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20『不思議なクリスマスパーティー』

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真夏ダイアリー

20『不思議なクリスマスパーティー』    


 
 省吾の家には、シャレじゃないけど正午に集まることになっていた。

 正午前にいくと、もう四人が集まっていた。

 ホストの省吾、ゲストの玉男、柏木由香、春野うらら。

 由香とうららは緊張していた。

 無理もない、つい三日前にオトモダチになったばかり。

 わたしも、省吾と付き合いは長いけど、省吾の家に来たのは初めてだ。玉男は何度か来たことがあるのだろうか、自分の家のようにリラックスし、なんとエプロン掛けながら省吾のお父さんのお手伝い。

「すまんなあ、玉男君。大したことは出来んが量だけは多いものでなあ」

 作務衣姿のお父さんが、玉男といっしょに料理を運んでいる。

「いいえ、いい勉強になります」

「玉男、ずっと手伝ってたの?」

「うん、蕎麦打ちと天ぷらだって聞いて、朝からお手伝い」

「言ってくれたら、わたしたちも手伝ったのに。ねえ」

 由香とうららは、ちょっと困ったような笑顔で応えた。

「なんか、とっても本格的で、わたしたちなんかじゃ役に立ちそうにないんで……中村クンは、なんだか、もうプロって感じ」

 そう言って、食器なんかを並べる役に徹している。

「いや、玉男君が是非にって言うもんだから手伝ってもらったんだけどね、蕎麦打ちも、天ぷら揚げるのも、なかなか大した腕だよ」

 こんなイキイキした玉男を見るのは初めてだった。

「オレも、タマゲタよ。オヤジはお袋にも手伝わせないんだぜ」

「一目見て筋がいいのは分かったからね。渡りに船だったよ。蕎麦の打ち方は信州蕎麦だとわかったけど、なんで、こんなに上手いのか聞いても内緒だった」

「おじさんだって、内緒なんですもん。お互い職人は手の内は明かしません」

「はは、わたしのは、ただの趣味だから。まあ、クリスマスには似つかわしくないメニューだけど、ゆっくりやってくれたまえ。といっても蕎麦は、すぐに食べなきゃ、味も腰も落ちてしまうからね」

「じゃ、天蕎麦ってことで」

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 五人の声が揃った。

 ズルズル~とお蕎麦。パリパリと江戸前の天ぷら。天ぷらは冷めないように、ヒーターの上に乗せられていた。その間に、蕎麦掻きや蕎麦寿司、茶碗蒸しなんかが運ばれてくる。

 で、一時間ほどで、きれいにいただいちゃった。

「すまんね、わたしの趣味を押しつけたみたいで」

「いいえ、とってもおいしかったです」

 Xボックスのダンスレボリューションでもりあがり、カラオケで高揚し、GT5ではわたしの一人勝ち。

「やったー!」

 と、ガッツポーズしていると、なんだか静か……。

「あれ?」

 四人とも、座卓や、畳の上で寝てしまっていた。窓の外はいつのまにか雪になっている。

「そろそろいいかなあ」

 省吾のお父さんが入ってきた。

「真夏さん、あなたを見込んで頼みがある……」

 おじさんが、かしこまって正座した……ところで意識が飛んだ。


 グワー、ガッシャンガッシャンというクラッシュの音で目が覚めた。


「バカだなあ、真夏、運転しながら寝てらあ」

「あはは……」

 みんなに笑われた。

「お父さんは?」

「オヤジなら出かけたじゃんか」

「え……」

「それにしても、良く降るなあ……」

 雪だけは、さっきと同じように降り続けていた。

「なんだか、こうやって降る雪見てると、雪が降ってるんじゃなくて、この部屋がエレベーターみたいに上に昇っているような感じがするわ」

 うららが、そう言うと、なんだか妙な浮揚感がした。

「ほんとだ、なんだかディズニーランドのアトラクションみたい……」

 由香が続けた。

「じゃあ、このファンタジーなムードの中でプレゼントの交換やろうか」

 みんなが300円のプレゼントを出して、省吾が番号のシールを貼った。

「どうやって決めるの?」

「くじびき」

 省吾があっさりと言った。

「でも、それだったら自分のが当たっちゃうかもしれないじゃん」

「それは、それでいいじゃん。それも運のうち。どうしても気に入らなかったら、交換ということで」

 で、クジを引いた。四人は、それぞれ他の人のが当たったけど、わたしは自分のを引いてしまった。

 そう、あのラピスラズリのサイコロ(PSYCHOLOという微妙な発音はできなかった)

「なんだ、自分のが当たったの、替えたげようか?」

 玉男が縫いぐるみを撫でながら言った。

「ううん、これも運。これね、思った通りの目が出るんだよ」

「ほんと!?」

「好きな数字言って」

「じゃ、七」

「ばか、サイコロに七はないだろ」

 玉男がバカを言い省吾にポコンとされ、由香とうららが笑った。

「じゃ、六でいくね……」

 出た目は一だった。

「あれ……じゃ、もっかい。三ね」

 出た目は四だった。

「なんだ、普通のサイコロじゃないか」

「でも、買ったときは出たんだよ」

「真夏、これ、どこで買った?」

「渋谷のハチ公前」

「なんだ、路上販売か。そりゃイカサマだな」

「でも……いいよ。わたしが引いて当たったんだから」

 昨日から今日にかけての不思議を感じながら、とりあえず楽しいクリスマスパーティーは終わった……。


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