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49『アルバムのその子たち』

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真夏ダイアリー

49『アルバムのその子たち』    



 画像を検索してみると……それがあった。

 福島県のH小学校の同窓会……と言っても校舎はない。

 ほとんど原っぱになってしまった運動場の片隅に「H小学校跡」という石碑。そして草原の運動場での集合写真。野村信之介さんは、ブログの写真と同じ顔なのですぐに分かった。
 会長が、グラサンを外して写っていた。仕事中や事務所では見せない素顔が、そこにはあった。

 そして、小高い丘の運動場の縁は、あらかた津波に削られていた。

でも、その一角、デベソのように張り出したところに連理の桜があった。削られた崖に根の半分をあらわにし、傾き、支え合って二本の桜が重なり、重なった枝がくっついていた。崖にあらわになった根っこも、絡み合い、くっついて一本の桜になろうとしていた。

 そのさりげない写真があるだけで、コメントはいっさい無かった。

 でも、『二本の桜』のモチーフがこれなのはよく分かった。

 でも、照れなのか、あざといと思われるのを嫌ってか、会長は乃木坂高校の古い記事から同じ連理の桜を見つけて、それに仮託した。

「会長さんも、やるもんねえ」

 お母さんが、後ろから覗き込んで言った。

「真夏でも発見できたんだ。きっとマスコミが突き止めて、話題にすることを狙ったのよね。さすが、HIKARIプロの会長だわ」
「ちがうよ、そんなのと!」

 わたしは、大切な宝石が泥まみれにされたような気になった。

 そして、気づいた。仁和さんが見せてくれた幻。幻の中の少女たち。仁和さんは「みんな空襲で亡くなった」と言っていた。わたしは、その子達を確かめなくてはならないと思った。

「え、これ全部見るのかよ!?」
「うそでしょ……」

 省吾と玉男がグチった。

「全部じゃないわよ。多分昭和16年の入学生」
「どうして、分かるの?」

 ゆいちゃんが首を傾げる。この子はほんとうに可愛い。省吾にはモッタイナイ……って、ヤキモチなんかじゃないからね!

 わたしは、お仲間に頼んで、図書館にある昔の写真集を漁っていた。

 ヒントはメガネのお下げ……ゲ、こんなにいる。どこのクラスも半分はお下げで、そのまた半分はメガネをかけている。
 でも、五分ほどで分かった。ピンと来たというか、オーラを感じた。いっしょの列の子たちは、あのとき、いっしょにいた子たちだ。
 
 杉井米子

 写真の下の方に、名前が載っていた。両脇は酒井純子と前田和子とあった。

 三人とも緊張はしているけど、とても期待に満ちた十三歳だ。わたしたちに似たところと、違ったところを同時に感じた。

 どう違うって……う~ん うまく言えない。

「この子達、試合前の運動部員みたいだね」

 由香が、ポツンと言った。そうだ、この子達は、人生の密度が、わたし達と違うんだ……。

「ねえ、こんなのがあるよ」

 玉男が、古い帳簿みたいなのを探してきた。


 乃木坂高等女学校戦争被災者名簿


 帳簿には、そう書かれていた。わたしは胸が詰まりそうになりながら、そのページをめくった。

 そして見つけた。

 昭和二十年三月十日被災者……そこに、三人の名前があった。

「どうして、真夏、この子達にこだわるの?」

 由香が質問してきた。まさか、この子達が生きていたところを見たとは言えない。

「うん……今度の曲のイメージが欲しくって」
「で、この子達?」
「うん、この子達も三人だし、わたしたちも女子三人じゃない。なんとなく親近感」
「……そういや、この杉井米子って子、なんとなく、ゆいちゃんのイメージだね」
「うそ、わたし、こんなにコチコチじゃないよ」
「フフ、省吾に手紙出してたころ、こんなだったわよ」
「いやだ、玉男!」
「ハハ、ちょっと見せてみ」

 省吾が取り上げて、窓ぎわまで行って写真を見た。

「ほう……なるほど」
「でしょ!?」
「うん」

 振り返った省吾の顔は、一瞬きらめいて、引き締まっていた。

「……省吾くんて、いい男だったのね。わたしがアタックしてもよかったかなあ」
「こらあ、由香!」
「ハハ、冗談、冗談」

 しかし、冗談ではなかった……わたしには分かった。窓辺によった瞬間、省吾はタイムリープしたんだ。

 そして一年近く、向こうにいて、今帰ってきたところ。むろん本人に自覚はないけれど……。

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