聞きそうになっているので正直焦った。
運よく授業が遅れそうだったので、彼女は深入りしてこなかった。
すぐに彼女のノートを書き換えて事なきを得た。まあ、今週末には期限の切れる非常勤講師、放っておいてもいいだろう。
わたし、元魔法少女渡辺真智香が復活した。普通の女学生として、いや、今は女子高生というのか。
とにかく、二度と戦わないと不戦の誓いを心に刻んだんだからね。
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