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17『エヴァンゲリオン・2』

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真夏ダイアリー

17『エヴァンゲリオン・2』    



 柱の陰から、真っ赤な顔をして、同じC組の春野うららが現れた……!

 うららは、柏木由香と同じく中学は同窓。一年と二年のときは同級だった。あのころ、わたしは、まだ鈴木真夏だった。冬野になっていたら、それこそ冷やかされまくっていただろう。

 うららは、見かけによらずソフトボール部なんかに入っていて、ファーストだったかを守っていた。乃木坂にはソフボ部がないんで、今は野球部のマネージャーをやっているらしい。

「わたしは、やってないわよ」

 うららの、入試面接のような自己紹介の途中で由香が割り込んだ。

「わたしは、マネージャーみたいなカッタルイことはやらないの。ほら、うららもカッタルイ自己紹介なんか止めて、肝心なこと聞きなよ!」

「あ、あの……」

「話すときは、ちゃんと相手の目を見る!」

「わ、わたし……」

 ……と、後が続かない。

「しっかりして!」

 キャ!

 由香が、うららの背中をドンと気合を入れると、その勢いで、うららは省吾の胸にもろにぶつかった……無防備で。

 省吾は、胸の下あたりに二つの柔らかいものが当たった感触で、さすがに顔を赤くした。

「あ、ご、ごめんなさい!」

 うららは、サッと離れたが、無意識に省吾の体を押してしまった。もののハズミというのは怖いもので、ゴツンという鈍い音がして、省吾は、そのまま柱に後頭部をぶつけて気絶してしまった。

 それからは、ちょっと大ゴトになった。

 なんと……省吾は、救急車で病院に運ばれてしまったのだ。

 軽い脳震とうだったけど、打ち所が悪かったのだろう、意識が戻ったのは病院でCTを撮っている最中だった。

「動かないで」

 ナースのオネエサンに言われたけど、本人は、下足室で起こった事件の記憶がきれいにとんでいた。

「大丈夫、異常なし。タンコブができたのと、一時的な記憶喪失になってるだけ」

 お医者さんがそう言うと、うららは泣き出した。由香も責任を感じて目が赤い。

「ほんとうに、ごめんなさい」

「うららは悪くないよ。わたしが、うららのこと突き飛ばしたから」

「え……なんのこと?」

「だからあ……」

 けっきょく、わたしが一から説明することになった。

「まあ、真夏と同じ友だちってことだったら」

 頭のショックだろうか、省吾は変なこだわりもなく、うららをオトモダチの一人にした。


「くそ、やっぱ速えなあ!」

 由香の速球を空振りして、省吾がグチった。

「今のは、ほんのウォーミングアップよ。本格的な球は、これから!」

「ちょ、タンマ、ソフトみたいにアンダーで投げられると調子狂うんだ。野球として投げてくれる」

「いいわよ」

「外野下がれ、当たるとでかいぞ!」

「そんなフェイント、わたしには効かないわよ」

 由香の心にも火がついた。星飛雄馬ほどじゃないけど、由香は足を上げて投球姿勢に入った。そのとき、野次馬で見ていた数名の男子生徒が反応した。どうやらスカートの中が見えてしまったようだ。

 アヘ(”'∀'”)

 そのために由香の球にはスピードがつかなかった。そして、省吾も変なスウィングになり、大きなフライになってしまった。

 白球は、高く打ち上げられ、冬の青空に大きな弧を描いた。

 わたしたちの、三人野球は五人に増えて終業式を迎えたのだ。


 そうそう、今日は終業式だったのよ。


 化学が欠点じゃないかと心配したけど、お情けの40点。五人に増えたお仲間も欠点はだれもなし。

 え、危ないのはおまえだけだって……はい、その通りです!

 いろいろありそうな……でも、メデタイ冬休みが始まった!

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