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34『最初の指令・2』 

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真夏ダイアリー

34『最初の指令・2』       



「最後の通帳……?」

 オソノさんの説明が分からずに、わたしは、もう一度聞き直した。

「いいえ、最後通牒……つまり、交渉を打ち切って、戦争しますよ。というお知らせ」

「…………?」

「ちょっと、これを見て」

 オソノさんが指を動かすと、空中にスクリーンが浮かんだ。


○1941年 12月07日、13:00  

 日本の最後通牒は野村駐米大使を通じて真珠湾攻撃の30分前の13時にコーデル・ハル米国務長官に渡されることになっていた。

○12月07日、13:25  

 日本、真珠湾攻撃を開始

○12月07日、13:50  

 最後通牒の清書が日本大使館で完成。

○12月07日、14:05

 野村駐米大使と来栖特派大使、最後通牒を携え国務省に到着。

○12月07日、14:20

 二人の日本大使、15分待たされて、ハル国務長官と会見。最後通牒を手渡す。

「自分の公職生活50年の間、いまだかつて、このような恥ずべき偽りと歪曲とに充たされた文書を見たことがない」と、ハル国務長官に言われ、以後、日本は「スネークアタック(だまし討ち)」と言われ、ルーズベルト大統領の演説で、対日交戦機運は一気に高まり、戦争に突入。以後「リメンバー、パールハーバー!」のキャッチコピーのもと、四年にわたる対日戦争が始まった。

「これ、なんですか……?」

「むかし、日本が、アメリカと戦争をした直前の事情」

「え、日本て、アメリカと戦争したんですか!?」

「こりゃ、手間かかりそうね……」


 それから、わたしはオソノさんから、その戦争についてのレクチャーをうけた。学校の授業と違って、ビジュアルな資料が多く、オソノさんの語り口もうまいので、一時間ほどで、だいたいのところは分かった。


「じゃ、アメリカは、暗号を解読して、あらかじめ知っていたんですか!?」

「そうよ、アメリカ人の心を対日戦争に向けて燃え上がらせるために、ルーズベルトさん達が、やったこと」

「で、わたしに、何をしろって?」

「予定通りの時間に、国務省に最後通牒を届けてほしいの」

 そう言って、オソノさんは、紅茶を飲み干した。まるでお隣りに回覧板をまわすような気楽さだった。

「じゃ、お願いね」

「あ、あの……」

「大丈夫、必要なものは用意してある。必要な知識や能力もインストールしといてあげるから」

「で、でも……」

「がんばってね~」

 そこで、わたしの意識はまた跳んでしまった……。

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