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18『潤からのTEL』

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真夏ダイアリー

18『潤からのTEL』    


  
 いろいろありそうな……でも、メデタイ冬休みが始まった!

 いつものように六時半には目が覚めてしまった。

 でも、今日から冬休みであることを思い出し、幸せな二度寝に入った。なんか枕許でお母さんがガミガミ言うのが聞こえたけど。夢うつつの中で返事。ドアが閉まる気配がして、エリカが現れた。むろん夢の中。

 エリカは、十日ほど前に買ってきたジャノメエリカってお花の精……だと思っている。なんせエリカは喋らない。花屋のオバサンが言っていた。

――花というのは、一方的に愛をくれるの。だから、受け取る側がカラカラの吸い取り紙みたいに愛がなければ、それだけ早く大量に愛をくれて、枯れるのが早い。

 エリカは、相変わらず満開の笑顔で、わたしを見つめてくれる。

「ありがとう……」

 そう言って目が覚めた。七時半……もう少し寝ていてもいいんだけども、エリカの笑顔に申し訳なくって起きてしまった。

 マンションとは名ばかりのアパートの朝の起動音がする。

 お隣の新婚さんのご主人が出かける気配。ガサゴソとかすかな音がして、ドアがしまるまで、少し長すぎるような間が空く。――新婚だから、ご主人の出勤前にキスでもしてんのかなあ……マセタ想像をしてしまう。

――じゃあ。
――いってらっしゃい!

 廊下で聞こえる新婚さんの何気な挨拶に、その熱の余韻を感じてしまう。想像力が豊かなのか、妄想なのか、自分でも判断がつきかねる。

 ただ、この名ばかりマンションが安普請であることはたしか。

 反対側のお隣さんの洗濯機が回る気配。一瞬ベランダのサッシが開いたんだろう。ワイドショーMCの元気な声がした。表の通りの通行人の気配もいつもとは違う。夏休みにも似たようなことだったと思うんだけど、年の瀬だと思うとやっぱり新鮮。夏休みは、まだ、お隣は空室で新婚さんはいなかったし……。

「オーシ!」

 朝のいろいろやったあと、少しはお母さんの役にたってあげようと、洗濯機のスイッチを入れてからベランダに出て、サッシのガラスを拭く。

 水を掛けて雑巾をかけるだけなんだけど、真っ黒になった。

 夏休みは、高校に入って初めてだったってこともあるけど、お母さんともギスギスしていて(今でも良くなった……とは言い難いけど)なんにもしなかった。

 気づくとベランダの手すりの間に蜘蛛の巣が張ってる。隅っこのほうには枯れ葉が詰まっていた。

 お母さんは、けして不精者じゃない。正式に離婚するまでは、忙しい仕事もこなしながら、家のこともちゃんとやっていた。

 やっぱ……お母さんもいっぱいいっぱいなんだ。

 すぐってわけにはいかないけれど、少しずつお母さんに寄り添っていこうと思った。

 スマホの着メロがした。

 省吾からだ。

――クリスマス、オレんちOK 12時開始。会費不要。ただし300円のプレゼント持ってくること――

 わたしたち三人組に新メンバーの柏木由香と春野うららの二人を加えてクリスマスパーティーをやることになった。

 ただ、五人の高校生が騒げる家はそんなにはない。うちなんか、床面積はもちろんのこと壁の薄さを考えれば、絶対不可。

 で、五人の中では一番セレブってことで、省吾の家が候補にあがった。で、その答えが今来たってこと。

「300円か……」

 百均じゃしょぼいし、300円ぐらいが適当と思ったんだろうけど、ちょっと選択に迷う金額……まあ、それも、オタノシミのうちと、パソコンを点けてみる。百均はよくあるけど、三百円は……あった。三百均ショップというのが、けっこうある。なるほど、こんなものまであるのか……と思っているうちに洗濯機が任務終了のサイン。

 ベランダで洗濯物を干す。最後に靴下なんかの小物を干そうとしたところで、またもやスマホの着メロ。

 今度は、メ-ルではなく電話の着メロ。

「はい、真夏」

『ごめん、朝から』

「あ、潤!?」

『ちょっと、お願いがあるの』

「え、なに?」

『二十五日、テレビに出てもらえないかなあ……』

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